「もしもーし。クラウド今どこにいるのー?いつも留守電じゃ、携帯持ってる意味ないでしょー?早く掛け直してきてください!じゃあね!」

いつもこうやって独り言で終わる。
パタンと携帯を閉じるとベッドに放り投げた。

クラウドが家を出てから何日経つだろうか。
すぐ帰ってる、なんて言うから気にしてなかったけど、送ったメールの返事は来ないし、電話をしても相手してくれるのは留守電のお姉さん。

日が経つにつれ、不安が頭をよぎる。
大丈夫かな…。
でも、考えたって無駄なんだよね。


じっとしてると嫌な方向にしか考えが浮かばないため、部屋を出て下の階で客の相手をしてるティファのところへ向かうことにした。


数人の客がテーブル席についていて、ティファがカウンター越しに話し相手になってる。

黙ったままわたしはティファの目の前のカウンターに腰掛けて、頬杖をついた。言葉よりも先にため息が漏れる。

「名前ったら、いきなりため息なんかついてどうしたの?」
「どうしたもこうしたも…あいつよあいつ!なんなのよもう!」

イライラして、つい何度もテーブルを叩いてしまった。ティファは半分飽きれた様子でわたしを宥めるように一杯のお酒を差し出してくれた。

「まあ、たまにあることじゃない。気にしない気にしない」
「だって、おかしくない?携帯持ってるのにメールの返事も電話の掛け直しもしてこない。繋がるから充電はしてるってことでしょ?もーやだ」

ゴクリと一口お酒を喉に通すと、いつもよりもほろ苦い味が口に広がる。
もしかしてティファ、強めの入れた?

「わたしも掛けてるんだけど、全く出ないね。もしかして何かあったのかな?」
「携帯が生きてるならクラウドも生きてるよ。だから余計にムカつく」
「ふふ、なんで名前はそんなに怒ってるの?」

微笑むティファを見て、言葉に詰まった。
そういえば、なんでわたしはこんなにイライラしてるんだろう。
すぐ帰るって言ったくせに、とか、メールも電話も返さないでなにしてんのよ、とか、それって一体どうしてだろうと不思議になった。

別にクラウドが余所でなにしていようがわたしには関係ない。でも、確かに感じるこのモヤモヤはクラウドが原因だった。

「…もしかして名前、気付いてないの?」
「え?なにが?」
「ああ、ここにも一人いたか」
「な、なに!ここにもって。え?」
「ううん、なんでもないの」

少しばかり頭を抱える様子の彼女に頭の中は疑問でいっぱいだった。気付いてない、とは一体なにについてだろう。それに、ここにもってことはわたし以外の誰かもそういう感じなのかな。うーん、イマイチ良くわかんないけど、とりあえずクラウド帰ってきなさいよ。

一杯目のお酒を飲み干し、ティファに軽い食事をお願いした。
手際良く作る彼女を見つつ、ボーッとラジオを耳に入れながらクラウドのことを考えていた。

この前は確か、エアリスの教会で寝泊まりしてたんだっけ。またそんなことしてるのかな。でも、もうそんなことしてまで悩む必要はなくなったはずなんだけど。

また何か一人で抱えてるのかな。
だとしたら、やだな。
ティファやわたしに話してくれればいいのに。馬鹿なクラウド。

「もー知らない!」
「なにが?」

出来上がった料理を差し出され、返事よりも先にそれに手を付けた。美味しくて笑みがこぼれる。でも、先ほどの返事をしようとしたら、その笑顔も消えた。

「クラウドなんか知りません!」
「あらあら、かわいそうなクラウド」
「いいの。ティファが心配してあげて。わたしはもう電話に独り言なんて喋りたくありません」
「うーん、わたしも遠慮しておこうかな」

そうだそうだ。もうクラウドなんか心配するもんか。見捨てられて寂しがってればいいんだ。

食事をペロリと平らげて、満足する。
もう一杯だけ飲んだら寝よう。寝酒して、気持ちよく寝てやろう。
ベッドの中で悶々とクラウドのことを考えたりしないように。


他のお客さんが店を後にする。
それと同時にまたお客さんが入ってきたようだ。夜も遅いのに、誰だろう。

「あっ」

ティファが声を上げる。
その客に目を向けて、驚いている。なになに、知り合いでも来たのかな?
お酒を入れて少し気だるくなったわたしは、誰であろうと関係ないと思い、別に気にも留めなかった。

すると、わたしの隣に腰掛けてきたらしく、少し気になったのでちらりと横を見た。

「あ」

目も合わさず下を向いたままのクラウドがそこにいた。

「ただいま」

そのままわたしに目もくれることなく放たれる言葉。
ティファには視線を寄越して酒を催促してるくせに、わたしの方は一向に見ようとしない。

「今までなんで連絡返さなかったのよ」
「すまない」
「すまないじゃなくて!もうっ、いい!ばーか!」

なんでこっち見てくれないのよ。
なんでたったそれしか言わないのよ。
わたしはこんなに心配してたのに。
クラウドの帰りを待ってたのに。

心配を余所に大してなにも思っていなさそうな態度のクラウドに腹が立って仕方なかった。

わたしの気持ちも知りもしないで!
クラウドにどうしてこうも振り回されなきゃいけないの。




…わたしの気持ち?
何故こんなに腹立たしいのか。

少し考えたけど、答えは出なかった。

久しぶりに会えたというのに、気まずくて仕方ない。わたしはきっと一人で勝手に怒ってる。意味もなく。

重苦しくなってしまった空間がなんだか居心地が悪くて、自分の部屋に戻ることにした。

そう決めた瞬間、二人になにも告げずにわたしは席を立ち走り去った。



**


名前が立ち去り、その後ろ姿を二人は止めることなく見送っていた。

「あーあ、名前怒っちゃった」
「ティファもすまなかった」

申し訳なさそうに眉を寄せるクラウドに、ティファはくすりと笑みを浮かべる。

「わたしはいいのよ。クラウドの逃げ癖にはもう慣れたから」
「逃げ癖って…。そうだな、間違ってないか…」

今までの自分の行動を省みて、ティファのいうことに反論できなかった。確かに、クラウドは何かを抱えると逃げるようにして何処かへ行ってしまっていた。
携帯も連絡が来ていることだけ確認して、それに満足して返事ができていなかった。それに、なんと言ったらいいか自分自身わからなかったからだ。

「で?解決したから戻ってきたんでしょ?」
「まあ…解決したというか。やっとティファの言った意味がわかった」
「わたしの?」
「ああ」

以前ティファはクラウドに対してあることを言っていた。

先ほどの名前のように、クラウドは名前に対して悩みを抱えていた。その気持ちが何故生まれてくるのか、彼自身は気付かず、それよりも先にティファが気付いていた。

けれど、ティファはそれをあえて言わなかった。自分自身で気付いてほしかったのだ。
今日、どうやらその答えが出たらしい。

「気付いたんだ、俺」
「よかった。じゃああの子にも気付かせてあげて」
「あの子って…名前か?」
「うん。あの子も気付いてないから。クラウドにしかそれはできないから。ね?」
「…やってみる」

名前もクラウドと同じように気付かずに悩んでいる。
わざわざそれを自分に頼んだということは、恐らく自分の気持ちは報われるのだろうという、僅かながら確信が生まれてくる。


意を決したようにグラスを空けて、自室へと向かった。
荷物を置き、名前の部屋へと足を運ぶ。

彼は、一つの覚悟を決めるかのようにして扉をノックした。

121030
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