06



「幸村よし。名字は、んーこれ本当にお前が書いた?」

「書いたよ。信じて。」

「分かった!信じる!」


こうして無事に新聞事件は終わった。ちなみに柳の文章はとても綺麗で泣きそうになった。家に帰ったらなぜかパパと侑士くんと跡部がいた。ママは夕ご飯の買い物らしい。


「よ。」

「ななななんで跡部が。」

「こないだママさんが跡部くんに会いたい言ってて跡部にそれ言って今に至る。」

「跡部くんからケーキもらったから食べよ。チビの好きなあのタルトのとこだよ。」

「まーじー?っしゃ着替えてくる。」


何で跡部うちに来るんとか思ったけどラッキー。跡部とケーキの話をしといてよかった。あいつは中々のジェントルマンだ。


「いーただきまーす。」


あたしが選んだのは期間限定マロンタルト。美味しすぎてやばい。


「てか侑士くんさーお姉いないのにここへ来る勇気あるよね。」

「ママさんがいつでもおいで言ってくれたもん。」

「馴染み過ぎ。始めはびっくりしたけどもう慣れちゃった。慣れって怖い。」

「俺、パパさんと初対面したとき仲良くなれるか心配やったけどこうしてここへ来てケーキ食べれるんが幸せや。」

「いくら俺でも彼女の家に彼女抜きでしかも友達を連れて行く度胸はないぜ。」

「跡部の言う通りだよ。これが普通の人。」

「名字、仮にも家族じゃねぇ男が2人もいてその格好はねぇだろ、あーん?」


あたしの格好はお姉がアメリカへ旅行したときに買ってきてくれたハリウッドセレブ御愛用のジャージなのだ。


「まぁお前には仁王がいるから関係ねぇか。」

「まーくんいなかったら貰い手いなかったかもね。俺は別に構わんけど。」

「パパひどいよ。娘に対して。虐待だ。」

「それが虐待だったらこれは何?」


そう言ってパパはジーンズをめくってくるぶしの上にできた痣を見せてきた。それはテンション高すぎて可笑しくなったあたしがパパにキックしたときにできたやつだ。


「たっタトゥー?」

「んなわけないやん。どーみても痣やで。高校生にもなってこれはないわ。パパさん可哀想やで。」

「愛情表現ってやつだよ。」

「はぁっ。」


パパと跡部が同時に溜息をついた。なんか息が合ってる。


「あ、撮影の時間早まったらしいから行ってくる。」


マネージャーさんから連絡があったらしくパパは急いで財布とケータイを持って出て行った。


「お前の父親がまさかあの譲二だったとはな。」

「え?パパのこと知ってるの?」

「当たり前だろ?あーん?」


パパってあたしらの世代で知ってるのってバンドめっちゃ好きって人でアイドルとか好きな人はあんまり知らない。20代後半あたりの人には有名ってイメージ。しかもあの跡部が知ってるんだから驚きだ。


「パパのライブ今度来る?CD発売記念でライブするって言ってた。」

「また連絡してくれ。」

「おけ。今日の晩御飯何だろ。何か言ってた?」

「あー何か今日近所の鰻重の店が安いらしいから買ってくる行ってたで。」

「鰻。」


今日はハンバーグの気分だったけど。ま、鰻でもいいや。好きだし。ママが帰ってくるまで3人でだらだらテレビ見たり真田の話で盛り上がったり案外楽しかった。ママが帰宅してせっかくパパの鰻も買ったのにと少し文句言ってた。でもその鰻は明日のあたしのお弁当になりそうだ。楽しみ。


「跡部が何かこんな所帯染みたテーブルでご飯食べてるのウケる。」


パシャ。とりあえず写メって幸村に送信した。早く返してほしいな。


「跡部くん本当に食べ方も何から何までかっこいい。あ、でもー譲くんが1番かな?ふふっ。」

「ママさん、跡部が固まってんで。」


ママのパパに対する愛情表現がエグすぎて跡部は少し引いてる。侑士くんもあたしも仁王もママの発言には慣れてるから何とも思わないけど。やっぱり初対面の人は引くわ。


「なまえケータイ鳴ってる。」

「ん?」


ディスプレイを見ると幸村からの着信。ケータイを耳に当てるのは面倒だからスピーカーモードでとった。


(間違って名字の宿題持って帰ってたから届けに来た。お前んちのマンションの下にいるんだけど。)

「え?まじっすか。取りに行く!いつの間に入ってたんだろ。」

(俺だって知らないよ。)

「とりあえず行くね。」

「あ、待って。幸村くん?なまえのママだけど今日ねパパ晩御飯いらないからパパの分の鰻が余ってて食べて行かない?」

「え?えええ!」

(え?いいんですか?ありがとうございます。)


あたしの明日の昼ごはんになるはずだった鰻は幸村の胃袋へ。3分ほどして幸村がわが家へやって来た。


「あれ?跡部と忍足じゃん。忍足は分かるけど跡部は何で?」

「ママさんのご指名やねん。」

「へーそうなんだ。」


幸村は跡部と忍足の存在に少し驚きつつもなよそ行きの顔でテーブルに座った。ママはイケメンが沢山いてご機嫌だ。なにが譲くんが1番だよ。けっ。


「いただきます。」

「食べて食べて。幸村くん本当タイミングがよかったわ。」

「僕もまさか鰻食べれるとは思ってなかったです。」


ぼっ僕う?幸村がよそ行きすぎる。あーボイス録音したい。でもそんなことしたらだめだお。晩御飯食べ終わってお茶を飲みながらまた真田の話で盛り上がったりした。ママは立海テニス部だったら丸井くんがタイプらしい。理由は年下にはSっぽいけど年上だとMになりそう。あと可愛いエッチをしてくれそうだかららしい。やめてくれ、そんな話。跡部が完全にドン引きしていた。ママは下ネタをボーンっとブッこんでくるから本当に困る。


「そろそろ帰ろっか。」


幸村の一言で3人は帰る支度をし始めた。ママは少し淋しそう。


「送ってってあげよっか?」

「大丈夫です。下に迎えを呼んでいるんで。幸村と忍足も送って行きます。」


さすが金持ち跡部。迎えだって。しかし送ってってあげれないのが悔しいのかママは少し淋しそう。


「じゃあまた来ます。お邪魔しました。」

「ママさんまた来るなー」

「お邪魔しました。鰻美味しかったです。」


パタンとドアが閉まって3人が帰って一気に部屋が静かになった。お風呂入って寝よっかなーって思ったらママがウズウズしていた。


「まだ19時だよ?出かけよっか!」

「出かける?何しに?」

「買い物!あの3人来たからママ元気になっちゃった。だから買い物行こ?」


ママの急な提案で買い物に行くことになった。何を買ってもらおう?何かいい服、カバンあるかな?なんて思ってたけど‘ママの’買い物であったあたしの物は一切買ってくれなかった。世の中そんなもんだ。

ママはまたお姉のあの有名なブランドのハイヒールを履いていた。お姉に怒られても知らんぞとか思ってたけどママがそのハイヒールを履くとすごく似合っていた。あたしと背丈もスタイルも似ているのに何でだろうね。多分そのブランドの価値を理解してそれに見合う人間になってるからかな。あたしもいつか履きたいな。


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