07 パルマーがなにやら彼と会話している。それは簡潔に終わり、パルマーはわたしたちの間を縫うようにビルの内部へと逃げていった。 こうして対峙するのは初めてだった。今まで護衛として付き添っていた彼。わたしが必要となくなった時点でなぜ、彼はわたしを殺さなかったのか。そしてなぜここに留めておく必要があったのか。彼の真意が掴めないでいた。 会話を終えた彼がわたしたちにゆっくりと近づいてくる。かち合う視線。その瞬間、彼の口元が僅かに上がった。 「ほう…ナマエ、そいつらは何だ?」 余裕の表情にたじろぐ。 「元ソルジャー・クラス1st、クラウドだ」 「アバランチだ!」 「同じく!」 「…スラムの花売り」 「…実験サンプル」 皆が言い終えると、それぞれを見つめてルーファウスは不敵に微笑を漏らす。 「おかしな組み合わせだ。さて、私はルーファウス。この神羅カンパニーの社長だ」 「親父が死んだら早速社長か!」 「そうだ。就任の挨拶でも聞かせてやろうか」 「貴方の理想なんて聞きたくもない!」 「ふっ…随分と威勢がいいな、ナマエ」 つかつかと靴を鳴らしてルーファウスがわたしに近づいてくる。その音に自然と恐怖心が煽られ、後ずさりしたくなった。けど、ここで逃げちゃいけない。逃げたら負けてしまう。 「貴方のすきにさせない。わたしはこの人たちについていく」 「ククッ…知り合って間もないこいつらにか?果たしてお前のことを信用してもらえるとでも?」 「…っ」 言葉が出なかった。 彼が正論だったからだ。 悔しい…。 「バレット、エアリスをつれて逃げろ!本当の星の危機だ!」 「なんだそりゃ?」 「後で話す!今は俺を信じてくれ!」 「わかったぜ!」 一同がバレットに続いてヘリポートを後にする。けれど、わたしは動かなかった。目の前の金髪をただひたすら睨みつけて。 「おい、あんたも…」 「わたしは彼に話がある」 クラウドと一緒にその場を離れないわたしに気付き、エアリスが立ち止まる。 「ナマエ!」 「エアリス…また後で会いましょ」 「え、ええ…」 行くぞ!とバレットに促され、エアリスは走り出す。彼女はわたしが見えなくなるまでちらちらと視線を送り、わたしを心配そうに見てくれた。優しい、彼女は。 目の前に対峙する彼を再び見据える。今まで神羅に対して抱いていた私怨が一気に広がる。ぎり…と唇を噛んだ。握る拳にも力が自然と入る。 正直、怖かった。 もしかしたら、ここで殺されるかもしれない。 それでも、彼と話をしなくてはならなかった。そんなわたしの様子が彼にとっては滑稽だったのかもしれない。くすりと笑い、わたしを睨みつける。 「さて、ナマエ。お前は本当に我々神羅を裏切って、そいつらについていくつもりなのかね?」 「裏切るも何も…わかってるくせによくもそんなことが言えるわね!」 「おや、私はてっきりアバランチに嫌気がさして自らタークスを志願したのかと思ったが」 「馬鹿なこと言わないで!わたしがそんなこと…」 「何ができた?」 「え…」 「お前に、一体何ができた?」 「それ、は…」 「そう、お前は何もしていない。寧ろ、私たちの手伝いをしていた」 「そんなことっ…わたしはしてない!」 「ククッ…まあいい。いずれ教えてやろう。私は今、忙しい身でな」 彼は背を向けて立ち去ろうとする。 「行かせない」 一歩前に出たクラウドは、その後ろ姿に声を投げる。ぴたりと立ち止まった彼は、ゆっくりと振り返り怪訝な顔を向けた。 「クラウドさん…?」 「下がってろ」 わたしの前にクラウドが剣を構えて躍り出る。そんな様子にも微動だにしないルーファウスは、やれやれと言った様子でまたこちらに近づいてきた。 「なぜ私と戦うのだ?」 「お前は約束の地を求めて、セフィロスを追う」 「その通り…セフィロスが古代種だと知っているのか?」 「色々あってな。とにかく、約束の地はお前にもセフィロスにも渡すわけにはいかない!」 「なるほど。友達にはなれないようだな」 「初めからなるつもりなんか、ない!」 言い終わるか終わらないかでクラウドが勢い良く切り掛かると、同時にルーファウスはショットガンをクラウド目掛けて放つ。咄嗟に剣を構えて盾にするクラウド。 見ているので精一杯だった。応戦しようにも、先ほどの彼の言葉が頭から離れない。 わたしは、何もしていない…。 神羅の手伝い…? そんなことをした覚えはない。 わたしはわたしなりに戦ってきたつもりだった。 「今日の相手はここまでだ…」 上空で待機していたスキッフが近づく。強風に煽られ、彼に近づくことが困難で。ただ余裕の笑みを漏らし、スキッフに乗り込む彼の様子を見ているしかなかった。 「ナマエ、また会おう」 もう二度と会いたくなかった。彼の口からまた何か語られるのが怖い。本能的にそう感じた。でも突っかかっているものがとれなくて気持ちが悪い。 また、会わなければいけない。 「クラウドさん…大丈夫?」 「ああ…。…ナマエ」 「はい?」 「なぜあんたはタークスにいたんだ?」 「それは…」 長くなる。簡単な話じゃない。一言でも済む話かもしれないけど、信頼を得るには全てを話さないといけない。 「まあいい、みんなと合流してから聞かせてくれ」 「ええ…」 「あと、クラウドでいい。…仲間なんだろ」 視線を逸らしてクラウドが言う。その一言に驚いた。ほんの僅かしか得られていない情報の中でも、わたしのことを仲間と言ってくれた。仮にもそれが上辺だけであっても、今のわたしにとってはそれだけでも十分過ぎるくらいの言葉だった。 「わ、わかった…クラ、ウド…」 「…。みんなが心配だ。行こう」 「ええ、そうね」 それからクラウドは他の仲間と合流するまでの時間、わたしと会話をするどころか視線を合わすこともなかった。わたしも正直戸惑っていた。こんなにもうまくいくとは思っていなかったから。 目の前で走る後ろ姿を見つめ、わたしを仲間と呼んでくれたことに心の中で感謝した。 121112 |