▼ 雨の日の朝
心地良い雨の音がする。寝るには丁度良い雑音。今まで寝てたはずなのに、もう一度寝てしまえそうな安心感だ。
なんとか睡魔は振り切って、時間を確認するためにうっすら目を開けると、見慣れた青が一番に見える。
「あ、起きた」
「……ナルホド?」
隣を見ると、おはよう。と声を掛けてくるナルホドと目が合う。ぼーっとしながらも、挨拶を返した。
状況把握のために見渡すと、どうやら、昨日事務所のソファーで座ったまま寝落ちしたらしい。そのせいか、全身が痛い。
「来たらソファーに誰か倒れてるように見えた
から、心臓に悪かったよ」
「ごめん」
「いいよ、別に。寒くない?」
「なんとか」
布団代わりに掛けてあったスーツのジャケットからすると、布団も無しに寝てしまったらしい。少し雨で濡れているが、何も無いよりはマシだと思ったのだろう。
「オドロキくんと心音ちゃんは?」
「まだ来てないみたい。みぬきも、今日は朝から仕事だって」
「そっか」
珍しく二人きりの事務所だ。何時もの何倍も静かで、少し寂しい。
それはさておき、朝ごはんの準備にしよう。何にするか考えながら立ち上がろうとすると、腕を軽く引っ張られた。
「ん?」
「あ、いや。もう起きるの?」
「うん。ご飯食べるでしょ?」
「まぁ、うん。お腹も空いたけど……オドロキくん達が来るまで、もうちょっとくっつかないかなーって……」
何を三十路のおっさんが照れ臭そうに。
それでも、嫌ではないし、何よりナルホドの近くは安心する。もうちょっとだけなら、全然良いか。
座っているナルホドの膝を枕にすると、またうとうとと眠くなってきた。
「……落ち着く」
「それは、雨音が?」
「それもあるけど。あと、匂いとあったかさと声とか」
「そういう恥ずかしい事言うなよ……」
照れるナルホドに、少し笑ってしまった。
雨音と頭を撫でられる感覚に身を任せて、もう一度目を閉じてしまおう。寝てしまっても、これはナルホドのせいだ。
END
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