13 「ジュノンへ行こう」 そう言って以来クラウドは一人で先を歩いて、なんとなくそれに合わせてついていくのが気まずくて、彼の背中を追い掛けるように歩いた。 どんな些細な事でも、隠し事は良くないかな…。クラウドに関係のない事でも、言いにくい事でも、隠してしまうとそのことが気になって仕方ないし、あんな感じでなんでもないと言われたクラウドもきっと腑に落ちていないはず。洞窟に入るまでは楽しい気持ちでいたのに。急転した。 事あるごとに心配してくれるクラウドの優しさに触れて少し戸惑ったのも事実だ。わたしを見据えるその瞳は、魔晄を浴びているせいか緑色をしていて、皮肉な事にとても綺麗だった。その瞳に、わたしは吸い込まれてしまいそうになった。わたしの心が持っていかれそうになった。 だから、隠し事をすると胸が痛んだ。 「ね、ナマエ」 「ん?」 「あんまり、一人で悩むのはやめよ?」 「…一人でいる事に慣れ過ぎて、誰かに打ち明けるのってちょっと苦手かも」 「じゃあ、少しずつ、慣れてこっか」 「そうね」 「うん!わたしたち、いつでもナマエの話聞くから」 まったくどうして。 エアリスはこうもわたしのことをわかってしまうのか。 ** 洞窟を出てすぐ、目の前にそびえ立つ砦が視界に入った。頂上には古びた魔晄炉、とコンドル?興味をそそられたわたしたちはそこへ立ち寄る事にした。 入り口の男性に話を聞くと、ここでは長い間神羅の軍勢と闘っていると言う。いつ神羅が攻めてくるかわからない中、彼らはこの砦を守っているらしい。協力を頼まれ、わたしたちは二つ返事で了承した。 大喜びで中に通され、ここのリーダーだろうか、その老人の話を聞くことにした。 この砦の頂上にある魔晄炉にはなんと特別なマテリアがあって、彼らと最近やってきたというコンドルを神羅は排除しようとしている。数年に一度しか生まない卵を温めているコンドルを守るために彼らはここに留まり、その営みをわたしたちにも守ってほしいと、彼はそう告げた。 「新しい命か……」 「コンドルの卵、守らないと、ね?」 エアリスの一言にクラウドは頷いた。 話を聞いているうちにもう日が沈んでいたので、今日の所はここで休ませてもらうことになった。 「もしもし。……ティファか。セフィロスの足取りがわかった。……ああ、ジュノンだ。もしかしたら、セフィロスは海を渡る気かもしれない。……そうだな、一度ジュノンで合流しよう。そうだ、タークスの連中がうろついていたからバレットに慎重になるように伝えておいてくれ。……ナマエ?……あ、ああ、平気そうだ。……わかった、じゃあな」 一段落したクラウドが後を追うティファたちに連絡を入れた。わたしの名前を呼ばれたことに体が反応し、PHSをしまう彼の横顔に目をやる。 「わたしがなあに?」 「いや、タークスの連中に会ったと言ったらティファが心配していた」 「あ…」 「…いいんだ。なんでもない、そうだろう?」 「う、ん」 彼の視線は別の方向を向いていて、すぐ傍にいるはずの彼が遠く感じた。 ーーちくり。 また、胸が痛む。 ** 眠れないわたしはベッドから這い出て、見張り台に来ていた。折角なので見張りの彼と代わり、そこから外を眺めていた。吹き抜ける風が頬に当たって気持ちがいい。見上げると、魔晄炉の頂上で相変わらずコンドルの羽が子を守るように卵を覆っている。その光景に見とれていた。 そんな静寂の中、梯子を上がってくる音が聞こえ、振り返ってその人物を捕らえようと視線を降ろした。 一番に見えてきたのは、金髪。 彼だった。 彼はゆっくりとわたしに歩み寄る。何も言葉を発さずに、わたしと同じように外を眺めた。 「少し、話をしないか」 視線を彼に寄越すと、彼の瞳は外を見つめたままだった。 「いいけど…」 そう言うと、クラウドが少しだけ深く息を吸い込み、視線はそのままで口を開いた。 「俺たちは、全然互いの事を知らない」 「そうね」 「でも何故か、思ってしまうんだ。ナマエの話を聞くとこうなる事を望んでいたはずなのに、ナマエの顔は浮かない顔ばかりだ。何故だろうって。本当に望んでいたなら、何故、そんな顔をするのか」 「それは…」 「言いたくないならいいんだ。俺にも、どうして出会ったばかりのナマエにこんな事を思うのかわかっていない。だから、話したくなかったら、話さなくてもいい。ただ、本当にこれでよかったのか。それだけが知りたい」 それは、これから一緒に旅をするために必要な決意。確かにわたしは揺らいでいたかもしれない。たった一つの足枷が、わたしのことを縛り付けて離さなかった。でも、このままでは彼だけでなく他の仲間にも、それだけじゃない、今までのわたしの仲間にとっても心配の種になる。そんな生半可な気持ちで続けられる旅じゃない。クラウドはきっとそのことを伝えたかったんだと思う。 あの時、クラウドたちに出会って決めた。わたしは行く。そして、彼らと一緒に星を救う。そう、心に気持ちを宿らせた。でも、そのときは逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。その現状から逃げ出すためだけに、彼らを利用していた。思い返せばそうだった。これからはそうもいかない。この中途半端な覚悟では、前に進めない。 最後に一度だけ、"彼"への気持ちを蘇らせた。確かに、好意を抱いていた。"彼"は唯一の拠り所だった。それは紛れもない事実だった。それは当時のわたし。神羅にいて、孤独に過ごしていたときのわたし。 でも、今はひとりじゃない。目の前にはクラウドがいる。エアリスがいる。ティファ、バレット、レッドXIII。わたしの新しい、仲間たち。出会ったばかりだけど、これだけはわかる。心を許せる人たちだと。本当の意味で心を開ける相手だと。だから、もう、"彼"はいなくても大丈夫。一方的に離れたわたしがこんなことを思うのはおかしいって、わかってる。 でも、もう大丈夫。今すぐに全てを消す事は出来ないけど、思い出にする事は出来る。だから、"彼"はもう過去の人になる。 「行くわ、クラウドたちと一緒に」 口に出して言うと、心が軽くなった気がした。自然と笑みが溢れる。それを見たクラウドの口元も、僅かに緩んだ。 久しぶりに交わる視線。 やっと彼がわたしを見てくれた。 「ナマエは、やっぱり笑っている方がいい」 頭を撫でるクラウドの手は、凄く優しかった。 121207 |