「かすがちゃん、図書室って何処?」
「3階の階段を下って左にあるぞ。…すまない。一緒に着いていってやりたいが、部活があって」
「ううん、平気。大体わかったから私行くね。ありがと!」
放課後。かすがちゃんと別れ、私は図書室に向かう。寮に帰って何か本でも読もうかと思い、道を教えて貰ったのだ。
言われた通りの道を進むと、簡単に辿り着いた。
「うわぁ…」
メチャクチャ広い。やっぱりこの学園はどこもかしこも広すぎる。室内に入り、様々なジャンルの本が並ぶ本棚を見渡し、とりあえず小説の本棚を漁る。面白そうな本を端から手に取り、パラパラとページをめくる。
その途中、上の段に私の好きな作家の本が目に入った。その本はまだ読んだことの無いもので、手を伸ばす――
「と、届かない…」
予想以上に高く、後少しというところで手が届かない。身長は高い方なのに、この本棚どんだけ高いの!?頑張って背伸びをするが、やっぱり届かない。
「んー…っ?」
横から誰かの手が現れ、私が取ろうとした本が取られた。隣の方を見ると、帽子を深く被った男の子が私の前に本を差し出していた。
「あの…わ、私に?」
彼はコクンと首を縦に動かす。
「ありがとうございます!助かりました!」
彼はまた首を縦に動かし、足早に何処かに行ってしまった。名前聞いておけばよかったな。
「あーあ、風魔に先越されちゃった」
「わっ!?さ、佐助くん!」
「やほー♪」
佐助くんはにこやかに手を振るが、いつの間にいたのだろう。吃驚し過ぎて心臓が止まりかけた。
「いつからいたの?」
「小晴ちゃんが来る前にはいたよ」
え?全然気付かなかったよ。彼は気配を消す達人なのだろうか。見た目はかなり目立つのに。
「俺様も小晴ちゃんのお助けしたかったのになー。風魔の奴に先越されちゃったし」
「風魔って、さっきの人?」
「そ。あいつは風魔小太郎。因みに隣のクラス」
風魔くんかぁ。他のクラスにもあんなに優しい人がいたなんて。覚えておかなきゃ。
「…風魔が気になるの?」
「え?」
「風魔のこと考えてたでしょ」
「え?あ…やっ、優しい人だなぁって思ってたけど」
「ふーん」
あれ?心なしか不機嫌な気が…。さっきまでのヘラヘラした笑顔が消え、少し恐かった。
「あの、怒ってる?」
「んー?わかんない」
「え?きゃっ!?」
急に腕を引っ張られたかと思ったら、目の前には佐助くんの顔が。すぐ後は壁、空いている手は佐助くんに掴まれている。
「…なっ何?」
「小晴ちゃんって鈍い所あるんだね。俺様の今の気持ちがわかんないなんて」
「…わかんないものはわかんないもん」
「成る程ね。風魔は優しい人なら、俺様のことはどうなの?」
「えっ……その、佐助くんも優しいよ。お昼ご飯を少し分けてくれたりとか」
「そっか」
ようやく掴まれていた手が開放されたが、佐助くんは何故か眉間に皺を寄せていた。
「ごめんね。吃驚したでしょ?」
「う、ううん。大丈夫」
「ありがと。俺様もう行くわ。じゃあね」
「うん、バイバイ」
佐助くんが図書室を出て行った後も、さっきの事を思い出していた。男の子とあんなに近づいたのは初めてで、心臓の音がうるさくて仕方なかった。それからずっと、その事ばかり頭の中でぐるぐる巡っていた。ずっと持っていた本を強く握り締め、ただそこで佇んでいた。