「名前ちゃん、」 「なに、志摩」 「その"志摩"っての、やめへん?」 「なんで?」 ぽかんとするわたしを見て、照れ隠しで頬を掻く。ちら、と上目遣いのようにしてわたしを見つめる志摩は、まるで母親におねだりする前の子供のようだった。 「一応付き合っとるんやし、なんやその、いつまでも他人行儀みたいなんは嫌やなあと」 ――か、可愛い。 どうしよう、物凄く可愛いとか思ってしまった。撫でてよしよししたくなっちゃうくらいに萌えた。志摩ってこんなんだったっけ? 「って、名前ちゃん、聞いとる?」 「ぅえ?!き、聞いてるよ!」 「はは、聞いてなかったやろ〜」 まあええわ、そう言って志摩が両手を首の後ろで組んで歩き出す。 こんな距離で、聞いてないわけないでしょ。 「馬鹿廉造」 「あ、馬鹿って言った方が馬鹿なん――」 そう言った途端、暫く黙り込んでしまった。んん?と眉間に皺を寄せて腕を組んで考える志摩を訝しげに見つめていると、急に彼の表情がこれ以上ないくらいに緩んだ。 「なあなあ名前ちゃん、もっぺん言うて」 「え、なに、志摩ってMなの?」 「阿呆!ちゃうわ、れ・ん・ぞ・う(はーと)って!」 「な、そ、そんな風に言ってないでしょ!耳おかしいんじゃないの?」 「いやいや、俺にはちゃあんと(はーと)まで聞こえてきたで?」 「…絶対に言わない」 言うもんか、志摩の思い通りになんていかせるものか。にやけ顏の志摩をおいてスタスタと教室に向かっていった。慌てるようにしてついてくる志摩を一切無視して、それでも嬉しそうにする志摩を視界に捕らえまいとして、正面を見据えてひたすら歩いた。 「なんや、言うてくれへんの?」 「言わないったら言わない」 「そか〜、でも、俺はこれから名前って呼ばせてもらうわ」 ぴたり。すると志摩が背中に激突してよろめく。咄嗟の判断だったのか、志摩の両手がわたしの身体を掴んだ。 「名前、大丈夫か?」 ――どきり。 志摩の手が、熱い熱い熱い。 なに、これ。 (なあ名前〜) (……) (おーい、名前〜) (無視せんといてえな、名前ってば〜) (…やっぱり呼び捨てダメ) (や、それは譲れん!) 130129 |