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何かしらにつけて、最後のって言葉が付きまとうようになってしまうのは、最早仕方がないことなんだろう。
それは十分に理解していて、けど、どこか受け入れたくなくて。

ほんの少しだけ寂しいなんて感じてしまったのは、今日という日には合わない感情だと十分に理解していた。



「にしても、だ。最後の最後でまさか当たるとは誰も思ってなかったよな。」
「ごっめーん!けど、ほら、これもいい思い出っていうか、ね!」
「グズ川てめぇ余計な仕事増やしてんじゃねーよ。」
「いや、まぁ、仕方ないだろ。」
主将である及川の胡散臭い笑顔に慣れっこの俺たちは、いつも通りにそれぞれの攻撃を済ませるとそそくさと役割分担を決めることにした。

こいつらとこんな風に馬鹿やったり、笑いあったり、騒いだりすんのも…なんて考えるのは、一月前に先輩たちを見送ったばかりだからだろうか。
今までは感じなかった、最後の一年、という当たり前の現実を、俺は強く感じすぎているのかもしれない。

「マッキーどうかした?」
俺が黙っていることを不思議に思ったのか、及川がボロボロになりながら話しかけてきた。
相変わらず岩泉は容赦ねぇな。
「別になんでもねーよ。」
そう答えれば、一瞬、ほんの一瞬だけ及川は俺のことをじっと見てからふーん、と一言静かに吐き出してから後輩たちに向かっていった。
うちの主将様は本当、心の中をのぞく能力とかあんじゃねーかと思うことがある。
まぁ、こんだけ一緒の時間をすごしていれば、それは及川だけじゃなく、部活の仲間、特に3年の奴らには色々見透かされてるのかもだけど。



そして迎えた入学式当日。
早めに集合させられた俺たちは事前準備を済ませて、新入生を迎えていた。

「おはようございます、このまままっすぐ進んでクラスの確認をしてください。」
正門での案内が俺の役割で、真新しい制服に身を包んだ新入生はどこかぎこちなく門をくぐっていく。
お、こいつ中学の大会で見たことあんぞ、と思うやつもちらほらいて。
バレー部入ってくんだろうな、って思うと体育館での部活が待ち遠しくなるから不思議だ。


「っし、もうそろそろ時間だし案内も終わりでいいだろ。」
他のメンバーと声を掛け合って正門を離れる。
手伝い終わると、先生達からご褒美もらえるらしいぜ、ジュースか、お菓子か、なんて言葉を交わしながら裏方のやつ等と合流しようと移動していたのだけれど…。
校舎の片隅、うずくまる制服姿の生徒を見つける。
「花巻?」
「わり、ちょっと先行って。」
「あ、おい!」
見つけたからにはスルーできなくて、けど、俺が駆け寄って何ができるかもわからなかったけれど、それでも、俺の足はその子に向かって一直線にかけていた。


「おーい、新入生ならもう教室入らないと…初日から遅刻はまずいでしょ。」
俺の声に、うずくまっていた子はビクリと大きく肩を揺らす。
こんなとこで何やってんだ、って思いながら声をかけるも、それ以上どうしたらいいのかもわからず言葉につまる。
ふと視線を動かせば、うずくまるその子の手の中に立派な紙が握られていることに気づく。
「もしかして、新入生代表挨拶の…?」
そう呟けば、その子はゆっくりと丸めていた身体を動かして立派なソレを握り締めながらポツリと言葉を発した。

「緊張、しちゃって…。」

小さな小さな声だった。けれど、届いたその声に、返ってきた言葉に気をよくした俺はその場に座り込んで話を続けることにした。

「すげーじゃん、新入生代表ってことは、入試トップってことだろ?」
「それは、どうかはわからないけど、こんな人数多いところで話すなんて私、初めてで…。」
中学に比べたら、クラスも多いしもちろん人も多い、だから緊張も仕方ないのかもしれない。
でも、勿体ねーな、って正直その時の俺はそう思っていた。

「同じ学校のやつは?」
「私、引っ越してきたばっかりで、だから…。」
「へぇ、ならもっと都合よくね?」
「え?」
「知らない奴らばっかなんだから、失敗したって、何したって、いいじゃん。」
そう声をかければ、その子は初めて顔を上げた。
視線がぶつかる。

「そりゃ、しっかりやりきりたいとか、ちゃんとしなきゃ、とかそうしたい気持ちはわかるけど。」
「うん。」
「確かに、今日失敗したら、入学式の、とか言われちゃうかもだけど。」
「ひっ!」
最悪の事態を想像したであろう目の前の彼女は、紙を握り締める手に力を込めて青ざめていく。
「けど、それがスタートなら、後はもうそれ以上怖いことなんてねーって思えるっていうか。」
自分でも何言ってるかわかんなくなってきたけど、でも、なんとなく言いたいことは、伝えたいことはあって。

「ちなみに、在校生代表挨拶で話すやつ、今の生徒会会長で、俺らの新入生代表挨拶やったヤツなんだけど。」
「え、あ…、え、先輩、だったんですか!?」
俺が先輩だったことにも気づかないくらい緊張していたのか、それとも、俺が新入生に見えたとでも言うのだろうか。それはそれでちょっと、うん、アレだな。
先輩と話していたということを知った緊張し過ぎな後輩は、すみません、とまた視線を下げてしまった。
「気にしなくていいって。で、さっき言った会長様だけど、入学式の新入生代表挨拶でいきなり歌いだしたから。」
「え??」
「ありえねーだろ?でも、マジなんだよ、これが。先生も俺らも親もみんないきなりの熱唱に唖然としたわけ。」
これは本当の話。会長様の伝説はあの時から始まったと言っても過言ではない。

「本当に、歌った、んですか?」
「マジだから。え、何なら今日その伝説再び、とかやってみる?」
「まさか!!歌うなんて私にはそれこそ挨拶以上にできません!」
「うん、だろ?そんな変な奴が前例としているって知ってると、ほら、自分が大丈夫って思えないかなーなんて。」

さっきより大分顔色がよくなった、と思う。
緊張しすぎて青ざめていたけれど、今は声も普通の大きさになってきたし、表情だって出てきた。

「緊張するのもわかるけど、これからもっといろんなことあるんだからさ、思い切ってやってみるってのはどうでしょうか。」
3年間、あっという間だって先輩たちは言っていた。
俺も、最後の一年だって実感して、それを感じ始めていた。
けど、1年の頃は想像もしていなかったようなことが山のように起こって、そしてすげー奴らとたくさん出会うことができたのだ。

「青城はいいとこだし、こんないい先輩もたくさんいるんだから、楽しんでよ、後輩ちゃん。」
「っ、はい!!」
ヨシ、と声をかけて立ち上がれば、その子も俺に合わせて立ち上がる。
「クラスは?場所わかる?」
「3組です。」
「マジか、俺も3年だけど3組。縦割りとか一緒になったらよろしくなー。」

当たり前だけど俺より低い位置にある頭に無意識に手を伸ばしていていると、ポケットに入れておいた携帯が震える。
「お、ちょっとごめんな。おー及川どうし…。」
「ちょっとマッキー何初日から後輩ちゃん口説いてんのさ!!」
耳に当てた携帯と、それ以上に本人の声そのものが聞こえてきて辺りを見渡せば、いつものメンバーが少し離れた場所に集まっているのが確認できた。
その中心にいて、携帯片手にわーわー叫んでいるのは我らが主将様である及川だった。

一方的に通話を切れば、本人の声がさらに大きくなったのだけれど、イデッという声を最後に騒ぎはなくなったので岩泉が殴って黙らせたのだろう。

「そろそろ行かないと、本当に遅刻になるな。」
「あの、先輩も生徒会の方、ですか?」
「俺?俺はバレー部。入学式の手伝いに来てただけ。んで、あっちにいんのがバレー部の仲間。」
高校生活で出会った、最高の、チームメイトだ。
そんなこと、恥ずかしいからあいつらの前で言ったりなんかしねーけど。
「なんだか、すごく楽しそうですね。」
「楽しそう、じゃなくて、楽しい、だよ。間違いなく。」
そう言って笑えば、後輩ちゃんはすっかり緊張が解けた笑顔を向けてくれる。
「私も、先輩みたいな高校生活を送れるように、まずは今日の挨拶をやりきります!」
「ん、それじゃ、またなー。」
言い切った彼女を見て、もう大丈夫だなと判断してから及川たちの元に向かう俺を引き止める声。

「あの、先輩の名前、教えていただけませんか?」

声に振り向いて彼女を見れば、握り締める手の中にくしゃくしゃになっているように見える、挨拶が書かれているであろう立派な紙。
そしてまっすぐな視線が俺のそれとぶつかる。

「花巻、花巻貴大。3年3組バレー部です。」
「花巻先輩、ありがとうございます!バレー部、絶対見に行きます!!それじゃ、失礼します。」
俺の名前を聞いたことで満足したのか、自分は名乗らずにその場を去って行った後輩ちゃんに呆気にとられてしまったけれど、バレー部見に来るっていうし、まぁいいか、と判断する。

「花巻ニヤニヤしてて気持ち悪いから。」
いつの間にか俺のそばにはいつものメンバー。
「マッキー及川さんより先に新入生のファンゲットするとか許さないからね!」
「うるせーグズ川!!さっきまで新入生に囲まれてただろーが!!」

バレー部うるさいって職員室から先生に注意されるのも、初めてなんかじゃない。
最後の一年だ、とかなんとなくマイナスな気分になっていたのが嘘みたいに、今は晴れ晴れとしていた。


緊張したのなら、その分、それ以上に、思い切り楽しめばいい。
新しい環境で、初めてのこと、初めての人と、初めての出会いが待っている。

そして当たり前のように楽しいだけじゃなくて、嫌なことだって同じくらいやってくる。


でも、きっと、数年後、数十年後、思い出すのはこいつらと笑い合った日々だって、そう思える。


そんな日々の中で、隣にいるのが、彼女だったらいいなんて、そう思い始めていることに自分でも驚いてしまう。
最後の、なんて言っていたはずなのに、こんな風に初めて抱く感情があるなんて。



そして部活紹介を終えたその日、体育館に及川目当ての後輩女子が押し寄せる中、まっすぐに俺の元へと駆け寄ってきた後輩ちゃんが、真っ赤な顔をして自分の名前を俺に告げてくれるのは、この数日後―――。

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花巻貴大の場合
michi様