※千恵美視点。
私の名前は大橋千恵美。並盛中学2年D組で野球部のマネージャーです。
いつもと変わらずにドリンクを作ったり、スコアをつけたりなどをしていた。顧問の先生に仕事を頼まれ、私はそっちへ行く途中、声をかけられた。
「あ、あのっ!」
学校ではあまり見ない子だった。恐らく違うクラスの子だろう。彼女はお弁当が入っているような包みを片手に、何故かエプロンを身に纏っていた。
「えっと、たけ…山本くんはいますか?届けたいものがあって来たんですが」
ただのミーハーな子かと思ったが、一応彼女を校庭まで案内した。
休憩の号令が入り、部員のみんなが一斉に集まりだす。ドリンクを一人一人に渡している中、山本くんとあの子の会話が目に入った。彼女は山本くんにあの包みを渡している。耳に入った会話から、どうやら彼女は山本くんと親しいみたいだ。その光景は何処か良い雰囲気で、2人共楽しそうだった。
「山本ー。高島さんとおアツいとこ悪ぃけど、早くメシ食わねーと休憩無くなるぜー?」
他の部員の野次が飛び交う中彼女は急に真っ赤な顔をし、慌てた様子で走り去ってしまった。唖然とした様子で佇んでいる山本くんに私は近付く。
「山本くん、さっきの子は誰?」
「え?あぁ、由香里か?アイツは俺の幼なじみなのな」
「幼なじみ?」
「最近俺ん家に手伝いに来てて、俺が忘れた弁当もわざわざ届けてくれたみてーで」
「ふぅん。だからあんなに仲良さそうだったんだ」
「まあ、幼なじみだからな」
山本くんに幼なじみがいたなんて初めて知った。それを聞いて由香里ちゃんが羨ましく感じた。実を言うと、私は山本くんが好きだ。山本くんに近付ける為に野球部のマネージャーを勤めたようなものだ。でも、そんな私よりも山本くんに近い存在に当たる人に、今日出会ってしまった。しかも幼なじみ。色んな山本くんを知っている彼女に対し、悔しい思いが募る。
「ねぇ、あの子の名前もう一回教えて」
「ん?・・・高島由香里なのな」
「クラスは?」
「俺と一緒だぜ。急にどうしたんだよ大橋」
「ううん。別に」
―――高島由香里ちゃん。
名前を聞いた瞬間、私の中で闘争心を抱いた。あの子には負けたくない。私だって山本くんのことが好きなんだから。