【雄の蝉】 (ざくろのみはあかい、に続く) 椿視点【雄の蝉】椿はまるで雄の蝉。交尾し尽くしたら死んじゃうの。 お腹の中は空っぽで、生殖活動しか出来ないの。 何を食べても生きられないの。 だから椿は雄の蝉。空っぽのお腹に要るのは何かしら。 空っぽのお腹に入るのは何かしら。 お相手はいつもお父様。 空っぽの椿のお腹に、たくさん熱いのをくれるの。 これで椿は満たされるかしら。 いつものお相手のお父様が来て下さらないの。もうずっとよ。 時間、なんてわからないから、とにかくずっとよ。 椿のお腹はぺたんこで、空っぽよ。お 父様の熱いのが欲しいわ。もうずっとよ。 お父様がまた来てくれたわ。嬉しい。 だけれど、椿には触れて下さらないの。 どうしてかしら。 椿のお腹はお父様の為に空っぽのままよ。 いつもの頂戴。強請っても駄目。 お父様、青い顔して椿と目も合わせてくれないわ。どうしてかしら。 それからは毎日毎日、お父様が来て下さるのだけれど、椿には絶対触れないわ。 それと、気付いたらお食事が置いてあるの。 これはいつからだったかしら。 初めまして、貴方だあれ? 真っ黒で綺麗な髪ね。 お食事、貴方が持って来て下さっているの? 有難う、でも椿食べないの。 だから貴方食べてね。貴方も食べないの? 貴方のお食事はなあに……紅いもの? ふうん……何かしら……。わかったわ。 石榴でしょう、あれの実は紅いものね。 あら違う? 残念。 ……あらもう行っちゃうの。さようなら、また今度。 それからは前とおんなじ。 お父様が来て、椿に触れずに帰っていくだけ。 いつの間にかお食事があって、けれど椿は食べない。 あら、お久しぶりね……なあに? お腹が空いているの? あら、あら、あら。……椿を、食べるの? ふふ、いいわよ、椿とっても慣れっこよ。お父様みたいに優しくしてね、 ………………あら…………おとうさま…………どうしたの…………真っ赤じゃない……?…………泣いて、……いるの…………椿、なんだか……わからないわ…………これじゃ頭も、空っぽよ…………………………嗚呼。椿最後の交尾をしたのね雄の蝉はこれでお終いなのねわかったわ…………………… ………………さようなら、お父様。 (3/20) 前へ* 目次 #次へ栞を挟む |