「あ、雨」

買い物を終えて、帰路につこうとすると雨が降り出していた。
急な雨に街の人たちが頭を庇うように両手を上げて、雨宿りしようと走り去っていく。

「うーん、どうしよう」

両手には大量の食材。紙袋だから濡れたら破けちゃう。
少し待ってたら止むかな?
濡れないように少しだけ顔を上げ、空を見上げる。
遠くを見ると、晴れている。
通り雨みたいだし、ここで止むの待ってよう。

邪魔にならないように建物の端に寄って、両手に抱えた荷物を降ろす。
傍で雨宿りしていたおばさんと目が合って、苦笑しながら困りましたね、と一言二言言葉を交わした。

ぼーっとただ雨の跳ね返りを見ているしかない。
クラウドに迎えにきてもらおうかな。
でも、行く前仕事に追われてデスクに張り付いてたしなあ。

携帯を見つめ電話をするかしないか躊躇っていた。
すると急に携帯が震えて、ディスプレイにはクラウドからの着信のお知らせ。
わ、わ、凄い偶然!

「もしもし?」
『名前、いまどこだ?』
「いつものマーケットにいるよ」
『迎えにいく』
「え?」

言うだけ言って、彼は電話を切ってしまった。
クラウドが、迎えにきてくれる。
ちょっと意外だったから嬉しくて口元が緩んだ。


暫く経っても雨は止まなくて、迎えにきてくれるって言って電話を切ったクラウドもなかなか現れなかった。
もしかして道に迷った?
まさか、配達屋さんだからそんなはずはない。

家へと続く道を覗き込む。
あ。
人も疎らになった街中を傘をさしたクラウドがこっちに近付いてくる。
傍までくると傘を閉じて、わたしの隣にあった荷物をひとつ持ち上げた。

「わー、本当に来てくれた」
「迎えにいくと言ったろ」
「うん、そうだけど!あれ、傘は?」
「一つで十分だろ?」

わ、それって相合傘。
ついにやにやとしてしまう。
片手で器用に傘を広げるクラウドを見つめた。

「おい、名前」
「え?」
「…行くぞ」
「あ、待ってよ!」

残された荷物を抱えて(あ、軽い方残してくれたんだ)、クラウドの隣に飛び込んだ。傘を持つクラウドの腕に自分の腕を絡ませて、なるべく濡れないようになんて言い訳を心の中でした。

「へへ、なんか恥ずかしいな」
「そうか?」
「うん…なんか、新鮮」

雨はあんまり好きじゃないけど、クラウドとこうして歩けるなら悪くないかな。

「…雨の日に出かけるのも悪くないな」
「ふふ、そうだね」

全く同じことを思っていてくれたのかと思うと、凄く嬉しくなった。

「こうすることだってできる」
「ん?」

急に立ち止まったクラウドに合わせて立ち止まる。
傘を低くされて前が見えなくなったと思ったら、クラウドの顔が近付いてきて唇を落とされた。

「街中で名前とこうしても、誰にも見えない」
「ク、クラウド…」
「なんだ?」

ず、ずるい!ずるいよそれは!
馬鹿!もう、本当に馬鹿!

でも、凄く嬉しい。

「顔真っ赤だぞ、名前」
「クラウドのせいです!」
「いつもしてることじゃないか」
「そうだけど、初めてだし、こんな…」

街中でキスなんて。
普段なら絶対にできない。

「ふ、次からも傘は一つでよさそうだな」
「…うん」

ぎゅっとクラウドに絡めてた腕に力を入れて近付く。




次に雨が降るのはいつかな。
そのときは傘一つで出かけよう。

なんだか、
雨の日が待ち遠しくなっちゃった。

121109
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