*欲望と羨望
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*○○しないと出られない部屋でつくしろ



 目が覚めると真っ白な天井が視界に広がった。それは見慣れた自室のそれではなく、確かに自室で眠ったはずなのにどういうことなのだろうと、舞白が体を動かそうとすると、両手が頭上で固定されているようで動かすことが出来ない。仕方ないので、視線だけを動かせばすぐ近くに愛しい弟の寝顔を見つけた。
「九十九!九十九、大丈夫?」
寝息は穏やかなものであったが、状況が状況であるということもあって、舞白は慌てた声を九十九に向ける。
「んっ。・・・あれ?兄さん?どうしてここにいらっしゃるのです?」
声に反応するように目を覚ました九十九が、まだ眠そうな声でゆっくりとそう質問する。しかし、それに舞白が答えるよりも早く、天井から声が降ってきた。
『お二人ともおはようございます!そしてようこそ。S-Roomへ』
陽気なその声は、起き抜けの頭によく響く。舞白は目を細めながら、天井を見やった。
「えっと、ここはどこで、何が起きているのか説明を求めてもいいかな?」
とりあえず、このままでは埒があかないと問いかける。
『もちろんですとも!此処は先ほども申し上げました通り、S-Roomといいます。はっきりとあっさりと分かりやすく言えば、『セックスしないと出られない部屋』ですね』
声は相変わらずの陽気さだが、その内容はどこも明るくない。・・・セックスしないと出られない部屋とは何事か。脳が考えることを早々に放棄しようとしているのが分かる。
『基本的にはセックスさえしていただければ、外に出られますのでご安心を!そうですね、とりあえず、ざっと説明をしますね』
声がそう言うといきなり、視線の先の天井に自分たちの姿が映る。そこから分かった情報としては、舞白と九十九は真っ白い部屋の中央にある大きなベッドに並んで寝かされていること。2人ともベッドヘッドから伸びる鎖と枷によって頭上で両手を拘束されていること。そんなところだろうか。
『今の状態はこんな感じです。見た方が早いでしょうから、ちょっと部屋の仕様を変更してみました。あ、そのベッドの下に引き出しがありますが、そこに必要そうなものは用意させていただきましたので、安心してくださいね』
何を安心しろというのだろうか。段々と訳が分からなくなってきて、隣に視線を向ければ、難しい顔をした九十九の姿。それもそうだろう。色々なことが普段の環境のせいで麻痺しているならともかく、普通は男同士で、しかも兄弟でセックスをしろなんて言われたら戸惑うに違いない。
「九十九?・・・大丈夫?」
遠慮がちに声をかけるとはっとしたように、九十九が舞白を見る。
「大丈夫ですよ。・・・少し考え事をしていただけです」
「そう?それならいいんだけど・・・」
『それでは、そろそろスタートしていきたいと思うのですが、今のままでは近づくこともできませんからね。どちらかお一人の拘束を解除しようと思うのですが、どちらにしますか?』
「それでは」
「九十九ので。僕はそのままでいいから、九十九のを解除して欲しいな」
九十九の声を遮るように舞白の声が響く。そして、九十九が反論するよりも早く、
『承知しました。それでは、健闘をお祈りしています!』
という声がして、ガチャンという音と共に九十九の両手が自由になった。
「ちょっと待ってください。私よりも兄さんの拘束を解除しなければ」
九十九が慌てたように飛び起きてそう言えば、穏やかな声が重なる。
「僕は大丈夫。・・・それよりも、九十九。よく聞いて」
舞白は相変わらず、頭上で両手を拘束されたままであるにも関わらず、いつもと同じように柔らかく微笑む。
「今の所、害はなさそうだけれど、もし、九十九が1人でもこの部屋から出られる状況になれば、何も考えず、外に出てね」
本当は、自分の拘束を解除させて、九十九には申し訳ないが、目を閉じていてもらう間にさっさと済ませてしまうという選択肢もあったが、万が一を考えると、自分より九十九が自由である方が九十九が無事に逃げられる可能性も高い。
「・・・それで、その」
続きを言葉にしようとして、舞白は頬を赤く染めて言い淀む。そんな舞白を見て、九十九は今までの流れから言わんとしていることを察した。ずっと心の奥深くに押し込めてきたが、間違いなく九十九がずっとずっと望んできたことだ。そんなことはないのだと、舞白を神聖化することで目を背けてきた欲望を果たす口実が今、そこにある。そして、状況的なものであるとはいえど、舞白自身がそれを容認している。
 九十九はしばらくの葛藤の後で、舞白に静かに問いかけた。
「・・・兄さん。私が貴方を汚すことをお許しいただけますか?」
「相手が僕なんかだっていうのが、とても申し訳ないけれど、現状としてそれが一番だし、・・・その、ささっと済ませてくれて構わないから、・・・お願いしても、いいかな?」
困った顔でそう答えた舞白に九十九は優しく微笑んだ。

 そうと決まれば、まずは準備を始めなくてはいけない。九十九は、先ほどの声が言っていた必要そうなものを確認するためにベッドを一度、ベッドを降りる。そして、ベッドの側面を見てみれば、確かに引き出しがついている。そっと引っ張って開けてみれば、中にはローションやバリエーション豊かな玩具が綺麗に並べて収納されていた。正直、ここまで種類をそろえる必要があったのかどうかは謎だが、確かに必要なものではあるのでありがたい。九十九は、その中から肌への刺激が少ないローションとやや小さめの玩具をいくつか取り出して、ベッドの端に置く。その過程で、舞白の様子を見れば、その視線は天井へと向かっていて、鏡越しに様子を見ていたらしい舞白が九十九の視線に気づいて、視線を九十九へと移して苦笑いを浮かべる。
「なんか、戸惑うね、こういうの」
視線を彷徨わせているところからして、困惑が痛いほどに伝わる。きっと、舞白は綺麗な弟に自分を抱かせてしまうということに罪悪感を抱いたりしているのだろうが、そんなに綺麗でもないのだと九十九は内心、自嘲的に笑う。
「確かにそうですね」
舞白の中にある九十九のイメージを壊さないように、内心の自嘲など感じさせることもなく、九十九は微笑む。そして、ベッドの上に上がる。
ちなみに、現在の九十九の格好は黒のスーツと胸元のクロスという普段通りのもので、舞白は寝間着代わりにしている浴衣姿だ。
 九十九はまず、スーツの上着を脱いで、ベッドの脇に置く。ついでにネクタイも外しておく。そして、舞白の傍に移動して、その顔をのぞき込む。いつも通りを保っているように見えて、どこか緊張している舞白はそれでも九十九にそれを見せまいと笑みを絶やさない。その頬に手を添えて視線を合わせる。
「・・・安心してください。誓って貴方を傷つけるようなことはしませんから。もしも、嫌なことがあったら、遠慮無く言ってくださいね」
「うん」
九十九を見たまま頷いた舞白の顔に唇を寄せ、自然と閉じられた瞼に触れるだけのキスを贈る。九十九の唇が離れていくのを待って、舞白はゆっくりと目を開けた。

 舞白にとってその行為は千羽陽によって対象とされる行為ではあったけれど、それ以外で求められることなどなかったから、ただ繰り返されるものくらいの認識しかなかった。しかし、いつもとは全く違う状況にとても戸惑うことになる。
 千羽陽の行為はなんというかさっさと進んでいくことが多く、千羽陽の意図に対して舞白が反応することが多い。そのため、流されるように進んでいくし、気づけばぐったりとしていて意識を失うように眠りに落ちるということも少なくない。
 それに対して、九十九はどこまでも丁寧だった。舞白の緊張を解すかのように優しく触れるだけのスキンシップから始まって、1つ1つのステップを踏むごとに舞白の様子を見て、声をかけ、とても丁寧に体を解していく。舞白が何か反応をすれば、
「可愛らしいですね」
「ここが気持ちいいですか?」
「綺麗に色づいてきましたね。まるで桜の花のようだ」
と、返答がある。その優しさの全てが舞白の羞恥を煽る。とても優しい行為なのに、舞白は何故か恥ずかしさに負けて泣きたい気持ちになっていた。どうしようもなくなってきて、
「九十九。・・・あの、そんなに僕も弱いわけではないから、そんなに丁寧にしなくても大丈夫だよ?」
なんて声もかけてはみるのだが、
「いいえ。兄さんの体力面や負担を考えて省略している部分もありますから、これでも足りないくらいですよ。大きく負担のかかる行為ですから、準備もきちんとしなくては」
と返されてしまい、それ以上何も言えなくなった。
 最初のスキンシップで敏感な場所を探し当てられ、そこを少しずつ意志をもった手つきで愛撫され、やがて、下肢へと移動する。ゆっくりゆっくりと半ば焦らされるように移動してきた手がようやく、待ち望んだ場所へやってきて、しかし、すぐに刺激をもらえるわけでもなく。
 確かに普段の行為と比べると体への負担はないに等しい。しかし、恥ずかしさと焦らされているようなもどかしさが舞白を襲う。何故だろうか。今すぐにここから逃げ出したいくらいには羞恥を感じていた。
 入り口の辺りで動いていた九十九の指がゆっくりと舞白の中に埋め込まれていく。その感覚に声を上げながら、舞白は息を吐き出す。そんな舞白の様子を注意深く観察しながら、九十九は指を奥へと進めていき、ナカがその形になれる度に指を増やしていく。もちろん、その間にももう片方の手で他の敏感な場所を愛撫することは忘れない。
「んんっ」
「辛くはないですか?これでようやく3本目です」
「ぁ、だいじょう、ぶ・・・だよ」
ゆるゆると動く指を感じながら、九十九の質問に返事を返す。
「それは良かったです。・・・それでは一度、指を抜きますね」
その宣言と共に、ナカを満たしていた九十九の指が、そっと抜かれていく。ようやくこれで本番に突入していくのかと、舞白がほっと息をつく。
「すみません。・・・疲れてしまいましたか?」
「ううん。・・・ちょっと、その、不思議な感じ、だなぁって」
すまなそうに眉を寄せる九十九に慌ててそんな風に返す。何はともあれ、ここまで来てしまえば、あと少しのハズ。・・・しかし、その考えは甘かった。
「もう少しだけ我慢してくださいね」
そう言って取り出されたのは、九十九がローションと共にベッド下から取り出していた玩具。
「えっと、・・・九十九?」
「指で慣らしはしましたが、指とはだいぶ大きさが違いますからね。段階を踏んでいきましょう」
完全にスイッチが入ってしまっている様子の九十九に対して、やらせてしまっているという罪悪感もあってそれ以上のことを言えず、舞白はされるがままになるしかなかった。

 数種類の大きさが違う玩具でさらに時間をかけて解された後で、ようやく自分の方の準備を始めた九十九を見て、舞白は気づかれないように詰めていた息を吐き出した。ここまで、肉体的な辛さや苦しさは一切無い。それなのにこの疲労度はどういうことか。
天井を見上げれば、嫌でも自分の姿が目に入る。浴衣の帯は抜き取られて、ベッドの脇に置かれていて、浴衣は両手の拘束の関係で完全に脱ぐことができないので、舞白の下敷きにされている。九十九は浴衣が汚れてしまうことを気にしたが、そろそろ変えようかと悩んでいた時期だったから、問題はないのだと説き伏せた。
 やがて準備を終えた九十九が舞白の傍へ戻ってくる。そして、案の状というか、負担の少ないバックを提案したのだが、顔が見えず、シーツばかりを見ているというのも何だが悲しい。
「九十九の顔が見える方が安心できるから、このままがいいな。・・・あ、でも、もし、九十九が嫌だったら、別のでも・・・」
「いいえ。兄さんが良いのなら、そうしましょう」
結果として、負担のある体勢を選択してしまったせいで、その時までの時間がさらに長くなったことは推測できるが、そこに関しては仕方ないものとして割り切ることにした。

 時間をかけて、ゆっくりと体内に収まった熱の塊に、舞白は九十九の方を見る。九十九もまた舞白を心配そうな顔で見ていた。
「・・・そんな顔、しないで、大丈夫。ねぇ、九十九。・・・大丈夫だか、ら。もっと、ちょう、だい?」
両手が動かないのが残念でならない。九十九の頭を撫でてやりたいのに。ありがとう。頑張ったねと。仕方ないので、舞白は精一杯の笑みを九十九に向ける。

 自分に向けられたその笑顔に瞬間、息が止まった。どうしてこの人はこんなにも清らかなのか。あぁ、心配などいらなかったのだと悟る。この人はこのくらいでは汚されない。自分程度じゃ、汚すことなど、できなかったのだ。
 そこからのことははっきりと覚えていない。精一杯、気をつけていたとは思うけれど、もしかしたら、行為のスピードを上げすぎてしまったかも知れない。
 ふと我に返った時、舞白は寝入るように気を失うところで、そっと努めてゆっくり体を退いて後の処理をしようとしたところで、九十九の記憶も途切れていった。


『おや、お二人ともお休みのご様子で。随分と仲むつまじい兄弟ですね。それでは、大変お疲れ様でございました』


 

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