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3月に卒業式を迎えてわんわん号泣してからたった数週間でまた新たな新生活が始まる。3年間通う制服はピカピカで新しいし、ローファーも新調した。今日はわたしがこれから3年間通うことになる、青葉西城高校の入学式だ。中学の時の友達とは全員高校が別になって、知っている人は誰もいなくて不安になるし、これからまた違う友達ができると思うとやっぱりわくわくする。部活はなにに入ろうかな、とか今から考えるのもすごく楽しい。保護者と生徒の時間は別々だから、わたしは先に家を出た。電車に乗って、そのあとバスに乗る。まだバスは来ていなくて、停留所でドキドキしながら待っていると、わたしの後ろに一人並ぶ。見た感じ、同じ高校の制服を着ていたから、わたしと同じバスに乗る人なんだろうと後ろを振り向いて、さりげなく顔を見た。



「あ!!」
「?」
「(しまった)」
「あ」



 わたしの後ろに並んでいたのは、中学時代同じクラスだった国見だった。思わずビックリして声をあげてしまったことで、ヘッドフォンをしながらスマホをいじっていた国見が顔をあげて、バッチリと目が合ってしまった。気まずくて勢いよく前を向いて見なかったフリをする。入学式の緊張より今の方がド緊張だ。心臓がバクバク音を立てて鳴っている。落ち着け、落ち着けと言い聞かせるように心の中でたくさん唱える。そうしたら、ボソッと歯に衣着せぬ物言いで「え、酷くね?自分から振り向いたくせに」と言ってきたのは小さい声でもしっかり聞こえてきた。もう一度振り向いて「同じ高校だったんだね」なんて苦笑いをしたわたしはいま、ものすごく目の前の男に気を遣っている。それもそのハズ。なぜならわたしは…



「俺のこと追っかけて同じ高校にしたんじゃなかったの?」



 コイツのことが好きで、卒業式当日に告白をしたからだ。
 結果は勿論惨敗に終わってしまったわけで、落ち込みはしたけれどいつまでもくよくよしていても!と気持ちをリセットして国見のことは忘れようとしたばっかりだったのに、同じ高校で入学式さえ始まっていないのにこの仕打ちだよ、泣きたい。それに国見のことを追っかけて同じ高校になんてしてないもん。国見がどこの高校に行くかなんて知らなかったし、今日知ったし、ってゆうか今知ったし。



「偶然だもん…、国見が同じ高校とか、知らなかったし」
「そうなんだ。てっきり知ってんのかと思ってた」
「わたし直接聞いたことないじゃん」
「他のやつに聞かれたから、もしかしてって思っただけ」
「そんなことしないよ」



 会話が途切れて、お互いに気まずい雰囲気が漂う。国見はいつもヘッドフォンをしているイメージがあったから(昼休みとか机に顔を伏せながら音楽聞いてたし)今だってヘッドフォンしていっそのこと知らないフリをしてもらえたほうが楽なのに、一向にヘッドフォンをしようとしないどころか、スマホだっていじろうとしない。わたしもわたしで、前を向こうとしないというか、なんかできなかった。そうしたら、ちょうどよくバスが来て乗車する。二人用の席を一人で広々と使おうとしたら、国見が隣に座ってきた。えっちょっと待ってどういうこと?わたし、あのとき振られましたよね?不思議そうに国見を見たら、サラッといつもの無表情顔で「同じ方向に行くのに、別々っていうのもなんか変じゃん。」なんて言ってくる。ああ、そういうことね。変な感情を持って不思議そうに見たわたしがなんだか恥ずかしくなるし、告白をしてきた相手をこうして無視しないで友達として接してくれていることにもまだ嬉しいと思っている自分が居る。



「…金田一、知ってる?」
「へっ?」
「金田一勇太郎」
「あ、えっと…うん、あの、背おっきい人でしょ。バレー部の」
「アイツも同じ」
「えっ!?じゃあ影山くんも?」
「影山は違う」



 バスが目的地まで走っている間、国見から話しかけられた。国見って人と話するんだ、とか話しかけるんだ、とかすんごい失礼なことを思ってしまった。影山くん、という名前を出せば少し嫌そうな顔をされたけれど、国見から話しかけてきてくれるなんて中学時代は全くなかったから、やっぱり元(かどうかは定かではない)好きな人に話しかけてもらうと嬉しいし、ドキドキする。しかも、バスの隣の席でなんてまるでカップルじゃんこれ。距離めっちゃ近いし。



「…国見って、背おっきいよね」
「そう?普通じゃね」
「背の順でも後ろの方だったよね」
「あー、うん、そうだったかも」
「やっぱりかっこいいよ」
「は?」




 …ん!?わたし今なんて言った!?無意識に「かっこいい」なんてとんでもないことを本人の前で口にしてしまった!!国見もビックリして「は?」とか言うし…ってか驚いた顔もするんだとか超失礼な事考えてゴメン…。慌てて口を塞いだけれど言ってしまったあとにする行為は全く持って無意味に終わるわけで、ものすごく穴があったら入りたい引き籠りたい気持ちになった。



「ごめん今の聞かなかったことにして本当に!」
「お前…まだ俺の事好きなの?」
「違う違う!違うから、無意識に言っただけで…」
「聞かなかったことにすればいいんでしょ、じゃあそうする」



 なんて冷静な。それもそれでちょっと悲しいけど、わたしが言ったんだし、まあどうしてほしいなんてこともないんだけど…。そうする、といわれて次の言葉が思いつかなくて黙り込んだ。バスはずっと音を立てて走り続けているし、わたしたちと何人かの大人しか乗っていないバスは一瞬にして静かになる。「あ、次じゃね」行き先が表示されて国見がボタンを押してくれた。「うん」本当にさっきのことがなかったことにされているような気がして、ちょっと胸にささる。その数分後、バスが目的地に着いて、わたしたちは青城の近くで下車した。校門をくぐって、すぐにクラス表の看板で自分の名前を確認する。「人多くて、見えない」「あー待って」看板の前にはたくさんのわたしたちと同じ新入生の人だかりができていて、背の低いわたしは後ろから見てもなかなか見えない。ジャンプしたって到底見えやしない。隣に居た国見はつま先立ちなんかしなくても、普通に見えるらしくて、わたしのクラスを見てくれた。


「お前6組だって」
「ありがとう」
「あ」
「え?」
「俺も6組だ」
「…また同じなんだね」
「金田一5組じゃん」



 また国見と同じクラス。嬉しいような嬉しくないような、複雑な気持ち。一度リセットしたハズなんだけど、やっぱり本人を目の前にしてしまうと「好き」なんだよなあと思い知らされるというか。同じクラスだし、流れでそのまま一緒にクラスまで行くことになり、玄関で靴を履き替える。少し進むと、在校生の人が花を持って立っていた。



「入学おめでとう、いい思い出たくさん作ってね」



 そう言われて、制服の胸の部分に刺す花を手渡された。その人はとてもかっこよくって、目が合うとにっこり笑ってくれる。それだけでドキッとしてしまったわたしは、俯いてお礼を言った。新入生のわたしから見たら、先輩はやっぱり大人びていてかっこいい。花を手渡されて、ギュッと握る。後ろを振り向けば、その人の周りにはたくさんの列ができていた。(それも女の子ばっかり)たまたま並んでその人に当たったわたしはラッキーだったんだな。国見が「早く」とどうやら律儀に待っていてくれたみたいで、ごめんと断ってから隣を歩いた。



「ねえ!あの、女の子に囲まれてるあの先輩、すごい人気なんだね」
「及川先輩でしょ?」
「なんで知ってるの!?」
「同じ中学だったから」
「え!?あんな人同じ中学に居たら話題になるでしょ!」
「俺らが1年のとき3年だった人だし。それに部活の先輩だから」
「そうだったんだー…、すごいかっこいい人だった!かっこよすぎて目合わせられなかったよー」
「お前さ」
「え?」
「さっきの「かっこいい」も、そういう軽い気持ちで言ったの?」



 国見に冷たい視線が向けられて、エッ、なんて短い言葉しか出てこなかった。「まあ、いいんだけどね」と自己解決されて先に行ってしまう国見の後を追って、教室に入る。教室の席も決まっていて、さすがにそこまでは近くの席ではなかったけれど、席について担任がやってくるまでわたしは国見に言われた言葉がずっと引っかかっていて、そのことばかり考えていた。…聞かなかったことにしてくれるんじゃなかったの、国見。



「これより、第79回、入学式を始めます。新入生一同が入場されます、拍手でお迎えください」



 モヤモヤした気持ちのまま始まった入学式は、たくさんの人の拍手が体育館じゅうに響き渡った。校長先生のお話だったり新入生代表の挨拶は全く頭に入ってこなかった。当の国見は眠たそうにアクビをしているし。わたしは、国見に言われた言葉がものすごく気になっているというのに。



「国見!」



 入学式が終わって、HRが終了して解散したあと、わたしはすぐに国見のもとへ駆け寄った。保護者はまだ教室には来ていないらしく、国見が席を立ち上がろうとしたときにすかさず声をかけた。「なに?」とちょっと機嫌悪そうな声で言われてしまって、「引き留めてごめん」と謝っておく。金田一のところに行こうとしたんだけど、と小さい声で言われたけれど、そのまえにどうしても言いたかった。



「さっきのかっこいいは、…及川さん?とは違うかっこいいだから!」
「もしかしてさっきのこと気にしてた?」
「気にするよ!そりゃあ、…わたしの好きな人だし…、国見のは無意識で言ったっていうか…聞かなかったことにしてって言ったけど…やっぱり聞かなかったことになんて、しないで」
「うん」



 勇気を出して言った言葉にたった一言だけ。本当に思ってくれてる?と不安になってしまう。国見は一言返事でわたしに言うなり立ち上がって、金田一くんのところへ向かおうとした。けど、やっぱり振り向いてくれて、わたしのほうへと来てくれる。バスで隣だった時と同じくらい距離が近くて、ドキッとして一歩後ずさりした。



「俺も聞かなかったことにできそうにないわ、ごめん」



 小さい声で言われたのに、ハッキリと聞こえたその言葉ひとつだけで、わたしはものすごく嬉しくなる。それだけを伝えるなり国見はさっさと6組の教室を出て行ってしまった。一人取り残されたわたしを周りは誰も気に留めないどころか、ざわざわした声が教室中から聞こえてくる。…気持ちをリセットするのは当分できそうにないと、その瞬間思ったのだった。

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国見英の場合
さわだ様