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▼ 名前


「おー、新入り。久々だな、元気だったか?」
「……リンドウさん、その呼び方そろそろ止めてくれません?」

会って早々、頭をぐしゃぐしゃに撫でられた。
リンドウさんに会うと、毎回こうだ。
ゴッドイーターという職業に就いてから数年は経過した。しかし、いまだにリンドウさんは私の事を新入りと呼ぶ。
前に、リーダーって呼ぶことにしようとか言っていた気がするが、たぶん本人は忘れているんだろう。一度、メールでだけ呼んでくれた私の名前だって覚えているのか分からない。

「あー……どうも慣れなくてな。俺の中ではまだまだ可愛い新入りだし」
「可愛くはないでしょ」
「いやいや、俺の後ろにべったり付いてくるのは初々しくて可愛かったぞ」

リンドウさんは、まるで親戚の叔父さんのように私の新人だった頃の昔話をし続けている。いい加減止めてくれと言葉の代わりに、軽く額を叩いた。

「なんだよ、生意気だなぁ……。昔の方が素直だった気が……」
「ちょっと黙ってください」
「あ、リーダー!やっと見つけました!」

リンドウさんと一緒に出撃していたアリサが、報告書を持って走ってきた。どうやら、確認のためわざわざ持ってきたみたいだ。
いろいろ指示を出している間、リンドウさんを少し見ると、気のせいか穏やかな顔をしている。

「……なんですか?」
「いや、ちゃんと隊長やってるんだなってな」
「当たり前ですよ、リンドウさん。もうリーダーはずっとリーダーやってるんですから」

アリサは呆れたようにリンドウさんに言った。リンドウさんは、また私の頭を撫で回してくる。さすがにちょっと鬱陶しい。

「いろいろと助かりました、リーダー。また何かあったらお願いしますね」
「はいよー」

小走りで報告書の提出に行くアリサに軽く手を振っていると、リンドウさんは近くのソファーに座ってタバコを吸い始めた。
隣に座れと言っているのか、ソファーをガントレットの方でポンポンと叩いている。大人しく座ると、叩いていた手の方で頭を撫でられた。ゴツゴツしているせいで少し痛い。

「なんか……随分と成長したな」
「リンドウさんが迷惑掛けたから」
「そりゃあ悪かったよ。俺は俺で大変だったんだ」
「知ってます」

リンドウさんは少し笑った後、タバコの煙りを吐き出すと、ゆっくりと口を開いた。

「お前さんには、隊長らしい事全然してやれなかったな」
「十分してもらいましたよ?」
「って言っても、基本的な事だ。誰にでも教えられる」
「いや……戦術的なものじゃなくて、もっとこう……いろいろと」
「なんだそりゃ」

なんだか気恥ずかしくて言えなかった。本当はもっといろいろあるんだが、今更言うのもちょっとあれだ、恥ずかしすぎる。

「あー、そうだ。お前さん、他の部隊に配属するんだろ?ブラッド……だったっけか?」

いきなり何を言い出すかと思った。まだ誰にも言ってはいないはずなんだが。

「予定ってだけですけど……どっから聞いたんですか?」
「姉上がな。いろいろ悩んでそうなら力になってやれってさ」

ツバキさんらしくないお願いだ。知らされた時にかなり悩んだからだろうか。

「クレイドルの事は……まぁ、アリサやソーマもいろいろやってくれてるから安心しろ。自分のやりたいを事やれば良い」
「……うん。ありがとう、リンドウさん」

リンドウさんは、少しだけ目を細めて笑った。
煙草の火を消して立ち上がる姿を見ると、リンドウさんは目線を合わせてくれた。

「そろそろ行くわ。この前出撃した時の報告書遅くなって姉上に説教されるのもお断りだしな」
「まだ出してなかったんですか……」
「そんな呆れた顔すんなよ。じゃあなー、名前」

まったく、困った上司だ。サクヤさんも苦労してるだろうに。
呆れながらも、エントランスから出ていくリンドウさんを見つめた。

「……ん?……あれ、今、名前……気のせい?」




END

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