*誘惑にご褒美を
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 詰めていた息をゆっくりと吐き出す。一回では呼吸が整わなくて、少しずつ少しずつ、何回かに分けて吐き出して、今度は吸って、また吐いて。生理的な涙が滲む目で助けを求める様に視線を上げれば、とても優しい顔で微笑む千羽陽が見えて、無性に大声を上げて泣きたくなった。
「ぁ、っ・・・にい、さんっ」
荒い呼吸の中で言葉が形を結ぶ。小さな声しか出なかったけれど、きちんと千羽陽には届いたようで、舞白の近くへとやってくる。
「にぃさっ、・・・もう、・・・」
近くにいるというのに触れてもらえないだけでこんなに遠く感じるとは。
「あともう少しだろう?最後までできたらご褒美をやろうな」
そう言って、千羽陽は先ほどよりは近いが、それでもやはり舞白に触れない位置に腰を下ろす。その手には一升瓶を持っていて、どうやら、千羽陽の指示を最後までやらないことには、何もしないという言葉は本当らしい。
 舞白は意を決して、手を自分の後ろへと伸ばす。今の体勢は千羽陽の指示通り、布団の上に座って膝を曲げて足を左右に開くという恥ずかしいものだったが、そのことが気にならないくらいには限界が近い。千羽陽からはおそらくよく見えているであろうそこには、これまた千羽陽の指示で舞白が自身でようやく挿入し終えた張り型の飾り部分が顔を覗かせている。
 丸い輪のような飾りに指をかけて、大きく深呼吸をする。つるりとした形をしたそれは、千羽陽のそれに比べれば小さく、形状的にも負担は少ない。しかしながら、『自分できちんと奥まで挿入して出す』という千羽陽の指示は、精神的にはとても負荷が大きかった。主に、恥ずかしさの面において。
「んっ・・・」
体の力を少しでも抜いて、指先にだけ力を込めて、張り型を引き抜く。一気に引き抜くことができてしまえば楽なのだが、経験上、それは途中で快感の波に飲まれて指の力が抜けてしまうと知っているので、快感に飲まれないように気持ちを抑えながらゆっくり抜いていくしかない。
 息が詰まらないように、ゆっくりと息を吐きながら、体の力は極力抜いて、同じペースで抜けていくように指に力を込める。あと少し。もう少し。逸る気持ちを抑えて、張り型の膨らんだ部分が抜けるのを待つ。
 山を越えれば後は細くなるだけなので、指の力と本来の押し出す力で簡単に抜けていく。全てが抜けるのと同時に舞白は一際高い声を上げて、体をしならせ、そのまま後ろへ倒れ込んだ。

 抑えつけていた快感が脱力した体へ一斉にやってきて、しばらくはその余韻に浸る。羞恥からか快感からか目からはぽろぽろと涙がこぼれ落ちて止まらない。
「よく頑張ったな」
優しい千羽陽の声に、さらに涙腺が緩む。
どうしてこんなに泣き虫になってしまっているのか。オーバーヒートしてしまった頭で考えても答えなんか出るはずもなくて、舞白は手で涙を拭う。
「擦るな。赤くなるぞ」
千羽陽の声と共に体勢を変えられる。抱き起こされて向かい合うように胡座をかいた千羽陽の膝に乗せられる。未だに涙の止まらない瞼に触れるだけのキスが落とされて、驚きからか涙が止まる。ぱちくりと驚いた様子で瞬きを繰り返す舞白の頭を撫でて、
「これ以上泣くと明日、目が開かなくなりそうだな」
面白そうに笑う千羽陽の顔はとても楽しそうで、兄のこんな表情は久々に見た気がすると舞白は嬉しくなる。
 舞白はにこりと微笑むと、千羽陽の顔に手を伸ばす。
「舞白?」
両手で千羽陽の頬を挟むように触れて、前髪で隠された瞼にキスを落とす。決して舞白には見せてくれないけれど、いつも泣いているように見える瞳に愛を込めて。それから、ついでとばかりに耳にもキスを。
「ねぇ、兄さん。もっとめちゃくちゃにしても、いいんですよ?」
首を傾げてそう言えば、返事の代わりに布団の上に押し倒され、太ももに手をかけて持ち上げられ、その内側に噛みつくようなキスが落とされた。



 どんなにめちゃくちゃにされたって構わない。貴方が僕を必要として、触れてくれるというのであれば。


 

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