9.5

タークスの召集が掛けられた。
レノとルードが、主任であるツォンの元へと急ぐ。

「…大丈夫か」
「ああ…くそ、ナマエの野郎…」

歩く度に傷が痛む。ただ、レノにとっての痛みはそれだけではなかった。心臓がえぐられたように、胸の奥が苦しくてたまらなかった。

目の前で彼女が消えた。何をしてでも守り通そうと決めていた彼女が。


**


「主任、そいつは?」
ツォンの隣にぎこちなく立つ金髪の女が目に入った。格好からして同じタークスだが、レノたちには見覚えのない人物だった。
「今日付けでタークスに配属された、イリーナです!よろしくお願いします!」
がばっと勢い良くお辞儀をしたその女は、イリーナというらしい。今の自分たちの空気には似つかわしくないくらい元気だ。
「レノがこうなった今、タークスは人手不足だ。そのため、イリーナの配属が決定された」
「なっ…主任!俺なら全然やれますよ、と」
「果たしてそうか?」
ツォンがレノに近付き、ぐっとレノの腹部を押す。するとレノが苦痛の表情を浮かべたツォンは呆れた表情を見せた。
「ナマエにやられたそうだな。…まったくあいつは何を考えているのか」
「…ナマエ。主任、ナマエは今どこに…!」
「あいつはアバランチに誘拐された。先ほど社長からナマエを取り返してくるようにと命じられたところだ」
「だったら俺も…!」
「いや、お前は外れろ。傷のことだけで言っているわけではない。少し冷静になってから任務に加われ」
「…くそ!」
レノは傍にあったデスクに思い切り八つ当たりした。その行為が傷に響き、踞る。
「…レノ」
「触んな、平気だこれくらい」
立ち上がらせようとするルードの手を思い切り払って自分で立ち上がる。ただ、思うように立っていれずデスクに体を預けた。

「しかし最重要事項は、セフィロスを追うことだ」
「セフィロス…?」
「そうだ」
古代種の女の次はセフィロス。
セフィロスだの約束の地だの、そんなことはどうでもいい。今はとりあえずナマエをあいつらから取り戻したくて仕方ない。自分のふがいなさに、レノは腹が立つ一方だった。

「…レノ、とりあえず俺たちに任せろ。後で合流しよう」
「そうです!ナマエ先輩とセフィロスのことはアタシたちに任せて、レノ先輩はゆっくり休んでいてください!」
「…うるせえ女だな、と」
レノがイリーナに怪訝な表情を向けると、彼女はびくっと体を震わせた。しかし実際、この新人の方が今の自分より役に立つのは明らかだった。それが悔しくて仕方なかった。




全員が任務へ出ていき、一人残されたレノは途方に暮れていた。

「…ナマエ」



本当に誘拐されたのか?
ナマエならあんな奴ら、っつっても俺がこんなんになったんだからナマエじゃ無理か。

でもなんで。大人しくついていく必要なんてないだろ。

そもそも、ナマエが俺の傍を離れなければこうなることはなかったはずだ。何故離れた。ナマエの、自分の意志で俺たちから離れていったとしか思えない。考えたくもないが、そう考えてしまう。ナマエの行動、ナマエの表情、ナマエの言葉…。思い返せば、あいつらが壱番魔晄炉を爆破した時からどうもナマエの様子がおかしかった。

もしかしたらナマエは…。

いや、待てよ。それならなんで社長はナマエをずっと傍に置いた?何故タークスに入れた?

くそ…なんなんだよ、わけわかんねえぞ、と。けど、そんなもん俺には関係ねえ。


何が何でも、ぜってー取り返す。

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