「あ、銀時、元気?」 「おう、元気だ…って、なんでお前、ここにっ?!」 なに、どういうことなのか銀さんに説明してごらん?なんでこいつが俺んちで茶なんて飲んでるわけ? しかも新八と神楽なんて結構打ち解けちゃってる感じだし?楽しく談笑なんてしてるし?置いてけぼりだよ?こんな状況見たらいつもは冷静沈着な銀さんだって大好きなイチゴ牛乳入ったビニール袋落としちゃうよ? 「名前さん、仕事の依頼にきたそうですよ」 「そうアル!銀ちゃん、久々の仕事ネ!腕が鳴るアル!」 へえ、依頼ね…って、さりげなく新八あいつの名前呼んだけどなにもうかなり仲良くなっちゃってる感じ?だめだめだめ!まあ、でも、とにかく… 「久しぶりに会うんだからもっと感動しやがれ」 「あ、泣いて抱きついた方がよかった?」 「あれ?名前さん、銀さんと知り合いだったんですか?」 「ま、まさか銀ちゃんの昔の女アルか?!」 おいおいおいおい、"信じらんないこんな奴と"なんて目で見てんじゃねえぞガキンチョが。まあ、色々とね、とか、名前も名前で濁してんじゃねーよ!なんもねーだろが!はっきりしなきゃ俺のメンツ丸潰れだよ? 「んな淡ーい思い出なんてこいつとはねぇよ、昔からのダチだ。まあ、なんつーか、腐れ縁だ」 「あー、よかったアル」 「よかった、じゃねえ!」 「 そうそう、誰がこんな天パと「誰が天パだ?ん?名前ちゃん?」 まあ、とにかく、なんだ、依頼しにきたんだろ?そう聞くと、名前は俺になにやら目配せしてきた。 「…あー、新八、神楽、ちょっとお前らこいつに茶菓子でも買ってこい」 「銀さん、茶菓子ならここに…「いーから。買ってこい」 いつもとは少し違うトーンの声に新八は察したのか、なんでアルか!テレビ見たいアル!と、ぶーたれる神楽を無理矢理連れて外へ出て行った。こういう空気を読むのだけはあいつ得意だなまじで。神楽1人だけだったらどんだけ苦労したことか。 「…これでいいか?名前」 「ありがと、銀時」 こいつの姿が目の前にあることも、こいつの声が耳に入ってくることも、すげー違和感を感じる。一体何年ぶりだ?憶えちゃいねえ。そもそも、なんでここがわかったんだ。 「桂に、聞いた」 「んだよ、あのヅラ。最近会ったばっかだぞ。名前のこと隠してたのか」 「わたしが言わないでってお願いしたの」 「…そのくせ今ここにいますけど?」 「ちょっと驚かしてやりたくて」 カラッとした笑いを見せる名前に呆れて何も言えなかった。昔からこいつは俺をからかうのが好きだったっけな。なんも変わっちゃいねえってことか。なんだか、安心した。 「で?なんだよ依頼って」 よっこいしょ、と向かいのソファに腰掛けて足を組む。なかなか口を開かない名前に、たくさんの疑問が頭をよぎった。何しにきたんだまじでこいつ。ちょっと困惑した様子でいると、名前はふっと笑った。相変わらずね、と微笑む。正直、その名前の表情にどきっとした。なにこれ、いつもの銀さんらしくないよ?おかしくね? 「ただ、銀時に会いたかったから…」 「そうかそうか、銀さんが恋しくて来ちゃった訳か、って、え?」 なにこの空気!凍りついちゃってるよ?氷河期ばりに凍ってるよ?どうしてくれんのこの空気!銀さんこーゆうの苦手なんですけど?!え、名前ってそんなこと言う奴だったっけ?!なんなのもうっ、助けてド○えもんっ! がしがしと頭を掻いて、よくわからないこの空気をどうにかしようと考えるが、真っ白だった。ただ、ぽんっと頭に浮かんだのは、俺も会いたかった、なんて決して言えねえようなことで。でもなんだか、こいつの目を見てたら、正直な気持ちを話さなきゃいけねえって気持ちにさせられる。なんでも、見透かされていそうなその目。やめろ、まじで。 「本当は、もっと早く会いたかったんだけど…勇気がなくて。どんな顔して会えばいいのかも、わからなかったし」 「んなもん、別に気にするような関係じゃねえだろ。第一「好き…」 …はい? 名前ちゃん、今なんつった?好き?なにを?俺はちなみに糖分とジャンプと結野アナと…って、え?好き? ちょっと待ってよ銀さんついてけてないよ? 「あのォ、名前、さん…?」 「な、なによ…」 やべー、こいつ動揺してるってことはさっきのはもしかしてもしかするとそーゆうことだよな?まじでか、まじでか!いや、あの、なんつーか、実は銀さんちょっと気付いちゃってたけど、けど!俺たちそんな間柄じゃなかったし、毎日のように仲間と一緒だったから、んな雰囲気にもなれなかったし!けど、まあ、なんつーか、その、好きなのどうなのって感じがもどかしくて結構好きだったけど?てか、俺、こいつのこと好きだったけど!だけど手ェ出したらいけねェような気がして。なんか、壊れちまいそうだったし。 あー、そうだよ怖かったよ。ヘタレ銀さんで悪かったなこんちくしょうめ。てか、誰に言ってんのかわかんねーよくそ。 「ごめん、銀時、…帰る」 「おいちょっ…待てって」 立ち上がり、玄関へ向かおうとする名前の腕を咄嗟に掴んでいた。少し曇ったような表情をこちらに向けるが、抵抗はしてこなかった。 「銀時…」 「離さねえぞ。また何年も会えねえのは嫌だし」 「…わたしに、会いたかった?」 なんてことを聞いてくるんだこの女。ズルい奴…。返事の代わりに、ぐいっと腕を引いて華奢な体を抱き締めた。思えばこんなこと、初めてだ。やっぱり、こいつはすぐに壊れちまいそうだ。 「ちょっと、銀時、どうしたの…?」 「俺だってなァ、ずっと我慢してたんだよ」 あのときからずっと、こうして名前に触れたかった。けど、そんなことしちゃいけねェって心のどっかで、そう、俺は逃げてた。護るもん作ったら失うときが怖くて、名前に触れることができなかった。けどよォ、 「誰かに護られんの、大人しく見てるのはごめんだ」 「それ、どーゆう…」 黙らせるようにして、名前の唇に自分のをそっと重ねた。ったく、なんで女はいちいち理由を聞きたがるかねえ?こーしたらわかんだろ? 「銀っ…」 戸惑う名前の頬に手を添えると、僅かに熱を帯びていた。 「あーもう、名前ちゃん、俺ダメだわ」 今まで散々苦労して我慢してたものが一気に壊れて、貪るように名前の唇を求めた。甘く切ない声が俺の脳を刺激しては、さらなる欲望を掻き立てる。力の抜けていく様子の名前を壁際に追い込んで、幾度も唇を重ね合わせた。互いにだんだんと息が荒くなっていくのがわかる。それでも俺はやめられなかった。もっと、今までの分を取り返すくらいに名前に触れていたい。 口内に舌を滑り込ませる。行き場のない名前の舌は、やがて俺のソレに触れて、絡んでくる。ぎこちない様子がなんとも愛しかった。 「ぎ、んっ…」 「っん、だよ…」 俺たちもいい大人だ。こんなことくらいで、恥ずかしがってる暇なんてない。 「会いたかった…」 「ああ、俺も…」 荒くなった息を少しでも抑えようと、名前は俺の肩に顔を埋めて、背中に回した手に力を込めた。 互いの吐息だけが聞こえる。不思議な感じだ。急に気持ちが軽くなったような感覚を覚える。あのとき伝えることができなかった後悔が一気になくなって、今こうして俺の腕の中にいる。 ぜってー離さねえぞコノヤロー。後悔しても知らねェかんな。死んでも護ってやる。こいつだけは、名前だけは、なにがあろうとも。 「名前…」 「ん、なに?」 耳元に唇を寄せて、 「好きだ」 小さく、でも確実に、初めて名前に気持ちを打ち明けた。 121230 |