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「ああ、ここだよ!」

「え!1番前じゃん!」

「すごいよね!もー始まってるし見よ!」


案内された席はなななんと!ランウェイのゴール地点の1番前だ。見上げるとモデルと目が合ってる気がする!

あ、確かこのショーにリリーちゃん出るんだった。色んなことありすぎて忘れてた。

てか雅治いつ出るんだ?このイベントって女の子向けだし。あいつ女装でもすんのかな。

パンフレットを見ていたらレディースのブランドの新しくできたメンズのお披露目会的なのがあるらしい。これに出んのか。このショーは今やってる次の次らしい。んじゃ、見れるね。


「みんな綺麗だね!」

「ね!テレビに出てる子もいるけどやっぱ生の方が細いし顔もかわいい!」

「やっぱ違うね!キラキラしてる」


3人でずーっとかわいいを連呼。かわいいしか出てこないくらいかわいいから仕方ない。


「次ウエディングドレスだって!」

「あたしらにはまだ早いやつだね」

「ねー!彼氏いてもいつ着れるかわからんよね」

「ま!将来の参考として見よう」


彼氏がいてもいつ着れるか分からないと薗さんが言ったけどよくよく考えたらそうだよね。今の彼氏と結婚できるか分からないし、ずーっと付き合ってても結婚しなきゃ着れないし。あたしは学生だから気軽に見れるけど結婚を決めてない付き合って数年の社会人カップルがこれ見たら少し気まずいよね。あたしなら気まずいもん。

ぼけーっと見てたら雅治とリリーちゃんがランウェイを歩いてた。新郎新婦として。久しぶりの雅治は相変わらずかっこよかった。この会場の中ではパパの次に近い人なのにこっから見たら遠い人だ。

ランウェイを二人でずんずん歩いてとうとうあたしらの前までやってきた。2人とは目が合った気がするけどどうなんだろ。昔パパが大きい会場だと1番前の席でもファンとちゃんと目が合った気がしないて言ってたしな。

リリーちゃんが持ってたブーケを結婚式のブーケトス風に後ろに向いて投げた。と、思いきややめて雅治に耳打ちしながらブーケを渡した。そしてそのブーケをあたしに投げてきた。ん?あたしに投げてきた?あたし掴んだ?


「ええええ!なになになに!なに!名前ちゃんどーいうこと!」

「あれってやっぱり仁王くんだよね!モデルなの?」

「え!なにそれ!なんなの!私ちゃんと聞きたい!会場出てお茶しよ!」


ウエディングドレスのショーが終わった後、放心状態のあたしを2人は外に連れ出してくれてレトロな純喫茶に連れてってくれた。飲み物はミックスジュース。


「で!早く!教えてよ!」

「んーあたしも驚いてる」

「とりあえず!あの男の子は名前ちゃんの彼氏ね?」

「うん」

「中学の時から付き合ってる子ね!」

「うん」

「仁王くん。私の彼氏のあきくんと同級生なの」

「あ、そー言えば学祭の時に会ったんだっけ」

「そうそう。確かに背は高かったしイケメンだったわ。なんかへにゃへにゃしてたけど」


まだまだ放心状態なあたしを放置して2人は雅治の話をしてていつの間にか2人の恋愛事情、服の話、最近の話になっていた。あれ?あたしのことを質問攻めするんじゃなかったっけ?あたしこの店でミックスジュースおいしいしか言葉発してないんだけど。


「ああ!名前ちゃんのケータイ鳴ってるよ。あ!仁王くんじゃん!」


バシバシとあたしの肩を叩いてくるありちゃん。興奮具合が分かる。ケータイをスライドさせて耳に当てた。ああ、久しぶりの会話だ。


「もしもし?」

(俺出番終わったから一緒にパパさんのやつ見やん?)

「あ、うん」

(今どこいるんじゃ)

「近くの喫茶店」

(あーそこ知っとるから迎えに行く。会場で待ち合わせても人多いから)

「わかった。じゃ」


ふぅ、初めは緊張したけど向こうもいつものような感じで話したから緊張はすーっとなくなった。

通話終了を押してケータイをテーブルに置いたら2人が何!ってうるさかった。騒がなくても言うのに。


「会場に戻るね。雅治と一緒に見よって言ってたやつもーすぐであるから」

「きゃー!さっきの電話はそのお誘いでしたか」

「もーすぐしたらお迎えにきてくれるから先にお金置いとくね」

「えー!迎えに来るの?会えるの?私初めて会うから緊張する!」


園さんは顔に手を当ててきゃーきゃー言ってるけどさっきショーで見たじゃんって言ったらそれとこれとは違いすぎるでしょと言われた。ま、そーか。

2人の興奮がおさまり大学の冬休みっていつからだっけという現実味のある話をしていたらドアベルが鳴った。ドアの方を見たら雅治だった。さっきからドア見てもジジイばっかり入ってくるからやっと本物だ。


「もー行ける?」

「うん!じゃーね!園さん、ありち」


2人に手を振り、雅治はぺこりと会釈して店を出た。


「あれあっきーの彼女とミスコンでとった子?」

「うん。そー言えば雅治ミスコン見に行ったんだっけ」

「さっきの子が友達の知り合いやったから投票したけど名前の友達やったんか」


会場に入りどこで見る?ってなった。あたしはさっき2人からもらったチケットがあるから1番前で見れるけど雅治のやつないし。舞台裏から見れるけど裏だし。ってことで一般の自由席のスタンドから見ることにした。


「あ、花束。その、ありがとう」

「あーうん」

「うれしかったんだけど、あたしにこれ渡してよかったの?怒られなかった?」

「ランウェイ歩いてたら名前見つけたからリリーちゃんにお願いして譲ってもらった」

「ほぉ」

「まぁでも裏に帰ったら怒られたけどリリーちゃんがフォローしてくれてなんとかなった」

「ほぉ。リリーちゃんにありがとうって伝えといて」

「おん。また会った時ゆーとく」

「ねぇ」

「ん?」

「なんであたしにこれ渡そうと思ったの?」


ひらひらと花束をこれ見よがしに振ってみた。振りすぎて花びらが何枚か散ってしまった。申し訳ない。


「最近連絡しとらんかったしくれんかったし会話のきっかけなるかと思って」


そう言って花束を持ってるあたしの手に自分の手を重ねた。


「あたしも雅治から連絡なかったし、だから連絡しなかったし今日どーなるかと思った。だから今こうやって話せてよかったと思ってる」

「なぁ、ちゅーしていい?」

「は?ダメに決まってんじゃん。周りに人いるもん」

「前後左右人はおるけど近辺にはおらん。みんな離れとる」


そう言って肩に手を回して、あ!思い出した!


「無理!てかあたし一応怒ってんだからね!あんたがファンの腰か肩に手を回して写メ撮ったことに!」

「ファンサービスじゃ。だから怒らんといて」

「それでもアウトですー回す必要ある?写メ撮って握手しとけばそれは素晴らしいファンサービスなの!」

「以後気をつけます」

「ふん!」


ちゅーはダメだけど手は繋いであげる。指を絡めてね。

久しぶりの雅治の手だし、あたしだってイチャつきたいという気持ちはある。だから絡めてる指で雅治の指の先をキュッと押した。そしたら雅治も指であたしの指を撫でた。心が心地良い。

早くこの会場から飛び出したいけど、まだこうやってこうしときたいという気持ちもある。しあわせ。

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