5.5 なんでだろう。 すげえ、嫌な予感がした。 「せっかくだし、一緒にいてくれよ、と」 そう言って引き止めた俺の腕は、僅かに震えていたと思う。そんな俺に、ナマエの呆れたような笑顔が返ってくる。それだけで少し安心した。 「なあ、俺が戻ったらお祝いしてくれよ、と」 「なにそれ?レノならすぐ治るからお祝いするほどでもないでしょ?」 「ま、そうだけど。とにかく今度二人で一杯やろうぜ」 「そうね…」 そう言って俺から視線を逸らす彼女の様子に不安が膨らんだ。 彼女は、俺のことを本当に想ってくれているのだろうか。確かに俺が強引に付き合わせているかもしれない。それでも、それを彼女は拒まなかった。普段は笑顔で俺に話しかけてくれるし、気のせいだと思っていた。 けれど、時折彼女の見せる悲しげな表情が俺の胸を締め付ける。ナマエは何かを隠してる。俺に言えない何かを抱えて、一人で悩んでいる。 楽にしてやりたかった。 けど、聞くのが怖かった。 だから代わりにどうでもいいことで彼女を笑わせるしかなかった。それで気が休まればいいと、そう思っていた。何を抱えているのかわからない。けれど、確実にそれでナマエは苦しんでいる。何も言ってくんねえから、俺には解決できないことなんだって思う。それが上っ面の関係みたいで、やりきれなかった。 俺が傍にいることで、少しでもナマエの気が休まればいい。そう思ってナマエに近付いて、一緒の時間を過ごして。でも日に日にナマエの心は遠くなっている気がして仕方なかった。俺には何もできない。 「なあ、ナマエ」 「なに?」 「いつでも俺がいるからな、と」 「どうしたの?急に」 「ん…何となくだぞ、と」 「そう…」 だから、そんな顔をしないでくれ。 俺がずっと傍にいてやるから。 たったそれだけのことが、言えなかった。 ** 夜中に眠れずにいると、ナマエがこっそりと抜け出そうとしていた。引き止めても、すぐ戻ると言って俺の頭を撫でたナマエの笑顔は、きっとニセモノだった。けど、その行為が心地よくて俺も笑顔で返す。 戻ってくる気がしなかった。どこに行っちまうのか、見当もつかなかったがナマエはもういなくなってしまう。そんな気がしてならなかった。もしかしてと思った最悪の事態は、ぐっと胸の奥にしまい込んだ。そんなこと、信じたくもなかった。 ナマエは俺たちの、俺のものだ。 121110 |