着慣れたTシャツ、中学時代よく履いた部活のジャージに着替え、バスケットボールを抱えて階段を駆け降りる。
「お母さん、ちょっと出掛けてくるね」
「何ー?またバスケでもしに行くの?」
「うん。コーチを頼まれたからね。夕方頃には帰ってくるよ」
「はいはい。気を付けてねー」
母の声を聞きながら靴を履き、玄関の扉を開けた。駆け足で庭に置いてある自転車に向かい、それに乗ってペダルを踏み込んだ。
い ち ご あ め
柿原壬琴、高校1年です。今向かっているのは近くの公園。そこにはバスケのコートがあって、知り合いの子達とバスケをする約束をしているのだ。因みに私は小学生の頃からバスケを始め、今はこうして、ストリートバスケで大好きな時間を過ごしている。
この秋田の地に吹く心地良い風を受けながら、自転車を漕ぐ途中…
「駄菓子屋さん?そうだ。お菓子でも買って来よう!」
通りかかった駄菓子屋で寄り道をすることにした。中に入れば、おばちゃんが笑顔で『いらっしゃい』と迎えてくれた。陳列された駄菓子に誘惑されながらも、物色していく。
***
(あっ、まいう棒。新味出たんだ)
カゴの中がある程度いっぱいになった時、たまたまそれが目に入った。しかもラス1。興味本位で手を伸ばした時……
ぱしっ。
「あっ、すみま…!?」
誰かの手が当たってしまい、謝ろうとして顔を上げたが、
(……デカい)
一目見て思った。デカ過ぎる。私もどちらかと言えば背は高い方だけど、そんな私でも首がかなり上を向いている。痛い。これでもかと言う所まで見上げ、ようやく紫色が見えた。
一方紫の人は同じ色の瞳を揺らしながら、ずっと私を見つめている。沈黙が続き、何だか恐くなり耐え切れなくなった私は、思い切って口を開いた。
「あの、どどどっどうぞ!」
「?いいのー?」
「わ、私はいいです。あああ、あなたが食べて下さい!お、おばちゃん!会計お願いします!」
「はいよー」
『380円ね』とおばちゃんに言われ、急いで財布から小銭を取り出して会計を済ませた。
「じゃ、じゃあ!!」
そして私は逃げるように駄菓子屋をあとにした。それはもうおばちゃんの『ありがとねー』という声が聞こえないくらいの速さで。
(…変な子ー)
これが私達の初めての出会い。