それから、志摩とちょっとした距離ができた。
いつものように明るく昼食の誘いをしてくることはなかったし、祓魔塾でも、隣には座ってくるものの全くこちらを見てくれない。席も僅かに離れ気味だった。

あの日、志摩が機嫌を損ねてどこかへ行ってしまった後、避けていたことを後悔した。ふわりとした笑顔が消えた理由、それは一つしか浮かばなくて。
志摩は、わたしが思っていたよりも真面目に付き合おうとしてくれていたのかもしれない。軽いノリの口調や嬉しそうに隣に座る表情、全部今までの志摩となんら変わらないと思ってた。周りの女子に目がいかなくなったことや男子と話をしていた時の志摩の変化に気付いていたのに、志摩の気持ちが全くわかってなかった。今の志摩を見るまで気付かなかったなんて。わたしはなんて言ったらいいのだろう。初めは志摩に対して適当な付き合いをしてたけど、それももしかしたら失礼な行為だったのかもしれない。好きという言葉は出てきていないけど、志摩の行動で気付くべきだった。きっと志摩はちゃんとわたしのこと好きでいてくれてた。そんな気がする。

でも、もうきっと遅い。もう駄目かもしれない。志摩はわたしに避けられてると思っているしどうやって誤解を解いたらいいのかわからない。素直に話せば信じてもらえる?でも、その勇気がわたしにはなくて。
どうしてここまで臆病なんだろう。こんなはずじゃなかったのに。

そんな時。
昼休みに勝呂がやってきて、噴水のところまで連れてこられた。神妙な面持ちの勝呂に最初話すことを拒否したけど彼は強引にわたしの腕を引っ張った。彼がこんな顔をしてわたしに会いにくる理由なんて一つしかない。だから話したくなくて。

「志摩のことや」
「…うん」
「お前、何したん?志摩が最近元気がないさかい」
「わたしは…」
「そもそも、お前、志摩のことほんまに好きなんか?なんやそれが俺は怪しゅうてしゃあないんやけど」

周りにはやっぱりそう見えてたんだ。だよね、わかるよね。でも、今のわたしは違うの。そうなった途端、志摩とはうまくいかなくなってしまったけれど。確かに今はちゃんとある。想いがここに。

「す、好きだよ」

初めて口にした。初めて志摩に対する思いを声に出した。恥ずかしくて、たまらなかった。出雲にもまだちゃんと言ってなかったのに、なんで勝呂なんかに言わなきゃいけないの。

「なんや、そーゆうことか。アホやなあ俺」

突然、噴水の裏から声が聞こえる。顔を出したのは、苦笑いをする志摩。

「そんなんなら、初めから言うてや名前」
「は、え?なに?」
「志摩、お前何言うとるんや」
「え?名前は坊のこと好きなんやろ?」
「は、誰がこんな暑苦しい奴!」
「おいいいい!お前、俺に失礼やろ!」
「うるさい馬鹿!廉造、違うんだって」
「はは、ええよええよ、お似合いやて〜」

とんっ、と噴水から降りてわたしたちを見上げる。何でそんな風に笑ってるの。何でへらへらしてるの。

「お邪魔虫はさっさと退散しますわ〜」
「ちょ、志摩!待てえて!」

小走りで志摩が立ち去ってしまう。勘違いした志摩に、わたしたちは呆気に取られて追いかけるのを忘れていた。

「はよう行けやアホが」
「アホとか言わないでよ!」
「お前はアホや!正真正銘のアホや!…ちゃんと伝えてこんとしばくぞ」
「……わかってるわよ」

勝呂の馬鹿。後で覚えてろ。
志摩も志摩で馬鹿だ。自分に都合の悪いなんか解釈して。盗み聞きするくらいなら、前の会話くらい聞いておいてよ。
もう、こんな勢いで言いたくないのに。


でも、一番馬鹿なのは自分だ。

130209
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