「……はぁ」
いつも通りに登校し、教室の窓から景色を眺めていた。山本家でバイトし始めてから、武に対してドキドキしてしまう。昔はこんな事無かったのに。やっぱり病気なのかな…。
「何ボーっとしてんのよ」
「わ!…何だ莉紗か」
「何だって何よ。挨拶無しに」
「……おはよー」
「おはよ。で、浮かない顔してどうしたの?」
莉紗はそう言いながら私の前に座る。
「もしかして、山本くん関連?」
「なっ…!」
「図星みたいね」
「まだ何も言って無いよっ!」
「いや、何となく山本くんのことかなーって」
彼女は恐ろしい程に勘が鋭い。改めてそう感じた。
「―うの」
「え?」
「最近武にドキドキしちゃうの」
莉紗はふーんと呟き、ニヤニヤしながらこっちを見てくる。
「可笑しいよね。ただの幼なじみなのに」
「本当に、“ただの”って言っていいの?」
「え?」
「あるじゃん、幼なじみとの恋ってヤツ」
「ちょっと、そんなんじゃ無いってば!」
「人生何が起こるかわからないよ」
「もうっ」
親友に完全に遊ばれている。私をからかってそんなに楽しいのか。ここに菜々美がいないだけまだよかった。2人揃っていたら、尚更酷い目にあっただろう。
「ま、精々頑張りなよ。私は応援しているから」
「だから違うってば!!」
「高島、寺田。席に着け」
駄目だ、話聞いてくれない。彼女に何言っても無駄みたいだ。いつの間にか来た先生には注意されるわで、もう朝から溜め息しか出なかった。
***
今週は日直で、教室で1人日誌を書いていた。毎日担任がチェックする為、しっかり書かないと怒られる。最後に見直しをし、窓を閉め、教室から出ようとした――
ガラガラ。
「「わっ」」
吃驚した。この前のマネージャーの子がいた。
「あ、ごめんね。吃驚させちゃった?」
「う、ううん。大丈夫」
あぁ、やっぱり可愛い。直視出来ないよ。
「そうだ。この前はありがとう」
「え?」
「グラウンドに連れてってくれた時」
「あぁ、山本くんにお弁当を届けてた時ね」
「う、うん。お礼も言わずに出て行っちゃったから…」
「いいのいいの。気にしないで」
彼女は笑ってそう言ってくれた。笑顔も可愛くて、思わず胸が高鳴ってしまった。
「そう言えば山本くんに聞いたんだけど、幼なじみなんだってね」
「え、う、うん」
「吃驚しちゃった。まさか幼なじみだとは思わなかったよ」
「そ、そうかな?」
「うん。ちょっと意外だった」
昔から幼なじみには見えないと言われてきたが、流石にちょっと虚しい…。
「そう言えば、由香里ちゃんだっけ?」
「え?う、うん」
「私は大橋千恵美。良かったら、また由香里ちゃんとお話したいな」
「わっ、私なんかで良ければ…」
「うん、是非!よろしくね」
「こちらこそ。よろしくお願いします」
「そろそろ部活行かなきゃ。じゃあね」
「ばっ、バイバイ」
胸の辺りで小さく手を振りながら、千恵美ちゃんを見送った。まさか、あんな美少女と友達になれるなんて思わなかった…。