お館様のお言葉に甘えて、私は甲斐で暮らす事になった。そして今は、佐助さんと幸村さんに城内を案内して貰ってます。
「小晴ちゃんの部屋はここね」
「広っ!何か申し訳無いんですけど…」
「いーの。みんなこの位の広さなんだから」
「で、でも……っ!」
「“でも”は無し。俺様に気を使っちゃだーめ」
佐助さんに人差し指で私の唇を押さえられた。吃驚して思わず肩が揺れてしまった。…不意打ち過ぎる。
「さささ佐助!破廉恥でござるぞ!」
「旦那は騒ぎ過ぎ。旦那は放っといて、次行きましょー」
「佐助ぇー!!」
この2人は本当に主従関係なのだろうか。佐助さんが幸村さんのお母さんな気がする。
「小晴ちゃん、今俺様がお母さんの何だのって考えてたでしょ」
「え、そんな事無いですよー」
「うわー棒読み」
「棒読みだなんてそんな。アハハ」
「小晴ちゃんも悪だねぇ」
「佐助さん酷いですよー」
何だろうこの会話。佐助さんから若干悪意を感じる気がする。
「…もういいや。次行こうか」
「あ、はい」
佐助さんに呆れられながら、先を行く佐助さんと幸村さんの後を追った。
***
「とりあえず、こんなところかな」
「ま、迷子になりそう……」
「あはは。そのうち覚えるよ。…そうだ。小晴ちゃん、お風呂入る?」
「え?」
「小晴ちゃん、ここに来るまでに疲れちゃったでしょ?風呂入って疲れを癒して来な」
確かに慣れない馬に乗って疲れたし、地面に寝ていたからか、体に少し泥が付いている。汗でベタベタして気持ち悪いから、お風呂は有り難い。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「俺様が背中流してあげようか?」
「結構です。近寄らないで下さい」
「佐助!破廉恥極まりない!!」
「冗談だってばー。女中に案内させるから、後を付いて行けば風呂場に着くよ」
「はーい」
言われた通りに女中さんの後を追った。
「……面白い子だね、小晴ちゃんって」
「む?」
「あんな子初めて見たよ。でも面白くて見てて飽きないなって。俺様小晴ちゃん気に入っちゃったかも」
「なっ、佐助!!!」
「ちいち騒がないの。全く旦那ったら」
「す、すまぬ…」
「さーて、俺様はもう一仕事するかな」
***
そんな中私は入浴中。お湯の温度も丁度良く、広々とした室内で凄くリラックス出来る。
「…はぁ。何だか大変な事になっちゃったな」
今までの事を、湯船の中で思い返していた。いきなりタイムスリップし、幸村さんと佐助さんに拾われた事や、お館様と話した事も。どうしてこんな事になってしまったか分からないし、元の世界に戻れる方法も分からない為、どうにも出来ないのが事実だ。だから、戻れるまでこの世界で暮らしていくしかない。もしかしたらこの世界で生活していくうちに、その方法が見つかるかも知れないし。
「…甘えてなんかいられないよね」
生き延びるためにはそうするしかない。そう自分に言い聞かせ、湯船からあがった。
用意して貰った着物に着替え(正確には着せて貰った)、部屋に戻ろうとした。さっき教えて貰った道のりを進みながら何とか部屋に辿り着き、部屋の中に入ろうとした。
「小晴殿!」
「あ、幸村さん。どうかしましたか?」
「少々お時間を頂きたいのだが」
「私なら大丈夫ですよ」
「では、来て欲しいでござる!」
「あっ、ちょ、待ってください!」
走り去ってしまう幸村さんを慌てて追いかけた。果たして、私は何処へ連れてかれるのだろうか――。