09

わたしは小さいときからアバランチの一人として育ってきた。そんな環境もあって、もちろん神羅は大嫌いだった。言われるがままに意味もなく忌み嫌っていた頃もあったけど、実際に仲間を殺されたり、神羅が行なっている所行を目の当たりにして、その嫌悪は確実なものになっていった。
だから神羅に属する彼らに対して情が生まれたり、特別な感情を抱くことは決してないと思っていた。

けど、実際は違っていた。

演じていたとはいえ、彼らとは仲間として過ごし、その中で笑うこともあった。憎むべきは神羅そのものであって、その中にいる人間ではない。
確かに自ら望んでその中に身を置いて、わたちたちや星を苦しめてる者はいるけど、少なくともわたしの周りにいたルードやレノは、そんなことはなかった…と思う。
だから余計に辛かったし、敵や味方なんて肩書きで決めるもんじゃないんだって、自分のこの気持ちを肯定させようとした。

だけど実際にどちらとも個人的に接する者なんていないし、これはわたしにしかわからないことだって思った。

神羅を憎む気持ちは未だに変わらない。だけど彼らに対する思いは以前とは違うし、この気持ちをどう処理したらいいのかもわからなかった。


あーもう、馬鹿。こんなことを考えてる場合じゃない、わかってる、わかってるのに…。
自分で思い切り両頬を叩いた。
もうすぐでエレベーターが1階に着く。




エレベーターから見えた景色にわたしは驚いた。ビルを取り囲む大勢の神羅兵。それに応戦するバレット。エアリスとレッドXIIIが入り口付近で立ち往生している。クラウドとティファは…?ビル内部をくまなく目で追うと、展示物のある3階に二人の姿が映った。なにしてるんだろ…。


「ナマエ!」

エレベーターから下りるとすぐにエアリスの声が飛んできた。バレットがビル内部へと戻ってきて、舌打ちをする。
「くそ、キリがねえ!」
「ねえナマエ、クラウドとティファは…?」
「さっき下りてくる時、上の階で見かけたわ。呼んでくるね」
「うん、早くしないと…」
不安そうにするエアリスに頷いて、わたしは走った。

急いでクラウドたちのいる3階へ向かった。そこではなにやら話し合っている二人がいて。
「どうしたの?」
「ナマエ!よかった…大丈夫?」
「…ええ。ありがとう。それより、入り口はたくさんの兵で塞がれてて…」
「ナマエ、あれは使えるのか?」
クラウドが展示物のバイクに目をやる。
「一応本物を展示してあるから。そんなに燃料は入ってないと思うけど」
「…よし。ナマエとティファは先にみんなのところへ」
「うん、わかった!」
「クラウド、なにするの?」
「こうなったら強行突破だ」
彼の言葉に意味もわからない状態だったが、急いでティファの後を追いかけた。
「ねえティファ、どうするの?」
「あれに乗って、逃げるの!」
「あれに?」
「そう!」
階段を下りて見えてくる三輪トラックを指差して、ティファが言う。本当に強行突破をするみたいね。


入り口で立ち往生しているメンバーを呼び、階段を上がって三輪トラックに乗り込んだ。その時、轟音と共にクラウドがバイクに跨がってやってくる。
「みんな、俺についてきてくれ」
「おいおい、なにするってんだ?」
「ついてくればわかる。しっかり掴まってないと落とされるからな」
そう言って、クラウドがエンジンをふかして階段を駆け上がっていった。ティファの運転するトラックの荷台に乗り込んだわたしたちはしっかり掴まってクラウドの後を追う。
「ちょっと待てよ、まさか…」
バレットの声とともにクラウドが窓ガラスを破る大きな音が聞こえてくる。身を屈ませて飛び散るガラスから避けて、宙に浮く感覚とともにわたしたちはビルを後にした。

着地したのはミッドガル・ハイウェイ。
後ろからは追撃してくる大勢の神羅兵。
クラウドはわたしたちの後ろに回って敵に応戦している。その攻防はハイウェイが途切れるギリギリのところまで続き、やっとのことで敵を一掃する頃には、もう夜が明けようとしていた。


**


「もう、来なそうね」

しんと静まり返るハイウェイを見つめ、やっと振り切れたと安堵の溜め息を漏らした。途切れたハイウェイの先を見つめると、朝日が僅かに顔を覗かせている。それはまるで、わたしの、わたしたちのはじまりを告げるように。これからの未来を示すかように、綺麗に輝いていた。
こうしてビルを離れて拝む朝日がこんなにも綺麗だなんて。

再び逃げてきた道を見つめる。
真っ先に浮かんできたのは、レノの顔。それからルーファウスが放った、あの言葉。わたしの数年に渡る諜報活動の数々。
もう苦しむ必要なんてないのに、別の苦しみが押し寄せてくる。でも、確かなのはわたしが神羅から逃げ出せたこと。過去を捨て、わたしの本当の人生が始まりを迎えるということ。これからだ。これから。

「さて、どうするよ?」

バレットがクラウドに投げかける。クラウドは朝日の方へ足を踏み出し、ハイウェイの外縁に立った。それを見つめるみんなの方へと振り返る。
「…セフィロスは、生きている。俺は…あの時の決着をつけなくてはならない」
「それが、星を救うことになるんだな?」
「…おそらく、な」
"あの時"。過去にクラウドとセフィロスは確実に何かあったんだろう。それが星の危機を救うことになる。何があったにせよ、それならわたしもクラウドの手伝いをしてあげたい。できることは少ないかもしれないけど、それが星の為なら。
「おっし、俺は行くぜ!」
次々にメンバーが決意を固め、それにクラウドは頷いていく。最後に残ったのはわたしだった。みんなの視線が集まる。

「ナマエも、来るんだよな」
「ええ…。仲間の意志を継いでいきたい」
そう、わたしには彼らの意志をここで途絶えさせるわけにはいかない。どんな方法であれ、クラウドたちについていけば星を救う手助けにきっとなる。わたしはここ何年も自分で行動してこなかった。だから、今度はわたしが行動する番。




わたしたちはハイウェイを下りて、ミッドガルのゲート前に辿り着いた。そこから先に広がるのは、広大な野原。

「ここから先、団体行動にはリーダーが必要だ。リーダーと言えば俺しかいねえ」
「そうかしら…」
「どう考えてもクラウド、よね」
女性陣の否定にバレットが舌打ちする。その光景がなんだか面白くてつい笑ってしまった。
「笑ったな」
「え?」
腕を組んだクラウドがわたしに向けて、少し意地悪く笑っている。
「ナマエ、ずっと暗い顔をしていたから」
「そうね…」
確かに、彼らに会ってからは色々と考えさせられるばかりで、笑ってる余裕なんてなかった。そもそも、ここ数年、笑うこともあんまり多くなかった気がする。それが彼らと一緒になった途端、心が解放されて。
「さっきのタークスの件は、聞かない方がいいか?」
「そんなことはないわ。けど…」
「…まあいい。俺たちにできることなら協力はする。だからナマエは一人で抱え込むな」
「ええ、ありがとう…」
人の優しさに触れるのは、久しぶりだったようにも思える。彼らといれば、わたしもいつかは救われるかな。

「仕方ねえからリーダーはクラウド、お前に任せる。それと、大勢で野っ原を歩くのは危険だから2組に分かれて行動しようぜ。ここから北東にカームって街がある。そこで合流しようぜ」
「そうだな…じゃあ…」
「お前らは一緒に行けよ。見た目だけだったら神羅みてえなもんだろ。それなら下っ端くらいは欺けるんじゃねえか?」
バレットがわたしとクラウドを見て言った。わたしは、自分の格好を改めて見て苦笑する。確かに、見た目だけは神羅そのものだ。クラウドもそう。街に着いたら、着替えないといけないかな。
「バレット!」
ティファが苦笑するわたしを見て彼を咎めた。悪気がないのはわかっていた。彼もそのつもりだったから、咎められるのが意外だったようで、僅かに慌てている。
「わ、悪気はねえよ!しかし、その方が都合いいだろ?エアリスも、そっちについてった方が安全だろ」
「…確かにそうだな。いいか、ナマエ」
「わたしは全然構わないけど」
「それならば、私も一緒に行こう。故郷に帰るまでの間は、一緒に行ってやる」
そう言って、レッドがわたしの傍に寄る。それはなんだか、懐いているようにも見えて。

「よし、決まりだな。ティファ、行くぞ!」
「ええ、じゃあみんなカームでね」
バレットとティファが先にここを後にした。見えなくなるまで、その後ろ姿を見つめる。
すると、隣にいたレッドXIIIが足元に擦り寄ってきて、わたしはそれを見下ろした。
「ナマエ…」
「ん?なに?レッドXIII」
「…オイ…いや、私のこと見たことはないか?」
「タークスが捕まえたとき、一度見たことはあるけど…どうして?」
「いや、覚えてないならそれでいい」
「?」
レッドXIIIが離れ、先に一人で歩みを始めてしまった。
それを見てクラウドがわたしとエアリスに目配せをして頷く。

「よし、行こうか」

こうしてわたしたちは、ミッドガルを抜け出してその先に広がる世界に飛び出した。

ここからが、本当のはじまりだ。
どれだけ長い旅になるかわからないけど、なんとしてもやり遂げてみせる。

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