買い物くらいなら、いいかなあって思った。 最近のクラウドは仕事詰めで忙しいから、デートらしいデートをしてなかった。それでも彼と一緒に出掛けたかったし、二人で楽しい時間を過ごしたかった。 夕食の買い出しなら時間もあまり取らないし、クラウドの邪魔にはならないかな。そう思って聞いてみたけど、わたしの淡い期待はあえなく砕けた。 まあ、本当に忙しそうだし、仕方ないかなあなんて、事務作業に励むクラウドの後ろ姿を見て思った。 ちょっと残念だけど仕方ない。 どうせ一人で行くんだから、もうちょっと後で行こうかな。 頑張るクラウドに何か入れてあげよう。そう思って、キッチンに立った。 ヤカンに水を注いで、コンロの火をつける。 傍にある椅子に腰掛けて、テーブルに突っ伏してお湯が沸くのを待つ。 そしたらだんだん眠気に襲われてきて、クラウドに差し入れをしたらお昼寝するのもいいかななんて、そう思いながら。 軽い微睡みに襲われつつ、お湯が沸くのを待つ。 すると、急にふわりとわたしの背後に違和感を感じる。 その違和感の原因はもちろんわかってる。クラウド。 嬉しくなって、わたしに回された腕を軽く撫でる。 クラウドの吐息が耳に掛かって少しくくすぐったい。そんな至近距離で彼は「で?何時に出掛けるんだ?」なんて聞いてきたからますます嬉しくなって、彼の方を見た。優しい笑顔を目の前に、わたしは幸せを感じた。 さっき断ったくせにこうして聞いてくる彼は、なんだかんだでわたしと出掛けることを楽しみにしてくれていたのかもしれない。そう思ったら愛しくて、その唇に自分のそれを重ねた。 「もう少ししたら終わるから待っててくれ」と、わたしの煎れたコーヒーを片手に頭を撫でられ、子供扱いされてるんじゃないかと思ったけど、それさえも喜びを感じて僅かに頷いた。 そうなったら、お昼寝は中止。出掛ける準備をしないと。 街をただ一緒に歩いているだけなのに、幸せでならなかった。 隣を見ると愛しの彼がいる。ただそれだけで、わたしの心は満たされた。 「クラウド、夜何が食べたい?」 「名前の作る料理だったらなんでも。一番は名前だけど」 「…ばか、明るいうちからそんなこと言っちゃダメ」 「俺は一日中名前のことほしいって思ってるけど?」 「もう!」 意地悪く笑う彼を見て恥ずかしさが込み上げてくる。 紛らわすために、彼を無視してわたしは食材を漁った。 「なあ、怒った?」 「べ、別に怒ってないけど…」 「それならよかった」 もう、そこでその笑顔は反則だって。 買い物を終えて、帰路につく。 楽しい時間はあっという間だ。とは言っても、買い出しに来ただけだから本当に時間は少なかったけど。それでもわたしは満足だった。 「ほら、名前」 クラウドの手が差し出される。わたしはなんの躊躇いもなく彼の手を握った。でも、彼の様子がなんだかおかしい。少し戸惑ったような、そんな顔をわたしに向ける。 「え?なに?」 「いや…荷物、持ってやろうと思ったんだけど…」 一気に顔の熱が上がっていくのがわかった。自惚れていた自分が少し馬鹿みたいで、物凄く恥ずかしかった。 「ご、ごめ」 慌てて握っていた手を引こうとする。けど、その手をクラウドに強く握られて、できなかった。 「いや、いい…離したくない」 そう言って彼は余っていた手を荷物の方へ伸ばして、わたしから奪う。 繋がれた手はそのままで、歩き出す。 さっきあんなに大胆なこと言ってたくせに、手を繋いだだけでこんな風になる彼が愛しくて仕方なかった。なんていうか、自惚れちゃう。愛されてるんだなあって。 「ねえクラウド」 「なんだ?」 「大好きだよ」 「…急だな」 クラウドは口に出してなくても、その仕草とか言葉からひしひしと伝わってくる。わたしはそれに応えただけだから急なんかじゃないよ。 そう言う代わりに、握っていた手がよりくっつくように指を絡めて握り直した。 本当に、幸せ。 1211119 |