11

「ねえ、クラウド」
「どうした?」

みんなが部屋から出て行く中、わたしはクラウドを引き止めた。

「クラウドは…どうして生かされたんだと思う?」
「…さあ、見当もつかない」
「そう、よね」
「それを確かめるために、俺はセフィロスに会いにいく」
ぎゅっと握られた拳が視界に入った。クラウドの断片的な過去は完全なものじゃない。クラウドはその答えが知りたくて、ここにいる。
「それがどうかしたか?」
「ううん、ただ、わたしも…ルーファウスになんで生かされてるのか…」
わからなかった。
わたしも、もう一度ルーファウスに会って真実を確かめるべきなんだろう。クラウドのように。でも、それが怖くて仕方なかった。
真実を知ることが、こんなにも怖い。

「ナマエは知りたいのか?」
「知りたい…けど、怖い…」
「怖い…か。それは俺も同じだ」
「クラウドも?」
「ああ。だけど、それでも俺は知りたい。それに、そんなに怖がる必要はないだろう」
「どうして?」
「…なんとなく、だな」
「ふふ、なにそれ?」
「まあ、あれだ。とにかく、チャンスは必ずやってくる」
「そうね…」

何故だか安心した。
クラウドと不安を共有してるからかもしれない。でも、それだけじゃない気がした。
こんな風に気持ちを打ち明けられる相手がいることが、きっとわたしの心に余裕を与えてくれるのだと思う。

「ナマエ」
「なあに?」
「あんたは、そうやって笑っている方がいい…と思う」
言うだけ言って、わたしを置いて部屋を出て行ってしまった。
一人きりで残されたわたし。

わたし、笑ってた?
それに今の言葉、何?

意味を持ってないことはわかっている。というか、クラウド自身考えて言ったとは思えない。けど、男性にそんなことを言われて気にしないわけがなかった。
気持ちが少しだけ、高ぶった。


**


「チョコボ?」
「ほんとだっ!わ、かわいい〜!」

カームの住人からの情報で、黒マントの男が東へ向かったという話を聞いたので、わたしたちはそれに従った。
またも二組に分かれて行動する事にし、わたしはクラウドとエアリスの二人と先に行動を始めた。バレットたちはその間体勢を整え、わたしたちが安全を確認してから進む手はずになっている。なにかあれば出発間際にバレットに渡されたPHSで連絡を取り合う事にした。


暫く草原を歩いていると建物が見え、立ち寄ってみるとそこはどうやらチョコボファームのようだった。
エアリスがチョコボの頭を何度も撫でて頭を抱きしめる。

「ほら、ナマエも!」
「わ、わたしは遠慮しとく…」
エアリスに手を掴まれて、チョコボに触れるか触れないかのところで止まった。わたしは動物がちょっと苦手で(レッドXIIIは意志が伝わってくるから大丈夫なんだけど…)、チョコボもそのひとつだった。かわいいとは思うけど、触れない。だって、もしかしたら噛まれるかもしれない…!もうやめてエアリス…!

「この先の洞窟に向かうにはどうやらチョコボが必要みたいだ」
奥の建物から戻ってきたクラウドが、真新しいマテリアをバングルにセットしながら溜め息を漏らした。その隙にわたしはエアリスの手から逃れてクラウドに近寄った。あ、危なかった…。
「クラウド、それは?」
「ああ、さっき買わされた。これがないとどうやらチョコボが捕まえられないらしい」
2000ギルだ。そう言って彼はまた溜め息を零す。そして未だチョコボと戯れるエアリスを引き剥がして、牧場を出た。




近辺にあったチョコボの足跡を辿っていると早速何匹かチョコボが現れ、クラウドがマテリアと一緒に買った(買わされた?)野菜でいとも簡単に手なずけていた。エアリスはそれに大喜びし、またもチョコボに抱きついて意気揚々と飛び乗った。

「ほら、二人も早く〜!」
ミッドガルを出た頃は怖がっていたはずなのに、もう環境に馴染んで楽しんでる。エアリスって、本当に度胸があるというか肝が据わっているというか…感心する。楽しそうにチョコボと戯れる彼女を遠くから見て、少し動揺気味にクラウドに尋ねた。
「あの…」
「何だ?」
「もしかして、あのチョコボに乗るとか、言わないわよね?」
「そのまさかだが、問題でも?」
「い、いや別に」
「もしかしてナマエ、チョコボが苦手なのか?」
「そ、そんなことは…!」
「ふっ、無理しなくていい」
意地悪く笑う彼に少しだけ赤面した。どうしよう、絶対馬鹿にされてる!平気なふりしなきゃ、そう、平気なふり…。大丈夫よ、だってチョコボって温厚って言うし。でも小さい頃振り落とされたし…ううん、わたしはもう大人なんだからそんな事は決して…。

「ナマエ」
「え?」
「ほら、行くぞ」
いつの間にかチョコボに乗ったクラウドが、わたしに近付いてくる。後ずさりするわたしに更に近付いて、手を差し伸べてくる。え、もしかして二人乗り?
「怖いんだろ?俺の後ろに乗ってれば大丈夫だから」
「こ、怖くなんかないわよ…」
「いいから」
それでもクラウドの手を拒み続ける。まだ決心がついてない。うう、どうしよう…。
すると、急にチョコボがお辞儀するようにわたしの顔に自分の顔を近づけて、擦り寄ってきた。
「ひゃ…!」
「チョコボは、ナマエの事気に入ってるみたいだな」
また、意地悪く笑われる。ふんわりとした毛がわたしの頬を撫でてくすぐったい。チョコボに目をやると、つぶらな瞳がわたしを見ていて。
あ、やっぱりかわいい…。

「そろそろ行くぞ」
「え?わっ!」
無理矢理腕を引っ張られ、クラウドの後ろに乗せられた。その衝撃でチョコボがひとつ鳴き声を上げて、少しだけ跳ねた。
「掴まってろ、落とされないように」
「え、ええ…」
控えめにクラウドの方に両手を乗せる。けど、クラウドがその手を取って自身の腰に回してきた。ちょ、ちょっと…!
「ちゃんと掴まってないと本当に落とされるぞ?」
そうしてチョコボがゆっくりと、次第に速く動き出した。チョコボに乗っている恐怖よりも、自分の腕が回っている場所が気になって仕方なかった。これじゃ自然とクラウドとくっつく事になる。でもクラウドは何にも気にしてないみたいだし…。

ちらりとクラウドの顔を見上げる。
「…あんまり見るな」
「何?何か言った?」
小さい声で何か聞こえてきた。
けど、よく聞こえなくて。
「いや、なんでもない…」
あ、まただ。
わたしがクラウドを見ると彼はよく顔を逸らす。照れてるのかな?街で慣れてないって言ってたのは、もしかしたらこういう事が慣れてないってことなのかもしれない。確かにクラウドの感じからして、そういったことに関してあんまり慣れてなさそう。でも、わたしに照れる必要なんてないのに。なんだか可愛いなあ。

「ふふっ」
「何を笑ってる」
「ん?べーつに」
からかってやろうとクラウドにぎゅっとしがみついた。すると彼が動揺してチョコボも大きく揺れる。
「…っおい、あんまりくっつくな…!」
「きゃっ!」
振り落とされないように必死にしがみついた。なんとか体勢を取り直したけど、ちょっとやり過ぎたかな…。クラウドの耳が僅かに赤くなってる。本当に初心なんだなクラウドって。

こうしていたら、さっきまでの暗い気持ちが一気に吹き飛んだ。
辛い過去も、これから起こることに対する不安も、今だけは何故か感じなかった。


ーーなんだろ。
クラウドといると楽しいかも。

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