山本生誕祭 | ナノ




 

その背中にもう一度恋をした

今日は山本武の誕生日。
そのせいか女子達がいつも以上に騒々しい。
ラッピングされたプレゼントを持って気合い十分なオーラをガンガン放っている。
やっぱり山本くんはモテるんだな・・・そりゃあカッコいいもん。

そんな私も山本くんにプレゼントを渡そうとしている1人。
入学してからずっと片思いだが、2年になってクラスが同じという念願が叶ったのに、まともに話したことが無い。
何度もキッカケを作ろうと試みたのに、チキンな性格の私はなかなか踏み出せないでいるのだ。

因みに私が用意したプレゼントは野球ボールのストラップ。
野球部である彼に因んで選んだが、周りの人達のプレゼントを見て安っぽく感じてしまい、虚しくなった。



「山本くん、誕生日おめでとう!良かったこれ受け取って」

「私のも受け取って!」


そうこうしていると、山本武本人のお出まし。
入って来るや否や女子達はぞろぞろと駆け寄って行く。
続々と来るプレゼントの嵐にも、いつもと変わらない笑顔で彼は受け答えている。
…今その笑顔は見たくない。こんなのを渡されても彼は喜んでくれないだろう。
目の前の光景をストラップを握り締めながら、ただ見つめるしか無かった。



*****
―結局渡せずに放課後になってしまった。
教室に1人残った私は、ストラップを手に溜め息をついた。
正直もう諦めた。プレゼントを渡すのも、山本くんを好きでいるのも。
ストラップは弟にでもあげよう。
鞄を取り、帰ろうとしたが・・・


「おっと、わりぃ!」

「ご、ごめんなさい!・・・あっ」


まさかの出入り口で山本くんに出会ってしまった。


「苗字、今帰りか?」

「う、うん。山本くんはどうしたの?」

「忘れ物をな。大事なものだから取りに来たのな」


駄目だ。本人を目の前にするとうまく話せない。私は本当にチキンだ。
この気まずい雰囲気から逃れたい。


「じゃっ、じゃあ私行くね。部活頑張って」

「待って」

「え?」


その場を去ろうとしたが遅かった。
山本くんに呼び止められ、一瞬心臓が跳ね上がる。


「その手に持ってる奴、誰かにあげんのか?」

「え・・・別に、誰かにあげるとかは・・・」

「だったら俺にくれよ」

「えっ!?」

「苗字が持ってるそれ。俺欲しいのな」

「えっあ・・・良かったら、どうぞ」

「サンキュ。大事にするぜ」


山本くんはそう言って部活に行ってしまった。


その後ろ姿を見て、また恋をしてしまう私―――


 

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