14

とても清々しい朝だった。今までの重く苦しい気持ちがまるでないとは言い切れないけれど、それでもわたしの中では何かが吹っ切れたようなそんな気分だった。

昨夜のことを思い出すと、心があたたかくなる。それはクラウドの笑顔がそうさせているんだとわかる。わたしはあの綺麗な笑顔に救われた。彼はきっと旅をする上で邪魔になってほしくないからあんな話をしたのだろうけど、それでも嬉しかった。少しでもわたしのことを考えてくれたのかなと。

「あ、ナマエ!おはよっ」
「おはようエアリス。早いね」
「うん。あれ、ナマエ」
「なに?」
んん?とわたしをまじまじと見つめてくるエアリス。なんでそんなに見つめてくるのかわからず少しだけ焦る。顔になんかついてる、とか?首を傾げるわたしを見て、エアリスはにこっと笑った。
「重いもの、少し軽くなったみたいだね」
「え?」
「そんな顔してるよ?」
ふふ、と口に手を当てて笑われる。そんなに顔に出ていたのかな。

「ああ、もういたのか」
「あ、クラウドおっそーい!その髪に何時間掛けてるわけ?」
「ばっ…違う」
赤面して否定するクラウドが意外だった。もしかしたらほんとうにそれで時間がかかったのかもしれないけど、全力で否定するクラウドの表情があまりにもわたしの抱いていた印象とはかけ離れていて笑った。くすくすと笑うエアリスにやれやれといった表情を向ける彼。そんなやり取りを微笑ましく見ていたら、クラウドと目が合った。あ、なんか――。
「おはよう、ナマエ」
「あ、うん、おはよう」
少しだけ動揺した。ふわりと緩む口元に、優しい声に。つい、見つめてしまった。気持ちを奪われるような感覚が訪れる。そしてぼうっと彼を見つめていると、急に顔を背けられてしまった。
「ナマエ?どうしたの?」
「あ、なんでもない」
どうしよう。少しだけ距離が近づいたからって浮かれてる。




それからすぐにわたしたちはコンドルフォートを後にしてジュノンへ足を早めた。さっきまでの和やかな雰囲気はクラウドからは消えていて、深刻な空気が彼の周りを包む。そうだ、わたしたちはセフィロスを追っているんだ。この旅はわたし中心に回っているわけじゃない。みんなの大事な思いがたくさん込められていることを忘れちゃいけない。

森を抜ければ間も無くジュノンだ。そこに、セフィロスがいるかもしれない。そう考えると少しずつ緊張で胸が苦しくなってきた。一体どんな人なのかは見たことがないのでわからない。でも、彼の業績や目の当たりにしたあのプレジデントの有様を見て脅威だということに代わりはない。果たしてわたしたちはそんな人を倒すことができるのだろうか。でも、そんな不安を抱いてる暇があるなら行動しなくては。そんなことを考えてクラウドへ視線を向け――。
突然わたしたちの目の前を何かが掠めた。咄嗟にしゃがみ込み、風を切るように過ぎていった何かを追いかけるように視線を向ける。その先には大きな手裏剣のようなものが木に食い込んでいた。もしかして、今飛んできたのはあれ?

「な、なに?」
「誰だ!」
クラウドが剣を構え、見えない敵に声を上げる。いつでも切ってかかれるように足を踏み込み、彼はごくりと喉を鳴らした。彼の背後を守るようにして視線をあちこちに向ける。けれど、その姿は一向に現れない。

ざざっと木の揺れる音がした。それは先程の手裏剣が刺さった木の方向だ。はっとしてそちらを見ると、手裏剣がもうない。何、一体なんなの。

「どりゃあああ!」

突如聞こえてくる声の方向を全員で振り向く。現れたのは人間。それも、女の子。たたたっと素早くわたしたちへ近付いてくる彼女。一体何者なの、でも、そんなこと考えてる暇なんかもうない。彼女がわたしめがけて距離を縮めてくる。するとクラウドがわたしの前に出て近付いてくる女の子に向かって剣を振りかぶった。え、ちょっ、嘘!
「ぎゃあっ!」
見事に女の子は吹っ飛び、木の幹に背中を打つ。そのままずるずると地面へ落ちていき、その場に倒れ込んだ。血は出ていない。恐らく峰打ちだったのだろう。反射的に彼女へ駆け寄ろうとしたが、クラウドに腕を掴まれ阻止される。
「待て、危ない」
そう言ってクラウド自ら足を進めた。ぴくりとも動かない彼女にもしかしてと少しだけ恐怖を抱きながら見つめた。クラウドが慎重に近寄る中、わたしとエアリスは緊張で足が地面に張り付いたままだった。
おい、とクラウドがその女の子に話しかける。それでもまだ彼女は動かない。気絶してるのだろうか、それとも――。
瞬間、彼女が消えた。何が起きたのかわからず動揺するとその彼女はわたしのすぐ目の前に現れる。そして彼女はにんまりと笑った。でもその笑顔はすぐに苦痛の表情に変わり、お腹を押さえながら倒れ込んでしまう。

目の前で倒れた彼女をまじまじと見つめた。格好がかなり変わってる。まるで忍者のようだ。恐らくウータイの人間だろう。でも、そんな遠くの大陸の子ががどうしてここにいて、わたしたちを襲ってきたのだろう。エアリスが小さくだあれこの娘?とわたしに告げるも、わたしは残念ながらこの娘のことは知らない。クラウドが駆け寄り、ため息をついた。そして三人で彼女を囲むように見つめていると、今度はもぞもぞと体を起き上がらせてクラウドを睨みつけた。
「やい、このツンツン頭!もう一回、もう一回勝負だ!」
その身体で、またクラウドに挑もうというのはあまりにも無謀過ぎやしないかと見知らぬ彼女を心配する。でも、一方でクラウドは呆れた様子で剣を納め、興味ないねと呟いた。
「ムッ!」

それからクラウドと女の子がやり取りするのを傍観していた。本当に何なんだろう、この女の子。そこまで敵意があるようにも思えないのにやけに勝負にこだわるし、クラウドも適当にあしらってる。なんか、見てて和む。彼女に襲われたはずなのに、何故か憎めない。そしていつの間にか話の方向は仲間になるというわけのわからないことにまでなっていて、生返事を続けていたクラウドが頭を抱えてわたしたちの方に振り返る。

「…もういい。エアリス、ナマエ、先を急ごう」
「いいの?」
「付き合いきれない」
「え、ちょ、ちょっと……ちょっと!」
一足先を歩くクラウドを追いかけながら、彼女を振り返った。同じようにして足を進める彼女が大声を上げ続けている。なんか、可哀想な気がしてならない。
「アタシ、ユフィ!ねえちょっと聞いてる?!」
「ねえクラウド」
「いい、行こう」


それでも彼女は後をつけてくる。何だかこのまま無視をするのも気分がよくない。悪そうな子でもないし。まあ、いきなり手裏剣を投げてきたのはあれだけど。少なくとも神羅には関わっていなさそうだし、なによりもどこか気の抜けてるユフィと名乗った女の子が可愛らしく思えて。

「あの、ユフィ?」
「おお!なになに、やっぱりアタシが必要でしょ?」
「うん、まあ、それはあれだけど……。わたしはナマエ。で、あのツンツン頭はクラウドで、隣の子はエアリス」
「っおい、ナマエ」
「まあクラウド、いいじゃない。仲間は多い方が心強いし」
「でもどこの誰かもわからないやつをだな…」
呆れるクラウドを横目に、エアリスはわたしに同意見といった笑みを向けてうんうんと頷いている。
「いいんじゃない?ね、クラウド」
「はあ……」
クラウドが頭を悩ませる中、わたしたち三人は笑っていた。


ともあれ、突然現れた忍者の女の子――ユフィはわたしたちと旅を共にすることになった。道中あれこれとわたしたちの旅の目的を話し、それを聞いてるのか聞いてないのかよくわからなかったけど彼女は頷きながら終始笑顔だった。

130202
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