*放楽の夕闇
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*放置してない放置なちはしろ





 今日も千羽陽に呼び出された舞白は離宮へ向かっていた。午前中に大きな仕事が終わったこともあって、今日は早い時間に帰ってくることができた。外がまだ明るい時間に帰ってきたのは久しぶりだなと思いつつ、扉を開けて中へ入る。すると、珍しいことに千羽陽が自室ではなく、目の前で舞白を出迎えた。
「・・・すみません。遅くなりました」
見慣れない光景に驚きつつも待たせてしまっただろうかと謝罪を口にする。
「気にするな」
しかし、千羽陽は全く怒った様子はなく、むしろ楽しそうな顔で奥へ入っていく。その後を舞白は急いで追いかけた。
 千羽陽が入った部屋はいつもの千羽陽の部屋ではなく客間で、久しぶりに入る部屋に舞白は落ち着かない様子で辺りを見回す。
「そこに座れ」
そんな舞白に千羽陽は部屋の中央に置かれた座布団を指さして言う。舞白が言われた通りにそこへ正座をすると、
「動くなよ」
と言って、千羽陽が何やら箱を持って傍へやってくる。
 まず、千羽陽の手が伸ばされたのは舞白の右手。軽く手首を掴まれて背中に回される。そのまま、箱から取り出したらしい赤い縄でいわゆる片手後手縛りという形に固定される。足は特に固定せず、一度、膝立ちにさせる。そして、舞白の正面に同じく膝立ちになった千羽陽へ寄りかからせ、伸ばした手で箱の中からローションを取り出す。蓋を開けて手の平に一度出してから、それを使って後ろを慣らしていく。
 中に侵入した指が1本また1本と増える度に、舞白の体が震える。そして、自由な左手が縋るように千羽陽の着物を握り締める。指が3本入ったところで、指を抜き、手にとったのは細身の玩具。それを舞白に挿入れて、正座の足を左右に開くような姿にゆっくりと座り直させる。いわゆるアヒル座りの状態だ。
「・・・ぁ、んっ」
座った反動で玩具が動いたのか、舞白が小さく声を上げる。その姿を楽しそうに見つめながら、千羽陽は箱から細い赤い布を取り出して、それを舞白の目元に巻き付ける。細くても厚さはあるらしい布で目隠しをされた舞白の視界は赤を通り越して黒く染まる。
「あの、兄さん・・・?」
不安げに舞白の頭が動き、千羽陽がいるであろう方向を見上げる。先ほど座り直した際に千羽陽の着物を離してしまった手が、行き場を捜すように彷徨う。そんな姿を見下ろして、千羽陽は告げた。
「俺が戻るまでそのまま待っていろ」
「・・・どこかに行くんですか?」
「良い子で待ってろよ」
不安そうな舞白の質問には答えずに、千羽陽は箱から取り出した耳栓で舞白の耳を塞いだ。

 視界は目隠しで、聴覚は耳栓。唐突に普段頼りにしている五感を奪われてしまい、舞白は戸惑うばかりだ。そして、近くに感じていた千羽陽の気配も離れていってしまう。本当ならば、今すぐにでも千羽陽を探しに行きたいところだが、千羽陽が『良い子で待っていろ』と言ったのだから、そうするしかない。
 左手は自由に動かせるが、下手に動かせば、『良い子』ではなくなってしまうだろうと仕方なく、手探りで見つけた座布団の端を握る。それとほぼ同時に後ろに挿入れられた玩具が静かに振動を始めた。
「兄さん?」
遠隔操作式なのだろうか。疑問を抱えたままで呼んでみるが、耳栓をしているのだから、返事があってもなくても聞こえることはない。むしろ、耳栓のせいで増幅されて体内に響いた自分の声にふるりと体を震わす。これは下手に声を出さない方が良いのかもしれない。
 早く千羽陽が戻ってくることを祈りながら、舞白は目隠しの下で強く目を閉じて、座布団の端を強く握った。

 舞白に耳栓をして、千羽陽は少し離れた場所に静かに座る。位置的にはちょうど舞白の真っ正面なのだが、目隠しと耳栓をしている舞白にはそこに千羽陽がいることは分からないだろう。
「兄さん?」
不安げな声が千羽陽を呼ぶ。返事をしても聞こえないと分かっているが、あえて無言でその姿を眺める。舞白が体を震わせたのを見てこの間のことを思い出す。特殊な振動をする玩具を使って以来、舞白の体は振動に敏感だ。今もきっと自分の声による振動に反応したのだろう。
 自由な左手で必死に座布団の端を握り締める舞白を見ながら、酒を呷る。そして、手に持ったリモコンを気まぐれに操作する。きっと、千羽陽の気配を感じていない舞白はランダム設定なのだろうかと思っているだろうが、実際はこのリモコンで千羽陽が玩具の振動を操作している。思いっきり強くするというようなことはせずに、5段階のうち弱めの2段階を推移させて、時々、中へと上げるものの達するにはもの足りないくらいに調整をする。
 しばらく時間が経つと、舞白の息づかいが荒くなってきた。達するか達しないか、ぎりぎりの所で攻められているのだから仕方のないことだろう。千羽陽は口元の笑みを深くすると、手元のリモコンを操作する。弱い方から2番目になっていた目盛りを一気に一番上へと押し上げる。
 同時に舞白が声にならない悲鳴を上げ、その体が大きく仰け反った。

 ゆっくりと立ち上がり、舞白の傍へ歩み寄る。肩で息をする舞白は一番強い振動を続ける玩具に翻弄されながらも、自身のそれで白く汚れた座布団に手をついてなんとか上体を支えていた。
 目盛りを1つずつ、一番下まで下げて振動を止める。それから、耳栓を外し、目隠しも取ってやる。すると、涙で潤んで真っ赤になった舞白の瞳が千羽陽を見た。その瞳に宿るのは安堵で。それ以外は存在していない。
「よく待てたな。偉かったぞ」
そう褒めて頭を撫でてやれば、舞白の瞳からは涙が溢れ、その左が千羽陽の着物の裾を握る。
「あ、兄さん。兄さん」
何度も千羽陽を呼び、そこにいることを確認する舞白の姿はとても幼い。その体を抱き寄せて、膝に乗せ、千羽陽は舞白から玩具を引き抜いて、その辺に放る。
 普段なら勝手に達したことは『良い子』とは言えないのだが、それよりももっと良いものが見れたから良しとしよう。そう決めて、千羽陽は、舞白にゆっくりと自身を挿入れていく。細身とはいえ、玩具で慣らしていたこともあって、そこまでの抵抗はない。奥まで入り込んで、自重で受け入れられるようにと正面で向き合った状態で膝に乗せれば、その深さに舞白が声を上げる。
 近くに千羽陽がいることに嬉しそうな顔で笑い、与えられる快感を甘受する弟を千羽陽は心の底から可愛らしいと感じた。


 

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