学園の廊下で後ろ姿のピンクを見つけた。

「おはよ廉造」
「おはよーさん…って今!」

朝から元気のいい男だ。目をキラキラと輝かせてわたしを見つめる志摩は流石に鬱陶しい。

「なに」
「や、なんでも…くぅぅぅ!!」

悶える志摩を、擦れ違う生徒たちがちらちらと見てくる。はあとため息をついて、わたしは照れを抑え込んだ。

「ちょっと、大袈裟すぎる」
「や、だって名前ちゃ、名前が廉造って!それ、やめんでな?」
「うん、わかったから落ち着いて」
「や〜朝からハッピーやわ〜」

わたしの言うことも聞かず、軽快なステップを踏んで歩く志摩。名前一つでこんなにも喜んでくれるとは思ってなかった。そんな様子の志摩を見て、わたしも少し嬉しかった。

「じゃあ、また後でね」
「え?ああ、俺らクラス違うんやった」

なんでやろなあ、と残念がるのを見て笑った。放課後会えるからいいじゃないと言えばすぐに笑って、そやな!と言う。そしてそのまま自分のクラスへ向かう志摩を見送り、教室に入ろうとした。が、志摩が金縛りにでもあったかのように動かなくなり、そしてそのままくるりとわたしの方を見て。その様子に首を傾げていると、にんまりとした志摩から大声が飛んできた。

「名前!今日もお昼!」

また他の生徒の注目を浴びた。でも、前にお昼を誘われた時とは違う気持ちがやってきて、視線は気にも留めなかった。

「いいよー」

にっと笑った志摩が踵を返して去っていく。その足取りはさっきよりも更に軽やかで。

なんだろう、昨日といい今日といい。


――ドキドキする。




(なんや志摩、朝からきっしょいな)
(え?坊今何て言うた〜?)
(あかん、志摩さんが壊れてもうた)
(子猫さんも彼女できたらわかりますて〜)
((…きしょい))

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