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中学一年から及川先輩に恋してた
格好良くて優しい先輩が大好きで、絶対付き合いたい!と、そんな邪な気持ちを糧に受験勉強を死ぬほど頑張った。その甲斐あって入学式 私は憧れの及川先輩と同じ白いブレザーを身にまとって家を出る

「ぷはっ、勇太郎似合わない!」

「うるせーな!」

家の前で待っていた幼馴染と白いブレザーが余りにミスマッチすぎて笑ってしまった。

「今日は国見と一緒じゃなくて良かったの?」

「ん?…まあ、お前一人じゃ迷子になりそうだし」

「何それ!大丈夫だもん」

「分かった分かった、ほら行くぞ」

お前そう言っていつも迷子になってるからな、と呆れたように笑う勇太郎にぐうの音も出ないまま後ろを着いて行く。小さい頃からずっと一緒だったはずの勇太郎の背中は、昔よりも大きくてなんだか不思議な気持ちになった。

▼▼▼

青城に着けば、正門からすでに新入生とその保護者で大いに賑わっている。

「おはようございます、このまままっすぐ進んでクラスの確認をしてください。」

背の高い先輩がそう言っているのに「はあい」なんて気の抜けた返事をしながら流れに身を任せて進んで行く。

「ねえ勇太郎、及川先輩居るかな?どこかな?」

「お前はまたそれかよ」

「それしかないでしょ!何のために進学したと思ってるの!」

「勉強する為だろ!…それにしても、あの日はまさかお前が青城に入れるなんて思わなかったわ」

勇太郎が言うあの日、とは中学三年生の夏休み終盤のことだと思う
及川先輩が中学を卒業してから2年 会えない月日が募って、先輩への気持ちが薄れて行った中 私は同い年のタカシ君と付き合っていた。

クーラーの効いたタカシ君の家で夏休みの課題をしながら、借りて来たDVDのアニメーション映画を流してた。タカシ君は部活の話とか学校の話をするんだけど全然面白くなくて、私はぼーっと映画を見てた その時だった

縁側に座るヒロインと主人公。いろいろあってヒロインがぽろぽろ泣き出した。うろたえる主人公に向かって、彼女は自分の涙を止めろと言い出した。
何言ってるんだこの子は!と思うのも束の間 主人公はヒロインの小指をぎゅっと握る

「あ…」

「どうしたのなまえちゃん?」

「これ」

「あー、ここ?名シーンだよね」

何でもないそのシーンは私に大きな衝撃を与えた。言うなれば雷が落ちて来た感じ
私が泣いた時にこうして小指を握ってくれる人は誰だろう。優しくて大きな手が良い。そう考えたらタカシ君はどうも違う気がして、思い浮かぶのはずっと憧れていたあの人の顔だった。


気付けば私は捲し立てるようにタカシ君への別れの言葉を並べていて、机の上に広がっていた課題をガタガタと片付けて家を飛び出していた。
ミンミンと蝉が鳴く道を全力疾走していて、勇太郎の家のチャイムを一心不乱に押していた

ピーンポン ピンポーン ピンポン ピンポンピンポンピンポン

「うるせえ!!!」

「勇太郎!」

「何だよいきなり!お前彼氏の家に行ってたんじゃ…」

「私!青城に行く!」

「は!?」

「及川先輩に小指握ってもらうの!」

あの時の勇太郎の顔は今でも覚えてる。鳩が豆鉄砲を食らったようなって、きっとああおいうことを言うんだろうなあ

▼▼▼

「まあ何だかんだありましたが受かって良かったよ」

「中学の先生も皆絶対無理だって言ってたのにな」

「本当にね。在校生のために勉強方法を教えてくれとか言われたけど、あの時どうやって勉強してたのか覚えてないや」

「毎日参考書見ながらブツブツ呟いて、模試の前日は吐血してたな」

「恐すぎる。もう受験はごめんだよ…あ!!」

「何だよ!」

「勇太郎、どうしよう、居た!」

勇太郎の腕を掴みながら見る先には、新入生に配り物をしている及川先輩
ひいいい眩しすぎる!相変わらず格好良いよ!ていうか私新入生だもん、及川先輩のところに行っても良いってことだよね?

群がる新入生に混ざりながら及川先輩の元へどうにか近付こうとジタバタすれば
「はいはーい、じゅんばんこねー」なんて素敵なお声が聞こえてくる。及川先輩じゅんばんこ だなんて可愛いです…!格好良いのに可愛いこと言うなんて反則です先輩!!

ぎゅうぎゅう揉まれていれば、やっと目の前に及川先輩が。
目が合ったら心臓がますます高鳴って、金魚みたいに口をぱくぱくさせていれば、手の上に造花が乗せられた

「はい、入学おめでとう…ってみょうじちゃん?」

「お、お久しぶりです及川先輩」

「そうなんだ青城なんだね。金田一も一緒?」

「はい」

「そっか、三年間楽しんでね」

造花が乗っている手が熱い。人が多すぎて、及川先輩と再び言葉を交わすことは叶わなかったけれど、憧れの人が自分を覚えていてくれたことが嬉しくて嬉しくて胸がいっぱいになった。

「あ、勇太郎…」

そういえば勇太郎はどこに、と思えば美人な先輩に花飾りをつけて貰いながら真っ赤になっていた。バレー部のことを聞かれたのか、元気いっぱいに答える勇太郎を見ていたら、ちょっとだけ胸の辺りがもやっとする

「勇太郎、鼻の下伸びてるよ!」

会話が終わったのを見計らってそんな声を掛けてみた。勇太郎は「何言ってんだよお前は!」なんて言って小走りでやって来る。私たちのやり取りを見て、くすりと笑ったた先輩はやっぱり美人だった。私も三年生になったらあんな風になれるのかな。


▼▼▼

「これより、第79回、入学式を始めます。新入生一同が入場されます、拍手でお迎えください」

及川先輩にもらった花飾りを胸にして迎える入学式は何だか特別な気がして誇らしい。
血反吐を吐きながら頑張った受験勉強の甲斐があるというものだ。
校長先生のつまらない話の間、辺りをキョロキョロしてみれば、眠そうにアクビをする国見くんが目に入る。やばい、アクビ移りそう。

壇上に上がる新入生代表の子は、緊張しながらも立派な挨拶をしていて ああいう子ってゆくゆくは生徒会長とかになるのかなあ、それに比べて私はふわふわしているなあ…誇らしい入学式のつもりが、春の陽気に誘われて段々とまどろんでくる。寝てはいけない、と格闘しながらうつらうつらと及川先輩との学校生活に思いを馳せた。


▼▼▼

入学式が無事終わり、教室へ移動する為に渡り廊下へ出た時だった。
校舎のカーテンがひらひらと靡いて、その中に及川先輩の姿が見えた。及川先輩は誰かと話している様子で、それが物凄く柔らかくて優しい表情だったから驚いた。初めて見るその顔に胸の高鳴りと同時に切なさを覚えてしまう。

「ちゃんと前見て歩けよ」

「勇太郎」

足元を見ずに校舎ばかり見ていた私を勇太郎が叱る。分かってるって、と言いながらも校舎を見る目はそのままで、お願いだからもう一度及川先輩を拝めないかと睨むように見つめていれば誰かが窓辺にやって来た

「あ…」

さっきの綺麗な先輩だ。窓を閉められてしまって、ここからはよく見えないけれど 先輩が及川先輩に向けたであろうその表情もやっぱり優しくて柔らかくて…あの教室には2人のためだけの時間が流れている気がした。

「なまえ?」

急に歩みを止めた私を、勇太郎が心配そうに見つめる。
列をなしていた同級生たちは、私を避けて進んで行く。まるで川の中腹の岩みたいだ。
よどみなく流れていたその流れを害しているのを分かりつつも、足を縫いつけられたかのように動けない。

「とりあえず、こっち」

私の腕を引いた勇太郎は、列から離れたところに私を連れて行く。
どうした、とか具合悪いのか、なんて優しい質問が頭上から降りて来る

「及川先輩、彼女居る…みたい」

「みたい、って何だよ」

「確証はないけど、勘…みたいな」

「まだ分かんないんだろ?」

そうなんだけど、あの表情を思い出すとぎゅうっと胸が痛くなる。きっと私はどんなに頑張っても、及川先輩のあの表情を引き出せない気がした。あれ、じゃあ私は一体何のために頑張って来たんだろう。何に思いを馳せて来たんだろう。ぐるぐる回る思考回路の中で、重力に逆らえなくなった雫が目からぽとりぽとり、と流れていく

「なまえ」

勇太郎の声で紡がれた私の名前 それと同時に勇太郎が私の小指をぎゅっと握る。驚いて顔を上げれば、切なそうな顔をした勇太郎と目が合った。

「俺が、お前の小指ずっと握ってやるから…だから、俺のことも見ろよ」

勇太郎は何を言っているんだろう、驚きの余り涙は引込んでしまった。切なそうだと感じたはずの勇太郎の表情は強張っていて、頬が赤く染まる。

“いつか私が泣いた時に小指を握ってくれる人は誰だろう”
あの日願った通り、私の小指を握る手は優しくて大きな物に間違いはなかった。


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金田一勇太郎の場合
めぐみ