02

それからすぐのことだった。
あることが明るみになったのだ。それは、ルーファウス神羅がアバランチの内通者であったこと。わたしは自分の危機を感じた。彼は全てを知っている。もしかしたらわたしのことも明るみになってしまうのではないかと。しかし、彼はわたしの情報は一切漏らさなかった。

それから彼は長期出張という名目の元、現場から退いた。




――わたしは、反神羅組織であるアバランチの一員だった。神羅にいたのは諜報活動のため。

諜報活動が始まったのは今から数年前のことだった。
神羅カンパニーの副社長であるルーファウス神羅は、わたしたちアバランチの内通者だった。彼は父であるプレジデント神羅を失脚させ、その権力を我が物にしようとするために、援助をする代わりにわたしたちを利用していた。

活動をするにあたり、内通者であるルーファウスの手を借りてタークスへと潜り込むことが出来た。わたしが諜報員と悟られぬよう、また、彼自身が内通者であることが知られぬよう、わたしの任務は彼の警護とデスクワークのみとなった。

わたしが諜報活動を始めると、アバランチの活動は今まで以上に活発化した。しかし、それと同時にたくさんの仲間が命を落としていった。

相手は巨大組織。
反乱を起こす者がいようならば、これでもかというくらいに力を見せつけ、ねじ伏せた。
それでも、この戦いをやめることはできなかった。星の命を削り続ける神羅にこの世界を牛耳られて、どれだけの犠牲と苦しみを味わったかわからない。どれだけ躓いたとしても、立ち止まるわけにはいかなかった。引き返すわけにはいかなかった。





数年の戦いの末、アバランチは壊滅状態まで追い込まれてしまった。
わたしがここにいる理由など最早なくなっていた。しかし、ルーファウスはわたしを解放する気はなかった。ルーファウスにタークスからの辞意を示すも、それはあっけなく却下され、ある選択をせざるを得なくなった。
彼はわたしにこう告げた。

"タークスとして生きるか、アバランチとして死ぬか。"

――わたしは死が怖かった。

死ぬことを恐れ、タークスという仮面を被り、生きることを決めた。仲間が聞いたら裏切り行為だと感じるだろう。でもいつかきっと、わたしにも何か出来ることはあるだろうと。そう願っていた。

たくさんの仲間を殺され、神羅を許すことはできなかった。しかし実際のところわたしには何もできなかった。一人で立ち向かうにはあまりにも大きすぎる。無謀だった。

実質囚われの身となったわたしは無力だった。死んでいるも同然。何度か命を絶とうか思い悩んだことがあった。仲間と一緒に星へ還る、きっとそうすればこの孤独や憎しみや悲しみを感じることはなくなる。けれど、わたしが生きている理由はまだきっとあるはず。命を落とすのは、この数年の間いつだっておかしくない状況下にいた。けれど、こうして生きている。
仲間の分まで生きて、いつかきっと。

アバランチの思想は消えない。反神羅意識を抱える人は大勢いる。いつかまた立ち向かえる日がきっとくる。
わたしはその日が来るのを信じて生きていくしか方法はなかった。




精神的に追い込まれていく日々が続いた。そんな中、唯一の救いは傍にレノがいたことだった。彼といることで孤独から逃げてきた。

レノはきっと、わたしのことをよく知らない。アバランチの一員であったことは勿論、わたしの心の中も。けれど、気付けば彼は傍にいた。秘密の多いわたしに何も聞かずに同じ時間を過ごしていた。

いつだったか、彼に問うたことがあった。"わたしのこと、どうして何も聞かないの?"と。するとレノは飄々とした態度でこう答えたのだ。

「女ってのは秘密が多い方がいいんだぞ、と」

あまりにもレノらしい答えに、わたしは安心した。少なくともレノは、自分の目の前にいるわたしのことを愛していてくれた。
このときばかりは、彼からの愛情を受け取ることで気持ちが安らいでいった。それもまた、ある種の利用だったのかもしれない。




アバランチとの抗争で、タークスも存続の危機に陥っていた。そうなってしまえばいいと思っていた。僅かでも敵の数を減らすことができる。タークスがなくなることは僅かながらも進歩となる。たとえ自分の命が絶たれようとも、構わなかった。

しかし、その考えはあっけなくルーファウスによって打ち砕かれ、タークスは人数こそ少なくなったものの、存続の危機を逃れた。

いつまでこの仮面を被り続ければいいのかわからない。


ほんの少しの希望でもいい。
ほんの一筋の光でもいい。

わたしを襲う絶望から救い出してほしかった。いくら決意をしたとはいえ、独りでは辛すぎる。

信念が揺らぐ。不安を抱え続けるわたしの顔にはもう笑顔はなかった。どうにかなってしまいそうだった。苦しくて、悲しくて、寂しくて。

レノがいたとはいえ、完全に孤独が消えるわけではなかった。こうなった今、わたしの本当の姿が隠し通せる自信もなかった。そうなれば、レノはわたしから離れていくだろう。その場限りの恋愛ごっこを続けることはできない。彼がいなくなるのが怖いわけじゃない。本当の意味での孤独が怖かった。




全部神羅のせいだ。
なにもかも、神羅のせい。そう考えれば少しは楽にはなるかと思った。その度に、今自分がいる場所を思い出しては神羅の歯車の一つになってしまっている事実から逃げることはできなかった。




しかし、ある日。
消えかけたはずの希望が再び顔を出した。


――アバランチによる壱番魔晄炉爆破。


まだ、終わってはいなかった。

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