【愛し子】 ※妊夫ネタ 舞白 

1.リツ

痛そうに笑っていたんだ、最近口内炎と肌荒れが酷くて、って。
確かに酷かった。だから、ビタミン摂ってたくさん寝るように、って言っておいたんだ。
食事もそういうものにしたし、ビタミン剤も渡しておいた。
顔を合わせる度によく言っておいたんだけれど、大抵困ったように笑うだけだったな。
まあ、彼は忙しいから、仕方なかったかもしれない。
………………でも、やっぱり、悔やむな。
彼はとても頑張り屋で、心配で、愛おしい奴だったから。
それに、後を任された椿のこともあるから。
椿は可哀想だ……大学に行き始めて、やっと自分の将来のことを考えられるようになったと思ったらこれだからな。
上の兄があれだから、どうしても、舞白の遺したのの世話はあの子がやるんだろうな。
なんだかんだ言って、椿はこの家の一番の常識人だから。
…………。……あの子は、舞白のことを恨んだりしないと、思うよ。
仕方ないと割り切る、んだろう、あの子ならきっと。
現に今、あれの育て親になっているのは椿だろう。
やっぱり、舞白のことがあるからな。
舞白はどうしたって、あの家の中で尊敬されていたから。
家業のトップとしても、兄弟としても。
だからやっぱり、今一番心配なのは、椿かなあ。


2.椿

舞白兄様は、とてもお疲れだったの。身体中に出来物ができていて、とてもつらそうだったわ。
元々、そんなにお体、強くないみたいだもの。

……椿が、もっとちゃんと、サポートしていれば……よかった、……の……かも、しれ……な……………………、
ごめんなさい、やっぱりちょっと、……動揺、していて……。
………………。…………。…………もう、大丈夫よ。
……ええ。
…………。

……それで、ね。
舞白兄様は、そう、出来物にお悩みだったの。
痒いし痛いし、何より、人様の前に出られないって。
……何よりも家のことを考える……人だったわ……。
……ああ、そう、それから、お兄様、ちょっと変だったの。
やっぱり、とてもお疲れだったのよ。なんだか、そうね、物忘れから始まったのだったかしら。
それから、力の加減だとか、体を思うように動かすだとか、そういうのが出来なくなっていったわ。
それから、表情もうまく作れなくなっていったみたい
……笑うところじゃないのに笑ったり、楽しいのに仏頂面をしたりしていたのは、本心ではなかったのよ。
……でも、千羽揚兄様は怒ってらしたわ。
ああ、その千羽揚兄様は、今は、ちょっと

…………あら、ごめんなさいね、ご飯の時間だわ。
いえ、私のではないの、あの子のよ。


3.オミ、マル

ましろがよつんばぃでふろ行ったの見た!
……ましろらしくない。なんかへんだった。

ましろあそんでたんだ!だからマルもよつんばぃで追っかけた!
いつもちゃんとしてるのに、あの日はかみの毛ぼさぼさで、きものもおかしかった……だからましろだってすぐにはわからなかった。

マル、ましろ追っかけた!でもましろはやかった!マルおぃつけなかった。
ましろ、あっとゆーまにふろに行った。そぃで、

やっぱりましろ、おかしかった。
ましろじゃないみたいだった。
ましろに、何があった? オミ、キケンなかんじする。ご主人にも、キケン来る?

ましろ、死んでるにおぃぷんぷんした!ましろくさかった!あっ。だからましろふろ行った?のか?そうなのか?
あれ? あれは、つばきがいつもだいてる。ましろがのこしたんだって。

あれ!あれも!くさい!あれくさい!ましろとおんなじにおぃ!くさい!
でも、あれ、いつもよだれたらしてて、きたない。

よだれ!マルもよだれ出るよ!オミちゃん見て見て!マルのよだれ!
……マルのよだれ、ふいてくる。


4.千羽揚

……………………………………………………………………………………………………………………………………………。


5.ヤマト

 え? 手首を?
……確かに、忙しそうにしてたけど、悩んでるようには……て、ことは、自殺? に、なる、のか。
そうか。…………ん? ………………だけど、舞白君、刃物なんて部屋に置いてたの? や、まあ、それは、わかんないか、
うん。え? いやいや。別に。
……何でも、出来るからね、うん。やろうと思えばさ。
まあ、なんか、信じらんないんだよね。
舞白君が愛する兄と弟を置いて逝くかなーってさ。
まあ、いいや。でも、うん。
なんか不自然だな。え? いやいや。
俺はなんにも。でも、気になるじゃん。

じゃあさ、あんたなら、死のうって時に、まず浴槽に頭突っ込んでから手首切る?
それとも手首切ってから頭突っ込む?

どっちにしても、えらく不確実で苦しいやり方だなあ。

……病気? そんなことは、聞いてないけど。え、なになに?


6.朱織  

僕、なーんにも知らないよお。
椿ちゃんとオミちゃんとマルには大学でたまに会うけどさ。
おじさんと舞白さんには、大分前に会ってから、それっきりだもん。
前? えっとねー、椿ちゃんが大学来る前だからー……うん、それくらい。
舞白さん亡くなったのだって、こないだ、椿ちゃんからお葬式の案内貰って初めて知ったんだから。
一応、縁があったからってさ、律儀だよねえ。
あの家の人達はさ、なんだかんだぐちゃぐちゃだけど、律儀で真面目なんだよね。
……ああ、うん、話逸れちゃった。
うん、だからね、それ以来会ってないの。
だから…………ねえ、舞白さん、どうして死んじゃったのかなあ。
何か、ご病気? あ、いやいや。そんなつもりじゃ。
…………だけど、ねえ、椿ちゃん、最近、変だよ?
なんだか、ううん、ちょっと言いにくいけどさ。
なんだか、汚くなった感じ。
たまーに大学来るけどさ、なんか、常に何かを気にしてるし、びくびくしてるよ。
舞白さん亡くなったのがキてるのかなーって思ってたけど、それにしても、ちょっと、変だよ。
何かあるんじゃないかなあ。
なんか、やばい感じするよ。
この前なんて「ご飯の時間だわ」って呟いてて、本当、やつれた感じで。
ぞっとしちゃっ…………。椿ちゃーん、やっほー。久し振り。次どこ?
あ、僕もそっち。一緒に行こ。……それじゃあ。


7.あおた

 あ、舞白、さん? うん、知ってます。
……あの。知ってるって言っても、会ったの、たった一度だけだし、その後も……ヤマトくんの、お迎えに行って、ちらっと外から見かけただけ、なんです、けど。
あ、あの日? あ、はい。あの日の舞白さん、よく覚えてます。
いつもと、すごく、様子が……違っていたから。
ふらふらしてて、最初、具合悪いのかな、ご病気かなって思ったんですけど。
なんだか……違うみたいで。
窓の外から見てて、ちゃんと、進んではいるんです。家の中。
でもそれが、まるで、自分の意思じゃなくって、まるで、誰かに引っ張られてる……みたいな。
感じ、でした。
ちょっと、怖かったんですけど、ヤマトくんの顔見たら、忘れちゃって。
はい、今の今まで、忘れてました。
だけど、あの日の舞白さんは、本当に、怖かったなあ。


8.朔黒

 ……俺は、全部知ってるぜ。
舞白がどうやって死んだのかも、椿の抱く赤ん坊のことも。
俺は舞白の鏡だからな。ちゃんと見てたよ。ずっと見てたよ。
部屋の鏡から、廊下の窓から、浴槽の水面から。あいつの苦しそうな顔も、痛そうな顔も、耐える顔もな。
どうだ? 全部知りたいか? 遠慮すんなよ。
ちょっとくらい、聞いてけよ。
まあ、一から話すと長くなるからさ、うん、そうだな、あいつの出産の瞬間なんてどうだ? 聞きたくないか?
うん、聞かせてやろう。
うん? うん、舞白は男だよ。そんなん当たり前じゃねーか。ははっ。何言ってんだ?
それがあいつ、妊娠してさあ。
えらく、重いもん宿っちまったみたいだな。
腹は膨らむし、手足は言うこと聞かないし、ろくに喋れないしで。
まあ、それは、本当に、最期のころだな。
腹がでかくなるのは厚着して帯締めて隠してたしな。
でも、表情とか手足とかの制御がうまくできなくなったら、隠せなくなってたな。
あいつ、笑ってんのに怒ったり、怒ってんのに笑ったり、泣きながら「おはよう」とか言ったりしてたんだぜ? うける。
ああ、そう、そうなってからはもう、にーさまと枕添いなんざ出来なかったね。
誰の子だとか喚いて大変そうだよなー。本当のこと言ったらぶっ倒れんだろうけど。
……うん。そんで、まあ、腹がぎりぎりまで膨らんで、体が全然言うこと聞かなくってさ。そうなるともう、舞白のカタチした何か、でしかないんだよなー。俺のこともわかんなくなってんの。
んで、んー、あれは、月がキレイな晩だったなあ。
寝てた舞白がむくっと起きて、すっごい苦しそうに呻いて、ずるずるずるって部屋を出たんだ。もう、人と同じ行動とれねーから、なんか四つん這いだったり腕で匍匐前進したり、まあ大変そうだったよ。
その後の床がきったなくってなあ。あいつ、体中にできもん出来てたから。
それが潰れてすげえくせえの。糞みてえなにおい。
多分、腹ン中にいたやつの糞とかじゃねえの?
まあ、んで、なんだかんだで風呂場行って、何すんだろうと思ってたら、いきなりばっしゃあーって浴槽に頭突っ込んでな。
……多分、その時だ。一瞬、舞白が戻ったんだろな。
すげえ苦しそうにして暴れてさ。
まあ俺は見てただけなんだけど。
なんか、よろしくって言われた気がしたけど。
そんで、舞白の白い頭がぷかーって浮いてきた頃に、手首……左? んん、待てよえっと、えーっと………………………え? どうでもいいの?
あっそう。うん、じゃあ左にしとくけど。
左手首からぶあーって血が出てきて、舞白の頭が真っ赤になって、手首からにゅるにゅるにゅるってなんかなげえのが出てきてな。
それがあの赤ん坊だよ。

うん、おしまい。

最期? ああ、なんか、嬉しそうな顔してたぜ。
まあ、そんなんだから、あの赤ん坊の面倒見てる椿な。
あいつもやべえよなー。ははっ。




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