信じない。わたしは断固として信じない。第一おかしい。たかが100円ごときで今年の運勢がわかってしまうのなんておかしいではないか。そうだ、おかしい。そんなことだったら世の中もっとうまくいっているような気がする。だからわたしはこの紙切れを全力で破り捨てる、のは少しだけ怖いからその紙切れがたくさん結ばれているそこの高めの位置に結んだ。

「なに、お前どうだったの?」
「秘密」
「ははーん、さては凶だったな?」
「…。銀時はなんだったのよ」
わたしに偉そうに言っておきながら、この男の差し出した紙切れには「末吉」と記されていた。それに思わずにやりと笑ったわたしに対して、男は舌打ちを響かせる。
「一番冴えない感じだねそれ、よくお似合い」
「っせー、凶女には言われたかねーわ」
たく…なんでよりによって、などとわたしより少し高めの位置に結ぶ銀時は、わたしを蔑んでおきながらその結果を意外と気にしているようだった。そして更に、弁解するかのようにこんなもんはただの気休めなんだよ、朝の占いとそうかわらねーの。と、明らかな落胆を見せている。

確かにこの結果を見て悲観に暮れて一年を過ごすようなことはしないと思う。それに、きっと一週間も経てば自分がおみくじで凶を引いた事など綺麗さっぱり忘れているだろう。

でも、今のわたしはその文面を思い出す。
健康には気をつけろだとか、失せ物は出てこないだとか、恋愛は成就しないだとか。ここまで追いつめてもいいの?気にする人は物凄く気にしちゃうと思うけど、ねえいいの?と思ってしまうほどに気の利いた一言も記されていなかった。
「ね、銀時。お守り買いたい」
「あ?んなもん買ってどうすんだよ」
「や、一応、念のために…」
そう言ったら笑われた。それと同時に少し驚かれた。名前がおみくじごときにこんなにマジになるのって意外。そう言わんばかりの目を向けてくる。そこでわたしは少しだけ羞恥した。信じているわけじゃない。他人事だったらわたしも同じ事を思うだろう。でも、これはわたしに降り掛かった災難なのだ。その文字の書かれた紙切れを自分自身の手で掴み取り、目の当たりにすると、気分は一気に変わるものだ。
「金の無駄だからやめとけ」
「うーん、そうかな」
「おう、それに」
ぽん、と頭に手を乗せられる。それからわしゃわしゃと折角朝にセットした髪を撫で回して乱された。でも、気にしなかったのは目の前の銀時がやけに優しい顔をしていたからであって。
「名前がもし病気になったら看病してやるし、何か失くしたら一緒に探してやる。それに、俺がずっといんだから」
んなもんはいらねーの。わかった?
思いも寄らない言葉を聞いて、声が出なかった。代わりに、こくりと小さく頷いた。そうして満足したようにまた一度頭を撫でられる。
「だったらほら、チョコバナナ買い行くぞ」
そんな、子供のような声を上げる彼の背中を追い掛けて思った。

この男は、普段は世話が焼けるし、心配ばかり掛けさせるし、碌でもないし、本当に厄介な男だけど、人のためとなるとすんなりとこんなにも素敵な言葉や態度をくれる人。

そして、わたしにとっての大吉。

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