そっと、彼の腕にできた傷跡をなぞる。いつ、何故この傷ができてしまったのかわたしははっきりと覚えている。それから暫く経った今でも消えることはない。 わたしはこの傷跡が好きだった。わたしの不注意で傷を負わせてしまったことには負い目を感じていたけど、何故かそれを見る度に彼がわたしのことを守ってくれたことを思い出して口元が緩む。決して口にすることはできなかったけど、彼に残った傷は一生わたしを忘れない。 「どうした?」 「あ、ごめん」 すぐ傍にできた新しい傷を癒すように包帯を巻いている最中だったことを忘れて思い出に浸っていた。それに首を傾げたクラウドを見て、頬に含羞の色を浮かべた。気を取り直して作業に徹していると、今度はクラウド自身がその傷跡を撫でた。その顔は懐かしんでいるようで、決してわたしに罪の意識を思い起こさせるような表情ではなかった。何故か、嬉しくなる。 「本当に危なかったな」 「…そうね」 仕上がった包帯にハサミを入れ、ちょうどいい長さで切る。端を仕舞い込んで出来たよというと、クラウドとわたしの視線がかち合った。 「ありがとう」 「どういたしまして」 わたしにはこれくらいしかできない。クラウドの力になりたいと思ってもみんなのように手助けすることもまともにできないから、せめて自分が出来る範囲で彼らの役に立ちたかった。いつだって足手纏いのわたしを笑顔で迎え入れてくれた彼らのためにも、わたしを守ってくれた彼のためにも、少しだけでも。 「俺はさ、いくら傷付いてもいいんだ」 「何言ってるの、よくないでしょ」 「いや、いいんだ。名前さえ傷付かなければ」 傷跡をなぞっていたわたしの指を、きゅっとクラウドが握った。とくんと鳴った心臓ごと掴まれたかのように苦しくなる。 「あの時は、俺も必死だった。名前が傷付くのだけはどうしても避けたくて焦った」 油断したよ、そう言って空いた手でまた傷をなぞった。そして自嘲気味に笑う。その顔を見てこの傷跡を好きだと感じた自分を責めた。嬉しい言葉をもらった筈なのに、素直に喜ぶことができない。自身を守ることも碌にできない自分を恥じ、心苦しくなった。 「名前がそんな顔をする必要ないよ」 「…でも」 ふわりと慰めるように笑顔を向ける彼に余計眉が下がる。すると彼も同じように眉が下がって困惑の表情を浮かべた。 「俺は、この傷が好きだ」 「え、」 「名前を守った勲章みたいな、そんな気がして」 馬鹿だよな。僅かに紅潮した頬を逸らし、消え入るような声で呟いた。聞き間違いでないのなら、彼は確かに好きだと言った。自分の負った傷を、残ってしまったその傷跡を。それはわたしの感じている気持ちと同じと思ってもいいのか半信半疑だったけど、少しだけ肩の荷がおりるのを感じた。彼がそんな風に思っていてくれたなんて思っていなかったから、傷跡が目に入る度に複雑な気持ちだった。愛でるように何度も撫でるその指がぴたりと止まる。そして、再び彼はわたしに視線を戻して笑った。 「俺はこれからも名前を守っていく。名前にはいつまでも俺の傍にいてほしいから」 「…クラウド」 握られた指を優しく引かれ、自然と傾いた半身に力を入れることなく彼の首元に頭を預けた。彼の両腕がわたしを包み込む。ゆっくりと頭を撫でられるのが心地良くて、瞳を閉じた。 「好きだよ名前。ずっと、言いたかった」 わたしだって、ずっと言いたかったよ。 (みいさま、リクエストありがとうございました!両片想い→両想いでしたが、こんな感じで大丈夫かな…!ケアルって傷口もぱっと消えるのかな…消えないことを祈って!←) |