「みこちーん。お菓子持ってない?」
「えっ、飴ならあるけど」
「ちょーだーい」
「ちょっと待ってね。取り行ってくる」
最近、紫原君がお菓子を集りに私のところに来るようになった。現に今も。
自分自身お菓子を常備するタイプだから何の問題は無いが、恐らく彼は私に言えば何か貰えるって思っているかもしれない。
一旦教室に入り、自分の机の横にかかっている鞄から飴を探し出す。
「…あった」
ポケットの中から見つけた。紫原君の体の大きさ的に1個じゃ足りないだろうから3つ飴玉を握り、再び紫原君のもとへ。
「お待たせー。はい、どうぞ」
「ありがとー。…そーだ。お昼さー、みこちんも今日は食堂で食べよーよ」
「えっ?う、うん。いいよ」
それと私のことを『みこちん』と呼ぶようになり、お昼休みになると決まって私達の所に遊びに来る。『みこちん』ってあだ名は初めて呼ばれたから何だか変な感じがするな。
「じゃあまたあとでー。しのちんにも伝えといて」
「わかった。じゃあね」
もうすぐ授業が始まるため、紫原君とは教室の前で別れた。因みに『しのちん』とは晶ちゃんのことらしい。苗字が『四ノ宮』だからだろうか。
「紫原君、教室に戻ったの?」
「うん。さっきよかったら食堂でお昼食べようって紫原君言ってたよ」
「食堂ねー…。いいよ。私も行く。壬琴一人じゃ心配だから」
「えっ?どういうこと?」
「だって最近の紫原君、やたら壬琴に構って来るじゃん?私の壬琴に何かあったら心配だもん。見張りも兼ねて行くわ!」
「そんな大袈裟な…」
と言ったら晶ちゃんに怒られた。『少しは警戒心を持ちなさい!』とお説教を受ける中、始業を知らせるチャイムと同時に先生が教室に入って来たのだった。
***
―――そしてお昼休み。
私達は食堂に来ていた。食堂は寮生が利用することが多いが、基本は誰でも利用できる。普段利用することの無い食堂に足を踏み入れるからか、何かドキドキする。
「みこちーん、こっちこっちー」
少し離れた所でもう席に座っている紫原君を発見した。大きいからやっぱり目立つなー。席に座り、持ってきたお弁当を広げた。いただきます。
「…ところで、紫原君はそれ全部食べるの?」
前を見ると、ご飯はちゃんとあるが、それよりも尋常じゃない量のお菓子。
「うん。お腹空いてるしー」
「す…すごいね」
彼は大食いなのだろうか。胃袋の中を覗いてみたいと思いながら、大好きなハンバーグを口に運ぼうと……
「みこちんのそれおいしそー。ちょーだい」
パク。
気付いたら紫原君に右手を掴まれ、口の手前に持ってかれていた。一方のハンバーグは…彼の口の中に。つまり、食べられてしまった。
「……っ!?」
ようやく今の状況を理解した私は、フリーズ状態。
「んー。これうまーい」
「紫原敦ー!壬琴になんてことするの!!」
「えー。なんでしのちんが怒るの?だって美味しそうだったんだもん」
「そういう問題じゃない!壬琴は私のなんだからね!気安く触らないで!」
「はぁ?意味わかんねーし。どうしたのしのちん」
「壬琴、大丈夫?」
「…私のハンバーグ」
「そこ!?」
ハンバーグよ……カムバック。