【願求環】5


始ノ最中

そもそも眼孔に挿れて気持ちいいのか。
モノを全部飲み込んではくれないし、中は硬そうだし。枠組みが骨だから。

彼は顔の半分を真っ赤に染めて、口を半開きにして、自分の眼孔の奥を愛する人に押し付けている。
よく、気絶しないものだ。
俺は溜息を吐きながら、俯く。
視界から追い出すと、今度はやけに音が耳につく。
ずぽっ、ずぽっ、くちょ、くちょ。あ、あっ、ん、んぅ、あぁ、あっ。
ふと、気付いた。
なんだか気分が冷めているのだ。
ココロとかいうものがあるなら、今それは結露する程度に冷えているだろう。
裁判が始まった時には、彼を可哀想だと思ったし、“当主”には腹が立った。
だけど今は。愛する人に“抱かれ”て、“犯され”て、嬉しそうにしている彼を見て、酷く居心地が悪い。
早く終わらないかな、面倒くさいなあ、そういう気分。
また溜息を吐きながら、俺は顔を上げた。

愛される人が眼孔から抜いて、再び彼を床に倒した。
今度は受け身を取れず、頭が鈍い音を立てた。
構わずに罰は続く。
尿道を封鎖されてぱんぱんに腫れ上がったところを軽く叩かれ、彼の背中が反り返る。
ああっ、あっ、と嬌声をあげて、がくがくと膝が震える。
それを追い詰めるようにそろそろと指でなぞる愛される人の、赤く濡れたそれも強く持ち上がっている。
俺はただ呆れながら見つめる。

長い裁判だ。時間にしたらまだ、30分くらいなのかもしれないが。

彼の脚を持ち上げ、穴を曝ける。
当然眼孔なんかでは足りなかったのだろう、まだ何も出していないそれをぶつけるように突っ込んだ。
悲鳴があがる。
背骨に押されて浮き出た肋骨が熱を帯びていて、美しい。
そこに愛する人の赤い歯型が捺される。
歯型は、薄い乳に、鎖骨に、肩に、首筋に、にまで。
捺された部分がじんわりと染まる。
きっと肩甲骨や尻も、愛する人に揺さぶられているせいで擦れて赤くなっていることだろう。
床に散らばる真白い髪がさわさわと音を立てる。
彼はもう、手を噛むことすら忘れてしまった。
自分の喘ぎ声がどんなだか、群がる傍聴人共をどんなに蹂躙しているか、わかりはしないだろう、わかる状態ではないのだ。

好き、好き、好き。何度も言って愛する人の頬をなぞる。
目元をなぞる。鼻を、唇を、首筋を。
伝う汗を集めるように。
実際、集めていたのかもな、なんてのは冗談だが。

誰が見ても彼は被害者だった。
いつも。“当主”に振り回され、玩具にされ、使われて。
誰が見ても可哀想。
早く彼が解放されますように。

なんて滑稽な、なんて可笑しな、なんて愚かな。
被害者は誰だ?被告人は誰だ?彼はいつまでも、笑っていたのに。

俺の口角が僅かに上がった。

ほんの2メートル先で犯されている彼がそれを見た。
揺さぶられて重なる視界に、俺の顔はどう映ったのか。
彼はただ、ああやっぱりと心得顔をした。

直後に白い肢体が波打って、彼が一際大きく啼いて、愛される人が小さく呻いて、終わりの合図が熱気に響いた。


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