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「賢太郎、アンタ今日入学式の手伝いじゃないの」
「うっせえなブス関係ねえだろ」
「女の子にブスって言うヤツ最低。チンカス野郎」
「チンカスなんて平気で言うヤツは女と認めねえ。黙れブス」
入学式の日、京谷家にて汚い言葉が応酬しているがこれはいつもの光景
幼馴染の私と賢太郎は親同士が仲良いのもあって兄弟のように育ってきた。その代償とでも言うのか普段からこんな言葉のラリーが続いている。
「つーか何しに来たんだよ。休みの日に予定もないのかお前は」
「失礼な。賢太郎が入学式の手伝いサボってるんじゃないかと見に来てあげたんでしょ」
「頼んでねえしふざけんなお前は母ちゃんか」
「こんな可愛げのない息子いらない」
「こんな口うるせえ母ちゃんいらねえから」
「うっざ」
「お前がな」
ああもう本当ムカつく 昔はもう少し可愛げがあったのになあ
私が男の子にいじめられてると走って来て「なまえのこといじめんな」って追い払ってくれたのに今や見る影もない。せっかく熱中していた部活にも段々行かなくなってしまって、今は一般のチームで練習させてもらってるみたいだけどなんだか心配になってしまう。
心配ついでに勝手ながら 賢太郎が唯一慕っているであろう岩泉先輩の存在を先日知って、賢太郎のことをこれからも宜しくお願いしますっていう旨の手紙を書いてしまった。生徒会に入っている友達に渡してもらえるよう頼んだから、きっと今日本人の手元に届くことだろう。賢太郎に知られたら余計なことすんなってマジギレされそうだなあ
「んで、何」
「何って?」
「だから、何か用あんだろ」
「まあ…用って程じゃないけど」
がさり、とポケットから出て来たのは今朝引いてきたおみくじの紙
賢太郎の目の前で広げて渡してやる
「んだよコレ…」
「おみくじだけど」
「見りゃ分かるわボケ」
「いちいち悪態ついてんじゃねえよクソ野郎」
「口の減らねえヤツ…これがどうした」
「賢太郎のだよ」
「あ?」
「今年、おみくじ引けなかったでしょ。だから引いてきた」
今年の年明け 珍しく一緒に初詣に行ったのだけれども、賢太郎が地元の不良と喧嘩をしそうになったので参拝も適当にしてさっさと帰って来てしまったのだ。
「末吉って微妙すぎんだろ。わざわざ見せにくる程のモンか?」
「ほら、ここ見て」
指を差したところには、現状から好転する的なことが書いてあって 私はそこを差してにんまり笑う。
「賢太郎さ、今年きっと良い方向に行くんだよ。だからバレー、頑張ってね」
「何でバレー限定なんだよ」
「だってバレーしてる賢太郎格好良いよ。だからきっとバレーのことだよ」
「…意味分かんねえ」
「私はそう思ったの!」
私の耳にしっかり届く程大きな溜息を吐いた賢太郎は、おみくじを畳むと机の上にがさつに置いた。
「お前のはどうだったんだよ」
「あ、引いてないや」
「は?」
「いや、何か賢太郎の分って思ってたから自分のはすっかり」
「…チッ」
え、今度は舌打ちしましたこの人!?一体何なの
苛立ったように立ちあがった賢太郎は上着を羽織ると私を睨みつける。
「行くぞ」
「どこに?」
「お前の分引きに行くんだろ。さっさとしろ」
「へ!?」
賢太郎がわざわざ私の為に動くとは…どういう風の吹き回し?
「今ならお前のことナンパしようとする物好きも居ねえだろうしな」
「私のこと?何の話?」
「初詣ん時、お前声掛けられてただろ。頭悪そうなヤツらに」
「え、ああ…ていうか賢太郎が頭悪そうとか言っちゃう」
「っるせーな」
「あれ、もしかして賢太郎…だからあのお兄さんたちと喧嘩しそうになってたの?」
「ペチャクチャうるせえ、早く行くぞ」
私を置いて部屋を出る賢太郎の耳がほんのり赤くなってるのが見えて、何だか私まで顔に熱が集まって来る。何だそれ、ずるいじゃないか
口が悪いし協調性がないしガサツだけど、だけどやっぱり私のことを守ってくれた賢太郎のままだったのが嬉しくて、軽い足取りで賢太郎の後を追えば「コケたら危ねえだろうがブス!」という暴言が飛んできた。
2年生の今年、賢太郎にとって良いことがありますように
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京谷賢太郎の場合
めぐみ