あいつはハタチになった途端、急に煙草を吸い始めた。今でもその日を覚えている。それは、あのやろーの影響だってことも、俺は分かっている。だが、それを認めずに今まで知らないフリをしてきた。知らないフリは得意だからな。…逃げるのは、得意だ。失わないならそれも一つの正しい道だって思ってる。




今日もあいつは俺が部屋にきた途端に煙草に火を付ける。いつもそうだ。俺に会った瞬間、その行為は始まる。

「なあ、」
「なに?」
「それ、やめねーの?」
「それって?」

気にも止めずに煙を吐き出す。口に出したことはなかったが、その光景は不快で仕方なかった。煙草の煙が嫌いなんじゃねえ。煙草を吸う名前の姿を見るのが嫌いだった。

「いや、それだよ。煙草」
「ああ…って今更言う?」

半分笑いながら俺のことを見て、また煙。いい加減に、もう、俺と話してるときはやめろ。

「やめろっつってんの。体にわりーだろ」
「どうしたの銀時?何年も経ってるのにいきなり。おかしいよ?」
「おかしかねーよ」

お前だってわかってんだろ、自分がなんで吸い始めたのかも、俺がその姿見るのが嫌いだってことも、俺のことは大して好きじゃねーってことも。

「なんで俺なんだ?」
「なにそれ、意味わかんな「俺と付き合ってればいつかまたあいつに会えるとでも思ってんのか?そうだよな、現にこの前現れたしな。だったら鬼兵隊にでも入ればいーだろ、なんなら言っといてやろうかお前があいつのことすきだってこ「ちょっと、銀時、なにそれ、わたしが晋助のことすき?銀時のこと利用してるとか、馬鹿みたい」

怒ったように名前は乱暴に火を消す。違うんだったら、なんなんだよ。なんでやめろって言っても素直に聞き入れようとしない?どんだけの間一緒にいると思ってんだよ。わかるに決まってんだろ。

お前は煙草を吸う事で、高杉の面影を、心のどこかで思い浮かべてるんだろ。




「そんなんだったら、とっくに銀時の前から消えてるよ」

そう言って俺を優しく抱き締める名前が、愛しくて仕方なかった。嘘だって分かってても、気持ちが高ぶる自分がここにいた。俺も、抱きしめてやるけど、消えない、煙草の匂い。名前にしつこくまとわりついて、消えようとしない。

「すきよ、銀時」
「…ああ、俺もだよ」




そうして、名前が突然消えたのは、その日から何日も経たないときだった。

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