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▼ 盗み食い

小腹が減りキッチンに行くと、美味しそうないちごタルトと、タルトに使ったのだろうカスタードが置いてあった。きっとハインが来客用に作ったのだろう。人の好物をこれ見よがしに置いとくとは、やはり性格が悪い。
甘い匂いにお腹が鳴った。流石にタルトに手を付けはしないが、使い終わったカスタードなら一舐めくらい許されるだろう。
人差し指で救って口に入れると、甘くて美味しくて、思わず顔が緩んだ。

「名前様、何をなさっていらっしゃるのですか?」

緩んだ顔が、一気に引き締まった。後ろを振り向くと、ハインがメガネを上げながら、視線を離すこと無くこちらを見つめている。

「あ、いや、これは」
「随分と品の無い食事の仕方ですね。それとも、私の知らない作法か何かですか?」

あぁ、これは怒っていらっしゃる。
一瞬、逃げようかとも思ったが、ハインの足には敵わないだろう。それに、此方が足を少しでも動かすと、間合いを詰めるように距離を縮めてくる。

「で、でも!カスタードだけだから!タルトは食べてないから!」
「その前に、言うべき事があると思うのですが」
「うっ……ごめんなさい……」
「よろしい」

直ぐ様謝ると、ハインは少し笑って、自分の隣に立ち、包丁を取り出した。何をするのかと見ていると、タルトを4等分に切り分け、小綺麗なお皿に乗せた。

「さて、食べましょうか」
「……へ?」
「名前様の為に用意した物です。貴女が食べなければ、ビリー先輩やギース様の物になってしまいますが……」

予想外な展開に呆然としたが、タルトを下げようとするハインの手を見てハッとした。

「た、食べる!全部食べる!」
「1度に食べると肥えますよ。他の方々には秘密で、二人で食べる事にしましょうか」
「うん!」
「紅茶の準備も出来ています。少しの間、ゆっくり過ごしましょう」

珍しく柔らかく笑うハインに、少しだけ見とれた。優しくなってきた表情に嬉しいのは当たり前だが、同時に少し照れてしまったのは黙っていよう。




END

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