俺も彼女もお酒は好きだ。そして強い。お互いどんなに飲んでも吐いたことはないし、二日酔いにもならない。寝たら次の日いつも通りだから。
しかしお互い酔っ払いはする。俺は自覚もしているが酔っ払うと普段よりよく笑う。飲むとささいなことでも楽しくなるからだ。
俺の彼女、ごんこは酔っ払うとキス魔になる。男でも女でもお構いなく。それが最近の俺の悩みだ。
「はあーねぇ?どうしよう」
「どうしようって言われてもどうしようもないよ」
「せーいちに怒られるぅ」
今日ってか昨日は土晩。サタデーオルナイト、大学時代の友達と遊んでて途中からなぜか中学時代の友達とも合流してみんなで一晩中わいわいしていた。ガールズナイトってやつだ。
大学時代の友達は始発前に彼氏に迎えに来てもらってバイバイ。中学時代の友達とオール明けの喫茶店でモーニング。酒しか飲んでなくてお腹が空いてたからモーニングセットのシナモンバタートーストがめちゃくちゃおいしい。
「精市くんには今日のこと連絡してたの?」
「してた。でもオールするとかクラブとかバーに行くとは言ってない。きっと精市は私は終電で帰って大人しく寝てると思ってるよ」
「でも報告してもしてなくても怒らないでしょ?ごんこがクラブとかバーに行く行っても」
「怒らないよ?出会いがクラブだったし。でも流石にチューは怒るよ!」
私と精市の出会いはクラブだ。いかにも優等生タイプな精市がクラブだなんて意外だけど出会いはクラブ。お互い酒が強いことか分かって勝負して仲良くなって今に至る。出会ったその日にお持ち帰りされて少しだけセフレ期間あって付き合ったから健全な付き合いではないけど。(理由が理由なのでお互い親には知り合いの紹介で知り合ったと言ってある)
こういうこともありお互いお持ち帰りやチューがなければ遊んでよしってことになっている。あと自ら声掛けたりするのは禁止ってのもね。私も精市も友達と飲んで騒ぐって言うのが好きだから成り立つ約束だとは思う。
しかしその約束を私がじわじわと壊そうとしている。なぜなら私がキス魔だからだ。今日だって目の前にいる友人にキスしたしさっき帰ったあの子にだってしたもん。ディープキスを。したもんで済ませられるのは同性同士だからであって異性だと大問題。約束破りだ。
「男の人にまでしちゃったもんねーほっぺだけど」
「あーどうしよう。怒られちゃう」
「だまっとけばいいじゃん」
「そうなんだけどさー今日デートなの。12時から」
「え?今から帰っても3時間くらいしか寝れないじゃん」
「3時間あれば結構スッキリはするけど途中から絶対眠くなるからなんかバレそう。あいつ感鋭いから」
「てかあんたがチューしなけりゃいい話なんだけどね」
そうなんだよ!あたしがしなけりゃいい話なんだよ。でもあたしは酒を飲むとキス魔というか幸せになってしまう。酔うと自分は世界で一番幸せ!みんなに幸せを分けてあげる!みんなハッピーになろ!キスしよ!という誰もが飽きれる思考回路になってしまうのだ。
今日はよく相談とか乗ってくれる仲の良いバーの店員にチューしてしまったのだ。ほっぺだけど。チューしたときの記憶はある。嘘だあとか言われるかもだけど本当の話。
「あの時ね、幸せ!チューしよ!あ、男の人だダメだ。でも幸せ!ほっぺでもだめだけどだめだ!幸せを共有したい!って」
「ごんこ、本当ばかだねぇ」
「ばかだよ。前もね、今日会ったあの子らと精市の中学からの部活の友達と飲んだんだけどね」
あの時もみんな飲んで飲んで二次会三次会と進んで最後に行ったバーでやらかしてしまったんだ。
彼氏の友達と自分の友達彼氏がこうやって仲良くわいわいしてるのを見て嬉しくて泣きそうになった。そして幸せ過ぎて大学時代からの友達とはもちろんディープキス。精市ともディープキス。これで終わったらよかったんだけど精市の友達にもほっぺなんだけどやってしまったんだ。理由は以下同文。
「で?」
「そのとき周りの音はうるさかったけど静かになったよ。精市に引っ張られて外に出て怒られたし話し合った」
「そりゃそーだ」
「一応ね分かってくれた。私が幸せだということとキス魔なこと」
「うんうん」
「でもね、男の人とはしちゃだめって言われた。当たり前だけどね。てか私ほっぺでも男の人にしたことはなかったの」
「へぇ」
友達は本当に?って顔してる。そりゃそーだよね。
「でもね、ほんとーに幸せだったの。今まで私さ、男運がなかったっていうか久しぶりの恋愛じゃん?んーいつだ?高校生ぶり?高校生のときに付き合ったシュンちゃんは好きだったけど愛してるまではいかないから可愛い恋愛?でも、精市のことは話すと泣けてくるくらい好きなの、愛してるの。こんなの初めて。そんな人の大事な友達と私の大事で誇らしい、誰にでも自慢できる最高の友達がだよ?一緒に飲んでてわいわいしてるの?最高じゃない?みんな初めて会ったのにずーっと前から友達でした!ってくらい仲良いんだよ?これって本当に奇跡だと思うの」
「うんうん。それで?あんた泣いてるよ」
「いいの。勝手に出てくるから。でね?人間って誰しも仲良しこよしなわけないじゃん。気が合わない人間だっているじゃん。友達の友達だからって友達にはなれないかもしれないじゃん。なのに私の恋人の友達と私の友達は大親友のように楽しんでるんだよ。私本当にそれがうれしくて幸せって感じたんだよね」
「で、ほっぺにキスしたと」
「うん、まぁ。結果いけないことなんだけど」
「ほら涙ふきな」
「ありがと」
友人からハンカチを貸してもらい涙を拭いた。ハンカチにマスカラとアイシャドウにチーク、マツエクがついてる。まぁそんなことどーでもいいや。
「で?今日はなんであのバーテンにしたの?」
「だって大学の親友と中学の親友が初対面の人と飲んだってより親友と飲んだって感じだったもん。嫉妬するくらい仲良く飲んでたもん。うれしくてね、つい。そのバーテンね、仲良いの。よ 昔から相談とか乗ってもらったし乗ってたし兄弟みたいな感じだったの。だからお兄ちゃん!私幸せ!チュー!て。はぁ、チューしたいわ。こんなテンションだけどチューしたいわ」
「誰と?」
「せーいちしかいないよ。飲んでなくてもいつでもチューしたいのは。あんた聞いてたでしょ?話してて泣きたくなるほど愛おしいのはせーいちしかいないて。むしろ初めてだよ、そんな人。親との幸せエピソード話してても泣かないのに。せーいちだと涙が」
「ほら、これで涙拭きな」
「うん。ありがぁーせ、せーいち」
「そ、せーいちだよ。俺は」
うああああ!しまった。目の前にはさっきまで私の話を聞いてくれてた友達ではなく彼氏の精市。
なんでと聞いたら精市も友達と飲んでて朝ラーメンかモーニングか迷ってモーニングにしてたまたま入った喫茶店に私がいたと。話は全部聞いてて、途中から私の友達が精市に気付いて席をチェンジ。友達は精市の友達と帰ったらしい。
「バーテンとチューしたんだ」
「ほほほほほっぺだけだよ…」
「それでもしたんでしょ?真田みたいに」
「はい。申し訳ないです。ごめんなさい」
「ま、今回はごんこの心の底からの愛を聞けたし、思考回路もちゃーんと
理解したし許すよ」
「ありがとうございます…」
「でも次はないからね」
「はい。捨てられないようにします」
今回許してもらえただけありがたい。別れるて言われるかと思ったし。次こんなことになったら終わりだ。気を引き締めないと。
「捨てるわけないじゃん。禁酒だよ。バーとかクラブも禁止するし。酒飲んでいいのは家で俺と2人の時だけ」
「よかった、捨てられない。せーいちは神様だよ」
「何言ってんの?神様じゃないよ彼氏だから。てか本当にごんこはばか。俺がお前を捨てるわけないじゃん。話聞いてたらお前ばっか俺が好きみたいになってたけど俺もお前のこと好きだし愛してるよ。俺は涙腺はゆるゆるにならないから涙は出てこないけどお前のこと考えたら出てきそうなこと何回もあったから」
「涙出てるよ。これで拭きな」
精市の綺麗な目から涙がぽろり。私はさっき精市からもらったら精市のハンカチを渡した。
さっき涙は出ないとか言ってんのに私のことを考えて涙を流してくれた精市がさらに愛おしくなって泣いてしまった。
「俺もごんこにチューしたくなったからチューしに行こっか」
「私もそれ思った」
人生2回目の朝帰りお持ち帰り。ま、彼氏だからお持ち帰りとは言わないけど。
どれだけお互いのことを想ってるのか声が枯れるとは言わないけどそのレベルくらい語ったあとのチューとセックスはすんごい最高だし、すんごい愛を感じた。
「私、ほんとーにせーいちと出会ってよかった。精市と出会わせてくれたり愛おしいと分からせてくれたり、心から語れるキッカケを作ってくれた酒に感謝だよ」
「何言ってんの?ばかじゃない」
「ばかだよ。私はばかだよ」
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