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「え?あたしらが新大阪着くまでにUSJでお土産買おうと思ってたら新しくできたアトラクション乗りたくて?1日1人で?USJですか?」

「お、おん」

「で?お土産は?見た感じないけど」

「こ、これ」


雅治が手を震るわせながらくしゃくしゃになったシールを出してきた。人気キャラとハッピーバースデーが描かれたシールだ。


「これがお土産?」

「お、おん」

「これ誕生月に貰えるシールやん。仁王さん今月誕生日なんすか?」

「こいつ12月。誰からかもらったんでしょ?」

「ふぁ、ファンの子から」

「は?知らない女から貰ったシールあたしが喜ぶと思うの?せめて自分の金でしょーもないキーホルダーでも買えよ」

「ご、ごめん」

「ちょ、ここ電車やから楽しくしよや。な?な?」


あたしと雅治のやりとりが凄まじ過ぎて周りの人たちが聞き耳を立ててたみたいでいつもうるさい電車の中が静かな電車。

わかる、わかるよ。あたしも駅とか電車とかご飯屋とかで男女が口ゲンカしてたら聞き耳立てるもん。


「あんたに会うまではさ、ちょるに聞いてたんだよ。背負い投げして逃げたときにあたしの名前叫んでたて。叫ぶのはダメだけどあたしの名前言ってくれてたとこに不覚にもきゅんてなったのに」

「え?そこきゅんてくるん?ウケるわ。あ、やばすぎおすぎか」

「光くんだま」

「こら、財前にもケンカ売ったらあかん」

「白石、これ自分の彼女に当てはめてみ?ムカつくでしょ」

「それはそれやけどな。いまから高校野球観に行くねん。たのしみやろ?」

「ま、まぁ」

「な?ついたらカチ割り買ったるから。カチ割りにコーラ入れたら美味で」

「白石さん、俺も。あ、俺は三ツ矢サイダーがええっすわ」

「俺マッチ」

「買ったる買ったる。次やで甲子園」


4人とも無言のまま甲子園。この空気はだめよ、あたし。楽しい楽しい甲子園なのに。元はと言えば雅治なんだけど。よく考えて、なにが気に食わなかった?日焼けした腕を撫でられたこと?勝手に大阪へ来たこと?1日USJで遊んだこと?お土産なし?

ちがう。お土産なんだけど何でファンの子から貰ったシールをくしゃくしゃにして、そんで彼女のあたしに渡すのか分からない。雅治にってあげたのに、かわいそーじゃん。あーこれだこれだ。ムカつく原因。まぁこれ後で言おう。今は仲直り仲直り。

甲子園に着き電車から降りた。ほぼみんな降りたからホームは人人人。暑いのにこんなに人がいたら余計に暑い。


「人多すぎやから俺についてきて。無理やったら改札集合やで」


白石がそう言った瞬間、光くんは自らはぐれていった。そして白石も俺についてきてと言いながらものすごいスピードで人混みに紛れてった。

え、もしかして気遣ってくれてんのかな。今のうちに仲直りしろと。やってやろーじゃないか。


「雅治?はぐれそーだから」


手繋ご?暑い日はお互い手汗でベタつくから手は繋がないけど今日は繋いじゃう。仲直りのために。


「なぁ」

「ん?」

「ごめん」

「何に対して」

「ファンの子からもらったやつくしゃくしゃにしたし、名前ちゃんにあげたから」

「分かってんじゃん」

「だってあん時の名前ちゃん怖かったから」

「そりゃ急に現れるからああなるよ。あ、ケータイはちょるちゃんが雅治の家に届けてくれたから後でお礼…あ」


あたしはケータイを雅治に渡して雅治のお母様に電話しろと伝えた。ついでにちょるちゃんにも。

ケータイの待ち受けを見たとき白石からLINEが入ってて2人で高校野球見とき。俺は財前と見るからって書かれてあった。空気読んでくれて本当に申し訳ない。

「こりゃ2人に焼肉でも奢ってやらんといけんのぉ」

「お、雅治さんごちそうさまです」

「俺最近モデルの仕事頑張ったから金持ちぜよ。奢るん余裕じゃ」

「それはたのしみ。じゃあ白石にそう言っとくね」


白石にLINEをして雅治母とちょるちゃんにもお礼の電話をして完璧。内野のチケットを買ってやっとこさ甲子園球場へ。中に入った瞬間すんごい鳥肌が立った。テレビで見てた光景が目の前にあるんだもん。すごいすごい。


「上の方が涼しいらしいから行くぜよー」

「あ、はーい」


雅治に腕を引かれて上の方の席に座った。全体が見渡せるけど後ろ過ぎてボールがあんまり見えない。でも風が気持ち良いからいいや。


「てかなんで上の方が涼しいて知ってるの」

「昔、パパさんとママさんとテレビで高校野球見てたときに教えてもらった」

「あーね。あたしもいっつも言われてた」

「俺初めて来た。でかいのぉ」

「うん、でかいね。あ!」


遠いけど近くにいたカチ割りの売り子を呼んだ。白石いないから雅治に買ってもらわないと。

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