どーも最近あいつが反抗的でどうしようもない。 たとえば、銀さんが丹精込めて作った朝ごはん(卵かけご飯)をいらないと言って外へ出て行ったり、部屋に入ろうとすると入ってこないで!なんて言って、しまいには銀さん立ち入り禁止の貼り紙まで貼ってあったり、洗濯物は別にして!とか、お母さん悲しいよ、つらいよ!そんな子に育てた覚えはありませんっ! 「ねえ、お父さん!何とか言ったらどうなの?!」 「いや、あの、僕お父さんじゃないんで…そもそも銀さんお母さんじゃないでしょ」 「そこはよー、よし、わしがなんとかしてやるから安心しなさい、とかなんとか威勢良く言ったはいいけど無力に終わるお父さん演じなきゃだめだろ新八くん」 「何ですかその設定…」 「っあー、何だってんだよ最近の若いもんはっ!」 がんっ!と机に勢いよく足を乗せて、イライラを表現してはみたが意外と痛かった。 「名前はきっと生理アルよ。生理のときは苛立って仕方ないネ。銀ちゃんも分かれヨ、馬鹿なヤツ」 むっしゃむっしゃ酢こんぶ食いながらデリカシーのかけらもないこと言ってんじゃねーよチャイナ、コノヤロー。って、待てよ、もしかしたらそうかもしれねえな…。いや、だからって「今お前生理なの?だから苛ついてんの?銀さん男なんだから、そこんとこ『わたし今生理ですー』って言ってくんなきゃわかんないよー?」なんて言ったらそれこそデリカシーってもんがないだろ。いやしかしそんなものわかるわけがないだろう、それならそうとこっそり教えてくれよ、気になって仕方ねーだろ。あ、もしかしてそれがあいつの作戦?俺に気にしてほしくてわざとあんな行動してる?馬鹿だなまったく。銀さんそんな子どもみたいな作戦には引っかかりませんよ?もっとこう、どストレートに感情ぶつけてこないと反応しないよ?いいの?そんなんでいいの?裏目に出てるよ?謝るなら今のうちだよ? 「銀さん、さっきからなにブツブツ言ってるんですか?」 「え、い、いや、なんでもねーし!お前には関係ねーし!」 「名前が気になって仕方ないアルね。キモイなオマエ。キモ天パ」 「天パは関係ないだろおおおおっ!そんなこと言われたら銀さん傷付くよ?こう見えてガラスのハートなんだよ?あの貼り紙だって相当ヘコんでんだからね?フォローしないと泣くぞこら」 「黙れヨ天パ」 なんなんだこいつはあああああ!!! 喧嘩売ってるとしか思えねえぞ、おい。俺の気持ちを弄んでそんなに楽しいですか、そーですか、なにこの精神的なイジメ。この悩める気持ちはまるで中学生になってニキビが出来て前髪で隠してるのにそれが逆にいじめっ子の目に止まってクラス全員の前でちゃかされてる気分だよくそ…。 「そんなに避けられてる理由が気になるなら直接名前さんに聞いてみたらいいじゃないですか 」 「なにお前、女子に向かって、今日お前生理?とか聞けるわけねえだろ!」 「いや、あの、そんな風に聞けとは言ってねーだろ」 「んだよ、なんなんだよ、なんて言ったらいいんだよ」 あー困ったよ銀さん困ったよ。 万事屋銀ちゃんでもこれはお手上げだよ。 「ただいまー」 「あ、名前帰ってきたアル」 「ちょうどいいところに!銀さん、僕たち出かけるんで、ちゃんと聞いてくださいね!」 「は?!おいちょっ…「なんだヨ眼鏡、わたしこれからレディース4の時間アル。勝手に決めンなヨっ!」 「いいから、神楽ちゃん、録画しといてあげるから…ほら!行くよ!」 明らかに神楽が俺のこと殺意丸出しで見てるんですけど、新八くん。ねえ、これ、後で俺なにされるかわかんねえよ、怖えよ。 「ただいまっと…あれ、神楽ちゃん、新八くん、何処か行くの?」 「あ、おかえりなさい!僕たちこれから夕食の買い出しに…」 「ソウアル」 「(神楽ちゃん、怒ってるけど…)あ、そうなんだ。ありがとね」 「いえいえ!じゃあ銀さん!いってきますからね!いやー、どうしようかな!悩むなー、小一時間は悩むなー」 新八…いくらなんでもわざとらしすぎやせんか?あきらかに名前が不信がってんだろ、逆効果じゃねえの? 「…」 「…」 おいおいおいおい、急に黙っちゃったよ名前ちゃん。気まずいよ、空気が完全に凍りついてるよ 。 「…着替えてくる」 「っ、おい、!」 「ぅわっ!」 部屋に戻ろうとする名前の腕を掴んだら、思いのほか力こもっちまって、なんとまあ、名前が俺の方に倒れ込んできちゃったよ。 そんなことになったら支えるしかないよね、抱きとめるしかないよね。殺される?ねえ、俺、殺される? 「あ、あの、名前、さん…」 「…っ」 後ろからだから表情わかんねえー!なになにこの感じ。抵抗しないんだけどこの子。あれ、俺、生きてる?生きてる! 「名前、さん、一つお尋ねしてもよろしいでしょうか?」 「…なに」 「今お前生…「さいっっってい!!!」 ばっちーん! ああ、そうだよね、馬鹿だったよ俺が、そりゃ喰らうよビンタの一つや二つ…いてえよ…。 「すすすすすみませんでしたっ!!」 「馬鹿じゃないの!そんなこと普通聞く?!ほんと、信じらんないっ!なんでこんな奴っ…」 あら、名前が妙に恥ずかしがってるよ?なにこの青春漫画みたいな表情。 「こんな奴…? 」 「なんでもな、「なんでもなくないだろ」 「言ってごらんよ、お母さんなんでも相談に乗るよ?娘の悩みはなんでも聞くよ?」 「誰がいつあんたの娘になったの!第一あんたお母さんじゃな「そのくだりはさっきやりましたー」 ははーん、銀さんわかっちゃったもんね、全部わかっちゃったもんね。だから名前があんな行動とってたんだな。お子ちゃまだねー、かわいいねー。 「銀さんに言ってみなさい。隠し事は禁止よっ!」 「やだ…」 「やだだと?言うことききなさい。いうこと聞かない子はお仕置きするわよっ!」 「やだったらやだ!その前にそのお母さんキャラやめてよっ!」 「はいお仕置きー、名前ちゃんお仕置きー」 確信はあった。こうすれば、もっと確実なのになる。 肩を抱いて、キスすれば… ほーら、この表情でチェックメイト。 「俺は好きだけどなー」 「ば、ばかっ…!」 そう言って部屋へ逃げて行く名前の背中には、わたしもっ!って書いてあった。わかりやすいな、ほんと。素直になれば受け止めてやるってのに。 乱暴に襖を開け閉めして、名前は姿を消した。追っかけてもいいけど、あいつから出てくるのを待ってやるか。 「…ばか」 銀時の、ばか。ズルい、こんなことするなんて! 唇に触れて、あの瞬間を思い出す。みるみる顔が熱くなっていくのがわかる。いつ、出ていけばいいのだろうか。素直になれば抱きしめてもらえるかもしれないのに。 「…やだ、できない」 負けた気がして、それができない。まだまだ子供なわたしの心。勝ち負けなんて、本当は関係ないのに。 …でも、この張り詰めた空気がなんだか心地よかったりもするのだ。 121123 |