あの日から、何年も時は経った。
前向きに今を生きる人にも、その日に魂を残していったようにただ流れに身を任せている人にも、同じように時は流れた。
いつしかその日が思い出に変わり、そんなこともあったなあと思える日がやってくる事は、きっと彼らにはない。残酷な現実を目の当たりにした彼らは、心のどこかでいつも背負い続ける。でも、それを背負い続けるのは決して楽なことじゃない。辛く、苦しく、重くのしかかってくることもある。けれど、それを乗り越えなければ、いつだって彼らはあの日に取り残されたままだ。

彼女は言った。あの日、確かにわたしに語りかけた。
その言葉を重荷に感じたことはない。彼女の言葉を、彼女の意志を、彼女が安心していられるように継いでいきたい。わたしの背中をすっと押してくれたことを、わたしは忘れない。

「前よりかは、大分マシになったかな」
毎週訪れる教会で、彼女に語りかける。返事はない。ないけれど、目の前に広がる花畑が、綺麗に咲き誇る花たちが、彼女の笑顔を思い出させる。この花が元気に息づいているうちは、きっとわたしはうまくやれてる。
「一昨日だったかな、クラウドが珍しくあの時のこと話してくれたんだ」
彼女にはなんでもお見通しだったかもしれないけれど、それでもわたしはこうして報告を欠かさなかった。
「吹っ切れてるみたいだったよ」
「ティファも、そんなクラウドを見て安心してた」
「バレッドたちは順調に街の再建に貢献してるし、まあユフィは相変わらずだけど」
でも、まだ心配。そうでしょ?大丈夫って思っていても、いつまで経っても目を離すことができない。
きっと世界が昔のように元通りになったとしても、消えないものがある。消しちゃいけない、大事なもの。でも、それを重いと感じてしまうのは間違い。それに気付くのはいつになるだろうか。
「あ、だからわたしがいるのか」
気付いたように笑う。
確かにわたしも悲しい気持ちや苦しい気持ちに襲われることはあるけれど、彼らがそんな気持ちになるのが一番苦しい。だから、みんながいつか心から笑えるように、わたしなりの努力をしたい。

「やっぱりここにいた」

気配に気付かなかったわたしは、突然の声に身体を震わせる。聞き覚えのある声に振り返ると、何故か呆れ顔のクラウド。
「探してたの?」
「いや、わかっていたから探したってほどではない」
「なんだ、お見通しか」
「当たり前だろ」
彼が、ふっと自信ありげに笑う。そして、花畑の前でしゃがみ込むわたしの隣まで歩み寄って、同じように腰を下ろした。一輪の花に手をやると、そこから水滴がこぼれ落ちる。それを愛おしそうに見つめる彼を見て、思わず微笑んだ。
「今日は何話してたんだ?」
「それは言えないよ。二人の秘密ですー」
「なんだ、そうか」
少し残念そうにした彼を笑う。むっとした表情を向けてくるが、それは一瞬だった。またすぐ優しい顔に戻る。
「あ、そうだ。なんでここに来たの?」
「名前、忘れたのか?今日はみんなが集まる日だろう」
「…あ!」
「馬鹿か…」
ぽんっと頭に手を置かれると、一気に羞恥心が押し寄せる。いつもはわたしが支えてあげてる気になっていたものの、たまにこうしてクラウドに上をいかれることがある。それは、とても喜ばしいことなんだけど。
「ティファが名前に料理を手伝ってほしいと言ってたから」
「クラウドは手伝わないの?」
「いや、俺はそういう類いのことは苦手だから」
「苦手って思っていつまでもやらないから克服できないんだよ」
折角のいい機会だ。クラウドも一緒に料理を手伝ってもらおう。思い立ったわたしは立ち上がり、素早くフェンリルへを足を進めた。
「もういいのか?」
「ん、また明日来る」
「そうか」

追うようにして教会を出たクラウドが、ちらりと花畑を一瞥する。どんな顔をしてそれを見つめていたのかわからなかったけど、きっと笑顔だろうと思う。キラリと、花についた水滴が太陽の光を反射する。いってらっしゃい、と言うかのように。
「いってきます」
「?」
わたしが花畑に放った言葉に首を傾げるクラウドを肘で小突き、彼にも言うように促す。
「ほら、クラウドも」
「あ、ああ。いって、くる」
何故か少しだけ照れたクラウドが、後頭部を掻く。そして、フェンリルに跨がってエンジンを起動させた。
「ちゃんと掴まってろよ」
「クラウドが安全運転すれば問題ないよ」
「いいから。行くぞ」
「ん、お願いしまーす」




時は流れる。残酷に。
けれど、その先に見える光は、着実に近付いている。そして、心の中で輝く光は消えることはない。だから生きる。だからもがく。

だから、笑う。








(青花さま、リクエストありがとうございました!エアリスの意志を継いだ彼女が仲間達を見守る設定で書かせて頂きました。少し抽象的すぎ…?)
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