ああどうしよう。 クラウドが風邪を引いた。珍しく。そう、本当に珍しく。 最近寒くなってきたから、フェンリルで配達するのも大変だろうなと思っていた矢先の事だった。 いつものように目を覚ましてクラウドに緩く抱きついたら、妙に体が熱かった。不思議に思い彼の顔を見上げると、苦しそうに額に汗が滲んでいた。 慌ててベッドから飛び出して、クローゼットからタオルを取り出してキッチンに向かう。ええと、ボウルどこだっけ、ううう! どたばたと扉を開け閉めしてボウルを探す。…あった! そこに水を張って冷凍庫から氷を出してガラガラと入れた。 焦って寝室に戻って、途中水を何度か零したけどそれはもう後でいいや。今はとにかくクラウドを…! 寝室で苦しそうに唸る彼を見ながら、タオルをボウルの中に突っ込み、絞る。氷水だから手が痛くなるくらいに冷たかったけど、それどころじゃない。 絞ったタオルをクラウドの額に乗せる。うっすらと滲む汗を拭き取るように顔や首元を拭いていく。 「クラウド…」 「んん…」 彼の眉間に皺が寄る。恐る恐る手を額に当てると、わ、物凄く熱い!さっきまでとても冷たかったタオルがもう温かくなってる。再び氷水につけて、絞ったタオルを額に乗せた。 どうしよう、どうしたらいいんだろう。あ、そうだ薬!あったかな…あ、でも薬ってご飯食べてからじゃなきゃダメなんだっけ? うう、クラウドがこんなに苦しそうにしてるのに、どうしたらいいの! とりあえず薬があるかどうか確認しにいこう。もしなかったら急いで買いに行かなきゃ。こんな時にご飯食べれないよね…。ヨーグルトとかでも大丈夫かな…。 もう一度タオルを絞り直して、そっと乗せた。 離れるのは心配だけど、行かなきゃ。 クラウドから離れようとする。すると急に彼の手が伸びてわたしの腕を引っ張ってくる。その衝動で体のバランスを崩してしまい、そのままクラウドの上に倒れ込んでしまった。 「クラウド大丈夫?!」 「ああ…名前、どこ行くんだ…?」 少し息の上がったクラウドがわたしの瞳をまっすぐに見つめる。紅潮した頬に、苦しそうな表情。どきっとした。ああもう、何考えてるのわたし!クラウドがこんなに苦しんでるのに不謹慎! 「薬、家にあったか見てこようと思って」 「くすり…?」 「クラウド、すごい熱だよ…だから、薬飲まなきゃ」 「いい…」 「え?ダメだよ!」 「こうしてれば治るから」 ぎゅうっとわたしの体を抱き締めて、力なく笑う。 そんなんじゃ治らないよ…と思いつつ喜んでるわたしは本当に不謹慎だと思った。 「でもクラウド」 「名前に行ってほしくないんだ…」 掠れた声が余計にその言葉を弱々しくさせる。 苦しいときに誰かにいてほしい。わたしにだってその経験はある。だからこれ以上クラウドから離れようとすることができなかった。 「ちょっと、だけだからね?」 「ずっと、がいい…」 甘える子供のようにわたしの胸に擦り寄って、離れる気なんてなさそうだった。 困ったな…流石にずっとこうしてるわけにもいかない。 薬飲ませてあげないと、クラウドも楽にならない。行ってほしくないって気持ちはよーくわかるけど、わたしはわたしで苦しそうにしてるクラウドを見てるのはつらい。 「ねえクラウド」 彼の名前を呼ぶと、回された腕の力が篭る。 「薬、見てきちゃダメ?」 「ダメだ」 「もう…」 仕方ない、今は諦めよう。 それに…こうして甘えてくるクラウドがなんだか可愛くて嬉しくなる。 未だに苦しそうに荒くなった呼吸をするクラウドをなだめるように、頭を撫でた。嬉しそうに笑う彼。 だんだんとゆっくりになっていく呼吸を感じて、クラウドの意識が遠退いていくのがわかった。起きているよりは眠っている方がマシだろうからそのままにして、緩くなった腕を解いて布団を被せてあげる。 ごめんね、起きるまでには戻ってくるから。 熱くなった額にそっと口付けて、わたしは薬を探しに行った。 121122 |