重苦しい空気が漂う。お館様を目の前に私は圧倒され、言葉が出ないでいる。そのお館様も舐め回すように私を見ているから、尚更緊張してしまう。
「お主、名は何と申す?」
「えっ、えっと…塚本小晴です」
「小晴か。儂はこの甲斐の国を治める武田信玄じゃ」
…えっ?武田信玄!?あの教科書に載ってるお方!?
自分が今戦国時代にいることは理解していたが、まさか有名な人に会えるなんて、信じられない。
「小晴ちゃん、また百面相してるよ」
「あっ、す、すいません…」
「構わぬ。それより小晴は姓があるようだが、何処かの国の姫か?」
「姫?私はただの一般人です」
「でも俺様こんな着物着た人初めて見るよ。もしや、南蛮人?」
「れ、れっきとしたジャパニーズです!」
「じゃぱにーず、とは?」
「あ、日本人ってことです」
「日本人なのになんでそんな言葉知ってるのさ」
「そ、それはっ……」
視線が痛い。イタすぎる。お願いだからそんなに見つめないで。
「小晴、正直に申してくれ。お前は何処から来たのじゃ?」
わー率直。『未来から来ました!』何て言っても、果たして信じて貰えるのだろうか。
でも黙っていても疑われるままだろう。…覚悟を決めるしかない。
「私は…未来から来たようです」
「「「…………」」」
……あれ。何でみんな黙るの?
『未来…って、どういうことでござるか?』
「私はこの世界の人間ではありません。何百年も先の世界で生まれたんです」
そりゃそうだ。驚くのも無理は無い。
「その着物も未来で着てる着物?」
「そんな感じです」
「姓があるのも当たり前なのか?」
「普通にみんな名乗ってます」
「成る程…」
どうやら話を理解してくれたようだ。
「だが、どうやってあの森に来たのでござるか?」
「それがあまり覚えていなくて。寝ていた筈が目が覚めたら、あの森にいました。元の世界に帰る方法もわからずで」
「帰れないってわけか」
「……はい」
「……小晴よ」
「は、はいっ」
「お主は此処にいるが良い」
「えっ?」
「未来とやらに帰れるまで、此処で生活するのだ」
私が?此処で?
「あの、皆さんから見れば、私なんて余所者ですよ?」
「確かに怪しい奴とは思ったが、儂はお主の話を信じるぞ。それに、女子を放っておく訳にはいかん」
「い、いいんですか?」
「小晴はもう武田の一員じゃ」
その言葉に、涙が込み上げた。今までみんなを疑っていた自分が馬鹿らしく思えた。こんなに優しい人達に拾われた私は、運が良かったのかもしれない。
「よ、宜しくお願い致します」
塚本小晴、19歳。武田の皆さんの優しさを感じながら、お世話になることになりました。