「廉造!」

「待って、廉造!」

なかなか追いつかなかった。でも、名前を呼んだ途端に志摩のスピードがだんだん落ちていく。そして止まった。それを見て、なんとか追いついたわたしは腕を伸ばして志摩の腕を掴んだ。

「離せやっ」

振り払われる腕。志摩の低い声。そっぽを向く顔。苦虫を潰したかのような表情。

「あー、もう、俺めっちゃかっこ悪いやん…」

何勘違いしとったんやろ…。そういう志摩が顔を覆いながらしゃがみ込む。

「あれやろ?坊と近づくために俺と仲ようしとったんやろ?名前もなかなかの悪女やなあ」
「廉造…ちゃんと聞いてよ」
「何を聞けっちゅうの?もうええやん、坊に言うたんやから俺は用無しやろ?」
「…勘違いも程々にしてよ、もう!」

一緒にしゃがんで、志摩の手を顔から引き剥がす。抵抗してなかなかできなかったけど、観念したかのように手をどかし、そこから志摩の顔が見える。
流石に泣いてはいなかったけど、凄く寂しそうな顔をしてた。それを見て、チクリと胸が痛む。

「俺な、あんなんでも結構本気やったんよ。始まりがあんなノリやったさかい、名前はきっと遊んでるんやろなあと思ってた。けどな、俺が本気にしたろ!思て積極的になってみたんよ」

「そしたらなんや名前も楽しそうにしてくれて、嬉しかった。下の名前で呼ぶようになったりして、舞い上がっとったんよ。けどなあ、なんか最近おかしかったからどうしたんやろって。したら、あれや」

「言ってなかったかもやけど、俺、名前のこと好きやったんや。他の女の子とは別の意味で、好きやったんよ。…はは、言うの遅いってのね。勇気なくて、なかなか言えんかったわ」

知らなかった。そんなこと、知らなかった。
何でもっと早く言ってくれなかったの。


違う。


何でもっと早く言わなかったんだろう。

「好きだよ廉造」
「へ?」

間の抜けた声に、真剣に言ったわたしが馬鹿のように思えてくる。でも、これだけはちゃんと言わないと。変な誤解されたまま志摩とギクシャクするのなんて嫌だ。

「わたしは勝呂なんかじゃなくて、廉造が好きなの」
「いや、でもさっき坊に好きって…」
「あれは、廉造のことどう思ってるのか聞かれて…。てか、なんであんな変なとこしか聞いてなかったのよ」

呆れてため息をつく。盗み聞き自体を咎めるべきか迷ったが、今はそんなことどうだってよかった。

「や、たまたま通りすがって名前と坊が見えて、なんや真剣な面持ちやったから気になって、近づいてみたらあれが聞こえて…なんや、俺のことやったんか。俺のことかあ。俺の――」

安心した様子の志摩が、急に顔を真っ赤にする。いつもいつも、志摩はこうして後から気付く。

「名前、ちゃん、なあ…「言わないから!」

急にキラキラするのやめてほしい。本当に子供みたい。さっきまであんなに真剣な表情だったのに、それがまるで嘘のようににんまりして。でも、志摩はこっちの表情の方が似合ってる。

「じゃあ俺が、」

急に視界が暗くなる。両肩を掴まれて、志摩の顔が近付いて、キスをされた。

「好きや、名前」

志摩の真剣な顔は嫌いだ。こんなにもドキドキさせられるから。でもたまにはそんな表情を見せてくれるのもいいかもしれない。

戻ったら出雲にちゃんと報告しよう。志摩のことが好きだって。心の底から大好きだって。そして、志摩の彼女だって自信を持って伝えよう。笑われるかな、怒られるかな。でも、そんなことはどうでもいい。だってわたしは目の前にいる志摩のことが、

「わたしも好きだよ」

素直になることがこんなにも難しいことだなんて知らなかった。けど、これからはちゃんと気持ちを伝えよう。もう志摩の悲しむ顔は見たくないから。これからはずっと彼の笑顔を見ていたいから。

きっとできるよね。不安がなくなったわたしたちに怖いものなんて、もうない筈だから。




(なあなあ、もっぺんしてええ?)
(ああもう!台無し!)
(ええやん。な、しよ?)
(……早く)
(マジで好きや名前)
(わ、わかったから、早く)
(はいはい)

130219 END
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