*散らした赤
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*以前、ツイッターで写真で上げたちはリツとその続き。



目の前の壁まで追い詰めたところで、髪を引いて呼吸を奪う。水音が響いて目前の見開かれた瞳に、悪戯っ子のような笑みを浮かべる自分が映った気がした。それに気を良くしていると舌に走る鋭い痛み。
「噛むな」
髪を引いたまま離した口に指を突っ込んで、お返しとばかりに口を閉じられぬよう、噛めないように固定してやる。
「・・・っ、・・・!!」
何かを言おうとしているようだったが、顎の力よりも指で押さえる力の方が強かったようで、言葉は形にならずに終わる。痛む舌をそのままに見やれば、自然と目に入る苦い顔。
「何勝手に裏切られたって顔してるんだ、お前」
確かに普段であれば気を許しているにしても、血の繋がらない律が千羽陽の対象に入ることはない。つまりはそれだけ絆されたか、それともただの気まぐれか。口内に入れた指で舌を捕まえる。軽く引っ張ったり、指の腹で押しつぶしてみたりした後で、やや息の乱れてきた所を狙って口腔内を気ままに指で弄る。もちろん指を噛まれては困るから、口を閉じられないように気は配っておく。
 響く水音が羞恥を煽るのか、律の目が細められる。それに満足そうな笑みを浮かべて、もう片方の手を律の腰へと伸ばす。千羽陽の体を押しのけようと律の片手が千羽陽の胸を押し、もう片方の手が腰に伸ばされた手を阻止しようと掴むが、そのどちらも大した意味をなさない。この状況では律の方が圧倒的に分が悪い。大した抵抗にもならず追いつめられていくだけだ。
「気持ちよさそうだな?」
耳元で囁いてみれば弱々しく睨まれる。その瞳に煽られるまま、律の顔を右へ向かせて現れた首筋に顔を寄せる。そっと舌を這わせてみれば面白いくらいに体が跳ねたので、ついでと言わんばかりに思うがまま白い首筋に歯を立てる。ガリッと音がしそうなくらいの強さで噛みつくと同時に跳ねた律の体からその反動のままにガクッと力が抜けた。仕方ないので、足の間に割り込ませていた膝と口内から抜いた手で律の体を支えておいてやる。
「・・・落ち着いたら場所を移すか」
独り言のようにそう言えば、血の滲む首筋を押さえた律に睨まれた気がした。

 息がようやく落ち着いてきたらしい律の腕を引いて少々足早に廊下を進む。場所は離宮でいいだろうか。
「っおい、どこに連れていくつもりだよ」
「そんなに待ちきれないならここでもいいが、人に見られたい趣味でもあるのか?」
怒気をはらんだ声をくすくすと笑って受け流せば、ふざけんなと腰の辺りに拳が入る。しかし、移動しているせいかその威力は低い。まるで猫のじゃれ合いだなとそんなことを考えながら歩き慣れた道をすたすたと進んで行って、到着した自室へ強引に腕を引いて律を引き込む。
「うわっ」
反動を殺しきれずに、床へダイブした律だったがきちんと着地点には布団を狙っておいたので問題はないようだ。そんな様子を横目に襖をきちんと閉めて、千羽陽自身も布団の方へ移動する。
 この期に及んで逃げようと腕をついて上体を起こした律の肩に手をかけて、その反動のまま仰向けに転がす。
「おい、」
「今更逃げるなんて興ざめにも程があるだろう?最後まで付き合っていけ」
「そもそも誰も付き合うなんて言ってないだろ。勝手に巻き込むな」
「勝手?そんなの今更だろう?」
こんな状況ではあるが、律は思わず、本当にその通りだったわと内心で突っ込みをいれてしまった。
 そんなやりとりをしている間にも千羽陽の手はしっかりと意志を持って動いていて、どこから取り出したのか麻縄らしきものを持っている。それを視界の端に捉えた律は、今しかないと再度体を捻って、起き上がることを目指すが、腕を掴まれ、そのまま後ろに引かれて、気づけば両腕が後ろで拘束されていた。あまりの早業に呆然とするしかない。
「どうしてそう、無駄なところだけ器用なんだよ・・・」
そう呟いてしまったのも仕方のないことだろう。
 律自身には見えないが、後ろに回された手は両腕を組む形で後手縛りにされているため、簡単には動かすことはできない。千羽陽は綺麗に組まれた縄目に満足して律から手を離し、それを眺める。一方の律はといえば、ここまでされて逃げる気力も失せたというか、この状態で逃げてもあらぬ疑いを受けるだけであるということに気づき、半ば悟りを開いていた。
「そんで、ここからどうするつもりなんだ、アンタは」
「ここから?1つしかないだろう?」
ニヤリと笑った千羽陽の顔がやたらと脳裏に染みついて、本気で頭を抱えた後はもうなんというか、流されるしかなかった。

 胸を這う手が気まぐれに突起を弄る。時に軽く、時に強く、気まぐれなそれに律は翻弄されるしかない。口から零れるのはもはや喘ぎ声だけで、だらしなく開いたままの口を閉じる余裕すらない。生理的に滲んだ涙が頬を伝っていく感触がやたらとリアルだなんて思っていたら、突如として下半身に走る衝撃。
普段なら排泄を行うためのそこに異物が入っている感覚に体がしなる。声にならない声を上げて、体がしなったままで硬直する。強い異物感に戸惑い、荒い呼吸を繰り返すことしかできない。
「息は止めるなよ。死ぬぞ」
誰のせいだと言い返してやりたいが、そんな余裕はなくて、仕方なく、息を整えることに集中する。ゆっくりと体の力を抜いていって、荒い呼吸を、ゆっくりゆっくりとしたものに変えていく。その呼吸音はいきりたった猫のそれとよく似ていた。
「本当に猫みたいだな。威嚇でもしているつもりか」
いっぱいいっぱいな律に対し、千羽陽は余裕な表情を浮かべていて、それがまた怒りを煽るのだが、正直、そこまで感情を高ぶらせても自分が辛くなるだけなのだ。頭の隅に僅かばかり残った理性でそんなことを思って、律はなんとか呼吸を落ち着けていく。そして、ようやくゆっくりと息を吐いたところで、それを嘲笑うようにまたしても衝撃。
 どうやら、ナカに入り込んだ指が動かされているようだ。外部からの衝撃など受けるはずも無いところを指が刺激し、奥へ奥へと入り込んでくる。先ほどと同じようになんとか呼吸を整えれば、それを狙って指が増やされ、異物感が増していく。
 酸素が薄くなったせいか、それとも襲い来る未知の感覚のせいか、頭がぼーっとし始める。酸素を求める様に動く口に胸を弄っていた手が移されて、無意識に伸ばした舌を捕まえる。そんな指に必死の抵抗として噛みつくが、もはやそれは甘噛みで、千羽陽を喜ばせる要素にしかならない。
「噛みつくならこの位はやらないとな」
そう言って、先ほど噛まれた首筋を舐められる。それと同時になんともいえない甘い衝撃が走る。
「・・・、ふざっ・・・ん・・・ぁ!!」
なんとか口にした言葉もきちんと形にはならない。
「さて。・・・力を抜いておけよ。そうじゃないと辛いのはお前だからな」
それを全く気にした様子もなく、千羽陽はどこまでもマイペースで、しかし、言うとおりにしておかないと自分の負荷が大きいのは確かだから、なんとか力を抜く。そしてやってきた一番大きな衝撃に律はめいっぱい目を見開き、呼吸の仕方を忘れた。

 目を覚ますと暗闇の中だった。包まれているのは洗濯したてのシーツで、少し離れた場所には和服の背中が見える。
「・・・おいこら、なんてことしやがったんだ」
思いっきり嫌悪を込めてその背中に言い放つが、掠れた声しかでない。
「あぁ、起きたか」
「起きたかじゃねぇよ。これじゃあ、仕事できねぇだろ。どうしてくれるんだよ」
「そこで寝てればいいだろ」
「・・・嫌なその後を想像したのは俺だけか?」
「さぁな」
千羽陽はにやりと笑う。掠れ声で怒鳴ろうとしたのは無茶だったらしく、律が咳き込むと、眼前に水差しが差し出される。それをなんとか受けとって水を口に含む。常温のそれは体に染み渡っていくようだった。そして、息をついたところで視界に入る縄の痕。相当動いたから仕方ないのだろうが、一体これはどのくらいの期間があれば消えるのか。重い腰も相まってどこまでも気が重い。しかし、すごく楽しそうな千羽陽の表情についため息1つで済ましそうになる。
「気は晴れたのかよ」
「少しはな」
「少しってどういうことだよ、ふざけんな」
軽口が叩ける位なら、少しはマシになったのだろうか。つまり、それだけ大きかったのだろう。舞白が姿を消したという事実が。置き手紙はあったし、そのうち帰るとはあったものの、キャッシュカードやクレジットカードは部屋に置き去りで、スマホは持って行っていても電源が切られているとなれば当然か。
 律は深いため息をついて、弟たちを溺愛する馬鹿兄の元に、迷子の少年が無事に、そしてできれば早く戻ることを祈った。


 

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