「なーにしてんの?」
「ん、仕事」

デスクに張り付くクラウドを抱き締める。彼の肩に顎を乗せて、彼の"仕事"とやらを覗き込んだ。地図やら帳簿が広げられていて、それに向かってクラウドは明日のルートを決めているようだった。

不意に、電話が鳴る。クラウドは出ない。暫くして彼はティファがいない事に気付いて、咳払いをした後にゆっくりとその手を受話器に伸ばした。その咳払いすら、かっこいい。

「はい、こちら…ええ、そうですが」

クラウドが敬語で話してる…めずらしい!
わたしを気にも留めずクラウドは仕事の話をしてメモを取っている。なになに、"明日15時カーム"…。なるほど、明日の15時にカームに行くのね。

「ええ、構いません、では…」

ぽちっと受話器の終話ボタンを押して、それを戻した。
クラウドが仕事の話をしているところなんて見た事なかったから、なんだか面白くて思わず笑ってしまった。

「…何笑ってるんだ」
「ふふ、べつにー」
「…また笑った」
「なんでもないですよーだ」

ちゅっと頬にキスして、にやにやとクラウドを間近で眺めた。
よく見ると、睫毛長いし肌綺麗だし…女子みたい。
また女装してくれないかなー、見たいな、クラウドの女装。

「名前、何考えてる」
「えっ、あ、別にクラウドの女装が見たいなんて…」
「ほう…そんなくだらない事を考えていたのか」
「ああっ!ち、違うのそんなことは決して」
「…やらないからな」
「わ、わかってるよ…」

なんだー、やってくれないのか…残念。
でも、絶対に似合うのに。お化粧して可愛いドレス着て、それからそれから。

「想像しただろ」
「へっ?」
「そのにやけ顔、どうにかしろ」

ぐっと頬を引っ張られて顔を歪めると、クラウドがふっと笑いを吹き出した。
思わずその笑顔に赤面して彼から離れた。
つねられたところが痛かったからか、はたまた彼の笑顔にどきっとしてしまったからか、頬が僅かに熱くなった。
彼の笑顔は、本当に世界一素敵だと思う。

「…まったく、これじゃ仕事に集中できない」
「あ、ごめん…」

そうだ、クラウドは仕事中だったんだ。
そのことを忘れて、ついつい戯れてしまった。ああ、反省。
しょげたわたしを見て、彼はまたひと笑いした。
怒ってるのかと思ったけどそうではないみたいで、少し安心した。

仕方ないな…彼はそう言ってデスクから離れて、ベッドに腰掛けた。

「おいで、名前」

ただ見つめているだけのわたしに手招きし、その手に誘われるように近付くと、彼の腕の範囲内に入ったわたしは、傾れ込むようにベッドに横たわった。

ぎしり、とベッドのスプリングが軋んで、彼の腕がわたしを跨いで。上半身だけわたしに向けた彼がにこりと微笑んだ。
上から注ぎ込まれる視線が妙に色っぽくて、思わず見入ってしまう。

「クラウド、お仕事は…?」
「名前が邪魔して出来ない」
「じゃあ、部屋戻るよ」
「それなら俺はその邪魔をする」

彼の顔が近付いて、部屋の明かりが遮られて視界が僅かに暗くなる。
瞳を閉じて自ら真っ暗闇の中に入り込んだ。すると、頬に擦れる彼の髪の毛と、唇に感じる柔らかい感触がより鮮明に感じた。冷たい彼の唇がわたしに触れる度に熱を持って、熱くなる。
伸ばした手が彼の背中に届く。服を緩く掴んで力を込めると、より近くに感じる彼の体温。

名残惜しく離れた口元が緩む。
こつんと優しく当たった額が熱い。薄目をしてクラウドの瞳を捕らえると、僅かに潤んでいる。そんな気がした。

「名前は、本当にズルい」
「ええ、何が?」
「名前とこうすると、仕事なんかどうでもよくなる」
「それは、よくないなあ…」
「でも、いつも頑張ってる分、今くらいは許されるだろ」
「あとで追い込まれるのはクラウドだよ?」
「それでもいい、今は名前とこうするのが仕事だ。というより…」
「ん?」
「こういう時間がなきゃ、仕事なんかできない」

そう言って、彼はまたわたしの唇を奪って微笑んだ。

121206
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