くのうず(こへ文)










「もんじろう」



名前を呼ばれ振り返ろうとして、自分より幾分か長い腕に抱き寄せられた。肩に何かが乗せられて、ふわふわの髪が頬を撫でる。正直擽ったい。
何の用だ、そう問おうとしたけれど。
愛してる、その言葉を聞いては思わず目を見開いた。
自分を包む体温が、やけに冷たい。



「愛してる」



もう一度言われ、暫し沈黙を貫いた後、小さく「うん」と返す。そうして彼は一つ吐息を漏らすと、更に続けた。



「好き」
「うん」
「好き、大好き」
「うん」
「愛してる、愛してるよ」
「うん」


「ごめん」



口が止まる。



「嘘」



自分を抱き締める躯が、震えていた。



「…うん」



優しく言葉を返し、くしゃりと髪を撫でる。髪から土の匂いがして、まるでか弱い子犬の様だ。
すると急に彼は泣き出して、何度も自分にごめん、ごめんもんじろう、と謝るのだった。
















(全部知ってる)
何が偽りか、何が真実か。



「泣くんじゃねえよ、バカタレ」



慰める声が、震えた。

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